artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

田中功起 共にいることの可能性、その試み

会期:2016/02/20~2016/05/15

水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]

水戸芸術館の芸術監督、浅井俊裕さんが亡くなり(享年54)、水戸市内でのお通夜に出席する前に芸術館に寄る。不謹慎だが、お通夜のついでに見に行ったのか、お通夜を口実に見に行ったのか、自分でもわからない。田中功起の新作《一時的なスタディ:ワークショップ#4 共にいることの可能性、その配置》は、一般参加者がファシリテーターや撮影チームらと6日間一緒にすごし、朗読、料理、陶芸などのワークショップやディスカッションを行なった記録映像を中心に構成されている。時間がないせいもあって映像はほとんどスルーしたにもかかわらず(時間があっても見なかったと思う)、また、10人以上が6日間を過ごした濃密な体験にまともに向き合う余裕(精神的にも時間的にも)がないにもかかわらず、展覧会の印象が予想以上に悪くなかったのは、映像や仮設壁、ワークショップでつくった陶器などの配置が、一見混沌としながらよく計算されていて美しく、随所に挿入される言葉が適切だったからに違いない。田中の意外に確かなデッサン力がうかがえる。

2016/04/19(火)(村田真)

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TILT/ティルト コンクリート抽象

会期:2016/04/01~2016/04/30

メグミオギタギャラリー[東京都]

グラフィティライターの展覧会がつまらないのは、ふだん壁に描いてるイメージをそのままキャンバスに縮小再生産しようとするため、のびやかさも緊張感もスケール感も失われ、妙に矮小化されてしまうからだ。だいたいキャンバスに描くならスプレーを使う必要はなく、絵筆で描くべきだ。フランスのグラフィティライターTILTがユニークなのは、キャンバスではなく大きな壁面にスプレーなどで描き、それを分割してタブロー化していること。そのためTILTの作品はオールオーバーで、ひとつのまとまった全体性より、大きなピースの一部であるという部分性が強調され、そこに壁から直接切り取ってきた臨場感が付加される。だからのびやかさもスケール感も失われていないのだ。その壁があらかじめ用意されたものであるとしてもだ。今回はグラフィティを施された建物の側面をそのまま切り取ってきたような巨大作品も展示。

2016/04/16(土)(村田真)

第10回shiseido art egg 七搦綾乃 rainbows edge

会期:2016/03/30~2016/04/22

資生堂ギャラリー[東京都]

七搦と書いて「ななからげ」と読む。木彫だが、これがなかなかのクセモノ。干からびた植物(バナナの茎や皮らしい)に布を被せた状態を木に彫るというめんどうな作業だが、それがどことなく人体(しかもミイラのような異形の)を思わせるのだ。奥の部屋には《乾燥した大根の虹》と《乾燥したパイナップルの太陽》があるが、干し大根は虹というより胎児の干物みたいだし、干しパイナップルは太陽というより巨大な肛門に見えてしまう。一見地味だけど滋味あふれる彫刻。

2016/04/16(土)(村田真)

松山賢個展「ヒロインズモウコズエンコウズ」

会期:2016/04/01~2016/04/17

みうらじろうギャラリー[東京都]

謎めいたタイトルを分解すれば、「ヒロイン図」「猛虎図」「猿猴図」となる(最後は「援交図」かと思ったが)。ヒロイン図はロリ系の美少女図で、ヌードもあればマンコーズもあり、モネの《印象・日の出》など名画との合わせ技もあって3度おいしい。猛虎図はどう見ても子猫の絵で、長沢蘆雪の《虎図》が子猫ちゃんになってたり。猿猴図は牧谿をはじめ長谷川等伯や狩野派の絵師が得意としたテナガザルの図で、パステルカラーを多用してカワイさを強調している。小品が中心で、油彩、水彩、色鉛筆などさまざまな画材を用いている。芸術性のみならずポップ性や市場性まで視野に入れてる点、アーティストの鑑だ。

2016/04/16(土)(村田真)

「現美新幹線」試乗会

上越新幹線の越後湯沢駅から終点の新潟駅まで、現代美術で武装した新幹線が走るという夢(悪夢?)のような本当の話。車体の外装は蜷川実花が撮影した長岡の花火。景気よく火花が散って、これで事故など起こしたらシャレにならない。6両の車両には7人のアーティストが作品を展示している、というより、車内を作品化しているというべきか。いずれも新潟県や新幹線をテーマにした作品だが、新潟市の「水と土の芸術祭」のために撮った旧作をアクリルで固定した石川直樹や、沿線の風景を描いた絵をコピー?した古武家賢太郎の作品にはちょっとガッカリ。また、シートにデザインした松本尚や鏡面で抽象構成した小牟田悠介は車内インテリアと同化してしまっている。おもしろかったのは、カラフルな布切れを上下対称に組み合わせて宙づりにした荒神明香の作品。新潟県とも新幹線とも直接関係ないけど、地上ではありえない振動により微妙に揺れるという予想外の効果を見せている。高速で走る密閉空間に展示するのだから制約は多いとは思うけど、揺れる、窓の外の風景が変わる、半分近くがトンネル、展示空間(車両)が細長い、といった美術館やギャラリーにはない特質を作品に採り込めれば、「超特急アート」として名が残るだろう。どうでもいいけど、現美(ゲンビ)というネーミングはちょっと古くさくないか? 6月まで土日のみ、1日3往復運行。7月以降の情報はウェブサイトで確認を。

2016/04/12(火)(村田真)