artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

さいたまトリエンナーレ2016 開催計画発表会

会期:2015/03/25

国際交流基金JFICホール[東京都]

来年秋(2016/9/24-12/11)さいたま市内数カ所で「さいたまトリエンナーレ2016」が開かれる。ディレクターは別府の「混浴温泉世界」などを手がけた芹沢高志、テーマは「未来の発見!」というもの。なにをいまさらトリエンナーレだが、目指すところは「ソフト・アーバニズム(柔らかな都市計画)」。国際展という打ち上げ花火を上げて観客を呼び込むのではなく、街の営みに創造性を吹き込み、人々に開かれた祭典にするためにさまざまなアートプロジェクトを展開していこうというのだ。そのため内外からアーティストを招いて滞在制作してもらい、ここでしか実現できない作品をつくってもらうという。それは理想的だが、いうはやすし。さいたま市の予算が使われる以上(ほかの国際展と遜色ない額とのこと)それなりの観客動員が求められるはずだが、京都の「パラソフィア」がそうだったように、見て楽しめるアートプロジェクトなどほとんどないし、アートプロジェクトで人を集められるとは思えない。それを見越してか、総合アドバイザーの加藤種男氏は「動員目標は掲げず、むしろつくる側を増やしたい。10万人くらい」と発言。つくる側とはもちろんアーティストだけでなく協働する市民も含めてだが、ぜひ実現してもらいたい。

2015/03/25(水)(村田真)

小池隆英 New Works

会期:2015/03/14~2015/03/30

上野の森美術館ギャラリー[東京都]

1997年のVOCA展でVOCA賞を受賞した小池の個展。綿キャンバスにアクリル絵具を染み込ませた抽象画だが、かつて華やかだった色彩は抑え気味で、紫がかったグレーを基調に黄緑系を配している。茫洋とした画面で、いまどき流行らないだろうなあ、でもまた抽象画の時代が来たからわからないが。

2015/03/24(火)(村田真)

VOCA展──新しい平面の作家たち

会期:2015/03/14~2015/03/30

上野の森美術館[東京都]

今年で22回目という。初回からの常連選考委員4人は平均52歳から73歳へと高齢化し、もはやだれも引導を渡せなくなっている。ただ各地の学芸員やジャーナリストからなる推薦委員は少しずつ入れ替わってるので、新しい作家の供給にはこと欠かない(その推薦委員が選考委員の顔色をうかがってるようじゃ意味ないけど)。そんなわけで相変わらずVOCA調ともいうべきノーテンキな絵が散見されるものの、今回なぜか抽象イメージが急増している。そういえば昨夏の東京オペラシティでの「絵画の在りか」展も抽象が大半を占めていたっけ。でも見ごたえのある抽象画は少なく、むしろブラッシュストロークによる抽象パターンを巧みに採り込んだ水野里奈の、いかにもVOCA的な絵画が目を惹いた。こうした作品もさることながら、VOCA展のもうひとつの楽しみは少数ながら「平面」や「展覧会」という形式に挑戦する作品を発見することにもある。例えば、原発事故などを描いた十数枚の絵を部分的に重なるように組んだ加茂昂の作品。カタログの図版を見るとコンピュータの画面のようにフラットだが、実際にはキャンバスの厚みや隙間があるので立体的で、そうなるとキャンバスの側面や裏側も気になってくる。まだ工夫の余地はありそうだが、絵画の可能性として注目したい。さらに「VOCA展」そのものに真っ向から挑んだ(そして玉砕した)のが奥村雄樹だ。「会田誠に本気でVOCA賞を狙った絵を描いてもらう」などのプランが却下され、結局三つ目のプランである透明プラスチック板を壁に立てかけた。もし最初のプランが通っていたら、その絵は奥村の作品なのか、会田(年齢制限を10歳ほど上回ってる)の作品なのか。そしてもしそれがVOCA賞を獲ったりしたら、賞金はだれがもらうのか。また、受賞作品は買い上げられるが、買う側からすれば会田作品を市場価格よりはるかに安く購入できるチャンスではなかったか。なんて余計なことまで考えてしまいます。いずれにしても実際に展示されたのは、おもしろくもなんともない透明プラスチック板だけだったが。もうひとつ、形式としては平面だが、もっともVOCAらしくなく(それゆえ)もっとも心をざわつかせたのが村田峰紀の作品だ。悲惨なまでにささくれ立ったパネルの表面は、一見荒れ模様の風景にも、1本だけ残った木にも見えるが、これは合板をボールペンで何百回も引っ掻くというパフォーマンスの痕跡だという。ここには、おそらく洞窟壁画がそうであったように「描く(書く)」の根源が「掻く」であったろうことを思い出させる力がある。心がざわめくゆえんだ。

2015/03/24(火)(村田真)

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陸にあがった海軍──連合艦隊司令部日吉地下壕からみた太平洋戦争

会期:2015/01/31~2015/03/22

神奈川県立歴史博物館[神奈川県]

副題にあるように、慶応大学日吉校舎の丘の下に地下壕が掘られ、海軍司令部が使っていたという。ぜんぜん知らなかった。その地下壕から発掘・発見された司令部の備品や遺品を中心に、戦前の日吉周辺の地図や航空写真、地下壕の平面図、神風特攻隊の写真や零戦の部品、遺書、戦艦大和の模型、横浜大空襲の資料など200点近くを展示。日吉の地下壕はそそられるテーマだが、それだけでは地味な展示になってしまいそうだからか、本題から外れたものまで集めて第2次大戦全般を振り返っている。ちょうど敗戦70年でもあるし。連合艦隊司令長官の東郷平八郎を型どおり三笠艦上に描いた東城鉦太郎の《三笠艦橋の図》や、特攻隊出撃前らしからぬのどかな風景の御厨純一《神風特別攻撃隊「敷島隊」出撃の図》など、戦争画も何点か出ていた。ぼくが行ったのは最終日で、おまけに学芸員による展示解説と重なったためずいぶん混んでいて、珍しくカタログも売り切れていた。

2015/03/22(日)(村田真)

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澤田知子 展──FACIAL SIGNATURE

会期:2015/03/14~2015/04/19

MEM[東京都]

写真集『澤田知子 FACIAL SIGNATURE』全300点のなかから108点を選んで展示している。服も背景も黒なのでポッチャリ顔がズラリと並んで壮観。どれも無表情に近く、化粧も薄めで似たり寄ったりだが、目のメイキャップとヘアスタイルは異なっている。ひょっとして違う人も紛れてるんじゃないかと注意深く見てみたが、どれも鼻が同じなので全部セルフポートレートだとわかる。このシリーズはニューヨークに滞在したときの体験に基づいており、すべて東アジア人に見えるように扮装したもの。彼女の場合「元顔」にインパクトがあるので、いかに変われるかより、いかに変わろうとしても変わらないかが見どころかもしれない。

2015/03/21(土)(村田真)