artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
大英博物館展──100のモノが語る世界の歴史
会期:2015/04/18~2015/06/28
東京都美術館[東京都]
大英博物館のコレクションから100のモノを選んで人類の歩みをたどるという、たんなるコレクション展とは異なる好企画。出品は、東アフリカで発見された180-200万年前の礫石器をはじめ、日本の縄文土器、メソポタミアの《ウルのスタンダード》、ガンダーラの仏像、ルイス島のチェスの駒、マヤ文明の祭壇、アフガニスタンの戦争柄絨毯(照屋勇賢を思い出す)、クレジットカードにまでおよんでいる。趣旨から察するに、選択基準は個々のモノの芸術的価値より歴史的価値のほうが優先されるわけで、だからロゼッタ・ストーンは出したい、けど門外不出だ、困った、ってんでそのレプリカを出してきた。もちろんレプリカとことわってはいるけれど、展覧会としては異例の荒技といえる。でももっとすごいのは「サッカー・ユニフォームのコピー商品」。チェルシーFCのユニフォームでドログバのネーム入りだが、インドネシアで製造されペルーで販売されたニセモノ。これを人類の歴史の1点として選ぶのもスゴイが、そもそもこれが大英博物館のコレクションに入ってること自体スゴイといわざるをえない。さすが大英博物館、ウツワが違う。
2015/04/17(金)(村田真)
試写『沖縄 うりずんの雨』
会期:2015/06/20よりロードショー
「うりずん」とは琉球語で冬が終わって大地が潤い、草木が芽吹く時期を指すらしい。ちょうど70年前、米軍が沖縄に上陸した季節がそうだった。この映画は、日米のあいだで翻弄され、抑圧されてきた(それは意外にも160年以上も前のペリー来航時に始まり、そしていまでも続いている)沖縄の姿をさまざまな立場の人たちの証言によって浮き彫りにしていく。沖縄で戦った元米軍兵士や元日本軍兵士、元県知事の太田昌秀をはじめ地上戦で生き残った住民たち、辺野古への基地移転賛成派および反対派、そして戦後、沖縄駐留中にレイプ事件を起こして“珍しく”日本で裁かれた元米兵もインタビューに応えている(ただし3人のうち1人だけだが)。もちろんインタビュー映像だけでなく、アメリカ国立公文書館所蔵の記録映像も交え、また現在の米軍内の女性兵士に対するセクハラ問題にまで撮影対象を広げている。これほど視野が広くフトコロが深いのは、監督が『チョムスキー9.11』『映画 日本国憲法』などを撮ってきたアメリカ人ジャン・ユンカーマンだからだ。2時間28分はいささか欲ばりすぎという気がしないでもないが、ものたりないよりはるかにいい。ちなみに今日はたまたま安倍首相と翁長知事の初会談の日……。
2015/04/17(金)(村田真)
ペーパー・ドローイング
会期:2015/04/06~2015/04/18
開発好明の企画した5人展。画面にびっしりイクラが、と思ったらマッチ棒の頭を並べて描いた寺井絢香、マンガの記号表現を半立体化したような棚木愛子、アウトサイダー少女画みたいなやとうはるか、国会議事堂前に日の丸の落とし穴を掘ったような錯視画の吉野もも。以上4人とも多摩美を卒業した20代の女性作家だ。開発は昨年の香港の抗議活動に触発され、脈絡のない付箋紙のメモを仮設壁にびっしり貼ったインスタレーションを展示している。小部屋では壁を紙で覆い、5人でドローイングを描いてるのだが、脇に大中小の枠があって好きな部分を切り売りしてるんだと。これは、絵というものが作者の決めた枠内(画面内)で完結する世界だという考え方を覆す試みであり、また、号いくらと作品価格を決めているアートマーケットのパロディと見ることもできる。
2015/04/17(金)(村田真)
燕子花と紅白梅──光琳デザインの秘密
会期:2015/04/18~2015/05/17
根津美術館[東京都]
尾形光琳の300年忌を記念し、根津美術館所蔵《燕子花図屏風》とMOA美術館所蔵《紅白梅図屏風》の2点の国宝屏風を並陳している。この2点が並ぶのは、今上天皇が皇太子のときの結婚記念以来なんと56年ぶりという。でも半世紀前に比べてこれだけカラー印刷があふれ、ネットで自由に画像を検索できるようになった現在、この2点を実際に並べることのありがたみは確実に薄まってるような気がする。いや、よく考えれば逆に強まっているのかも。記者発表の講堂にも《燕子花図屏風》のレプリカが置いてあったけど、いまの技術からすれば精巧なレプリカを陳列してもたぶんだれも気づかないだろうなあ。
2015/04/17(金)(村田真)
佐藤翠 展「スプリング・クローゼット」
会期:2015/04/08~2015/04/14
伊勢丹新宿本店5階アートギャラリー[東京都]
クローゼットを中心に靴箱やジャケットやネックレスを描いたシリーズ。クローゼットは富士山型に棚を描いて奥行きをつくり、パープルやピンクを基調とする絵具の滴りが吊るされた服とともに垂直性を強める一方、画面上方のバーが水平性を確保して絵画構造を補強している。また服の柄が装飾性を強調し、画面に華やぎを与えている。靴箱は棚板が何枚か水平に走り、そのあいだにいろいろなハイヒールがさまざまな向きで置いてあるのだが、これがまたすばらしい。でも小品は「ついでに描きました」感が漂っていないか?
2015/04/13(月)(村田真)