artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
アイデンティティXI──ポスト・コンフリクト
会期:2015/03/06~2015/04/18
nca | nichido contemporary art[東京都]
内戦や領土問題などさまざまな争いをテーマにした9組のアーティストによるグループ展。アフガン戦争におけるアメリカの機密文書をシルクスクリーンにしたジェニー・ホルツァーの作品はストレートだが、茶葉を一辺20センチの立方体に固めたアイ・ウェイウェイの作品は、なんでここにあるのかわからない。潘逸舟は両端が柄になって刀身が抜けない《不戦刀》と、魚釣島が沈んでいく映像を出品。これはわかりやすい。同展のキュレーションを務めたブラッドレー・マッカラムも尖閣諸島を扱った作品を出している。マッカラムはほかに、アフリカや旧ユーゴの政治的指導者の顔もフォトリアリズムで描いてる。負の肖像画というべきものだが、だれがこれらの肖像画を見たい(買いたい)と思うだろう。こうしたソシオポリティカルな作品はそれぞれの社会的背景がわからなければ理解しにくいため、解説が必要となる。同展にも解説を書いた紙を配っているが、解説がない作品もある。廃車の上にたたずむアフリカの若者とヒヒを撮ったピーター・ヒューゴの写真《ウモル・ムルタラとスクールボーイ》もそう。ウモル・ムルタラというのが若者の名前だとすると、ヒヒがスクールボーイになってしまうし、若者がスクールボーイだとするとヒヒが姓名を持つことになる。はたしてそういう意図の作品なのか。
2015/04/11(土)(村田真)
他人の時間 TIME OF OTHERS
会期:2015/04/11~2015/06/28
東京都現代美術館[東京都]
グローバル社会だからこそ露呈してきた「他人」との時間的・空間的隔たり感をいかに埋め、どのように接続していくか。そんなテーマに、日本、シンガポール、オーストラリアの4人のキュレーターが選んだアジア太平洋地域のアーティスト18人が向き合った。フィリピンのキリ・ダレナの《消されたスローガン》は、50-70年代のデモの写真からスローガンを消したもの。デモというのはスローガンの内容よりデモ自体の形式に訴求力があるということがわかる。インドネシアのサレ・フセインは、独立運動が起こった30年代の写真を元に描き起こした絵を100点ほど出品。写真を絵に描くのは、声を出して歴史を読むのにも似た行為かもしれない。ここに河原温が出ているのはいささか唐突だが、「日付絵画」シリーズは(ほかのシリーズもそうだが)まさに「他人の時間」を表現したものだろう。いま挙げた作品はすべてモノクローム。色彩もテーマも人選も華やかさに欠けるなあ。
2015/04/10(金)(村田真)
山口小夜子 未来を着る人
会期:2015/04/11~2015/06/28
東京都現代美術館[東京都]
山口小夜子といえば、ぼくの頭のなかでは70-80年代の「西武ーパルコ文化」のファイルの近くに、三宅一生や山口はるみなどとともに乱雑に積み重なったたまま、忘れかけていた。晩年(といっても50代だが)アーティスト志向を強めていたのは聞いてたけど、まさか現代美術館で再会するとは思わなかったなあ。展示は、彼女の少女時代に親しんだ人形、絵本、雑誌などから、杉野ドレメ時代の作品、モデル時代のポスターや映像、寺山修司や天児牛大らとのコラボレーションの記録、森村泰昌、宇川直宏、山川冬樹らによる小夜子に捧げる新作までじつに多彩。こんなモデル、もう出ないかなあ。
2015/04/10(金)(村田真)
ふたたびの出会い 日韓近代美術家のまなざし──「朝鮮」で描く
会期:2015/04/04~2015/05/08
神奈川県立近代美術館葉山[神奈川県]
20世紀前半の日本の支配下にあった「朝鮮」の美術に焦点を当てた労作。当時は美術を指導するため多くの日本人画家が半島に渡ったため、在「朝鮮」日本人画家の作品が過半を占める。その日本人の作品は「朝鮮」の風俗をエキゾチックに描き出したものが多く、いわゆるオリエンタリズムといえるが、その日本人に学んだ韓国人の絵もオリエンタリズムに染まっていたりする。また在「朝鮮」日本人画家には知らない名前が多いと思ったら、戦後日本に引き上げてきた彼らは山口長男らわずかな例外を除いて不遇をかこったらしい。いわば差別していた側が差別される側に転換したのだ。さらに戦後半島が南北に分断されると、北へ向かう韓国人画家も出てきた。戦後来日(密航)して活動した後、北朝鮮に渡って消息を絶った曺良奎(チョ・ヨンギュ)もそうだ。曺の名はしばしば戦後の日本美術史に出てくるけど、作品をまとめて見るのは初めて。このように展示は第2次大戦で終わることなく戦後もしばらく続き、美術を軸にした日韓関係の複雑さをあらためて認識させられる。正直かなり疲れる展覧会だが、渡仏前の藤田嗣治の《朝鮮風景》、抽象以前の山口長男の風景画など珍しい作品も出ている。余談だが、カタログに寄せた李美那さんの「日本の近代美術には、韓国が直面してきた喪失感、矛盾、そして特に抵抗という要素に対応するものが弱い。(…中略…)韓国の美術家にくらべたときそれは、組織的・構造的な力を欠いており、意識/無意識を問わず支配者の目線に自らを置きがちな傾向があることは否めない」(「日韓近代美術──二重性を超えて」)との言葉にはグサッと来た。
2015/04/04(土)(村田真)
アート・イン・タイム&スタイル ミッドタウン Vol. 14「豊嶋康子、友政麻理子」
会期:2015/02/28~2015/05/17
タイム&スタイル・ミッドタウン[東京都]
家具を中心に総合的な住空間を提案するタイム&スタイルのショールームで、その「タイム&スタイル」と「ショールーム」を採り込んだ作品を展示している。豊嶋康子は家具の製造工程で出る廃材を用いてパネル状の作品を出品。パネルの表面はまっさらだが、壁にやや角度をつけて掛けているため裏面が見え、角材が組木細工のように組まれているのがわかる。表はフラットで情報量が少なく、裏は複雑でつい凝視してしまうという、表裏の意味合いを反転させるような作品。のみならず、家具のなかに置かれるとほとんど目立たない作品なのに、家具の廃材を用いたため周囲の商品とのあいだに微妙な不協和音が聞こえてこないか。友政麻理子はこのショールームを撮った写真を出しているが、なぜか人物の一部に虹がかかっているように見える。友政は色物をまとわせたスタッフに手足を動かすよう指示し、それを撮影したもの。すばやく動いた跡が虹のように見えるのだ。店舗に虹を出現させる発想が妙。
2015/04/03(金)(村田真)