artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展

会期:2015/05/26~2015/08/09

東京富士美術館[東京都]

16世紀初め、レオナルド・ダ・ヴィンチがフィレンツェのパラッツォ・ヴェッキオの壁に描いたとされる《アンギアーリの戦い》。その壁画の主要部分を描いた板絵《タヴォラ・ドーリア》が、関連作品や資料とともに公開されているというので見に行く。京王八王子からバスに乗ったら幸福の科学のリッパな建物が目に入る。どうして新興宗教の建物は擬古典主義が多いんだろう、と考えてたらその100倍くらいリッパな牧口記念会館が見えてきた。その先の創価大入口の向かいに東京富士美術館は建っている。ここにはティントレット、ブリューゲル、ルーベンス、ラ・トゥール、シャルダン、ターナー、ユベール・ロベール、ドラクロワなどそうそうたる巨匠たちの作品がある。でも大半は画集にも載らないような二流品だったり小品だったり、作品で選んだというより名前をそろえたという感じ。レオナルド作ともいわれる《タヴォラ・ドーリア》も、いったんは同館が購入したものだが、その後なぜかイタリア政府に寄贈。レオナルドの真作じゃなかったからなのか、いずれにせよイタリアにとっては貴重な資料に変わりなく、今回イタリア政府の協力により展示が実現したってわけ。でも展覧会はそんな裏話には関係なく興味深いものだった。1章では、フィレンツェ対ミラノ戦である「アンギアーリの戦い」を描いたレオナルド以前の絵とか、メディチ家を追放してフィレンツェを牛耳ったサボナローラの処刑シーンを描いたテンペラ画とか、15世紀のフィレンツェが紹介され、2章では《アンギアーリの戦い》を巡るメモや資料、模写、そして《タヴォラ・ドーリア》が展示され、3章では、この戦闘図の対面の壁にミケランジェロが描こうとしていた《カッシナの戦い》を巡る模写やスケッチなど、4章では《アンギアーリの戦い》に触発された17世紀の戦闘図が集められている。《アンギアーリの戦い》は未完に終わり、その後ヴァザーリのフレスコ画で覆われてしまったが、にもかかわらず同図はそれ以前ののどかな戦闘図を一変させ、ルーベンスやドラクロワに連なる密度の濃い迫真的な戦争画の手本になったようだ。その延長線上に藤田嗣治の《アッツ島玉砕》もあるんじゃないかと見てるんだけどね。最後に東京藝大がつくった《タヴォラ・ドーリア》の立体復元彫刻が展示されてて、その“フィギュア力”の高さに感心しました。

2015/05/29(金)(村田真)

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ルーヴル美術館展「日常を描く──風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」

会期:2015/02/21~2015/06/01

国立新美術館[東京都]

某文化センターの講座の最終回として見学。内覧会以来3カ月ぶりの訪問だ。会期終了まであと1週間なのでメチャ混みか、でも今日は特別開館日(ふだんは火曜休館)なので、そんな混んでないかも……などと思いながら着いてみると、そこそこ混んでるけど見られないほどではなかった。目玉のフェルメール《天文学者》の前に行くと鑑賞位置が2段構えになっていて、絵の前を通るので間近に見られるけど立ち止まれないというインコース、その外側からちょっと遠いけどゆっくり見られるというアウトコースの2コース制。もちろんインコースを何度回ってもかまわないし、インとアウトを行ったり来たりしてもいい。最近、このように見る人の多様なニーズに合わせ、同時に大量の観客をさばくために鑑賞方式を工夫するところが増えてきた。でもじっくり細部まで見ようと思ったらルーヴル美術館に行くのが一番。それがかなわなければ画集で見るのが二番。とくにフェルメールのような小さな作品は。

2015/05/26(火)(村田真)

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サイ トゥオンブリー──紙の作品、50年の軌跡

会期:2015/05/23~2015/08/30

原美術館[東京都]

初期の1953年から晩年の2002年まで、半世紀に及ぶ作品から約70点を出品。すべてサイ トゥオンブリー財団所蔵で、2003年にエルミタージュ美術館で開催され、欧米を巡回した展覧会を再構成したものだという。ザッと見て「なんだ紙ばっかりじゃん」と思ったけど、サイ・トゥオンブリの場合は紙に油絵具を塗ることもあるし、キャンバスに鉛筆で描くこともあるから大した違いはないかも。いやむしろ紙のほうがいいかも、と自分を納得させる。作風はもちろん50年のあいだに変化しているが、でもフリーハンドの線描を基本にしている点ではほとんど変わってない。子どもの落書き、というよりサルの絵を思い出したりもするが、こんなのを半世紀も続けるというのがすごい。それをちゃんと評価する人がいるというのもすごい。

2015/05/22(金)(村田真)

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試写「未来をなぞる──写真家・畠山直哉」

ぼくが最初に見た畠山の作品は、たしかビルが建ち並ぶ都市の遠景だった。それ以来彼は、コンクリートに囲まれた川、石灰工場、石灰石の鉱山、発破の瞬間と徐々に源流に遡っていく旅を続けてきた気がする。3.11の大震災後、被災した故郷を撮り始めたとき、旅を中断したのかと思ったけど、この映画を見たら、流された実家の基礎のコンクリート部分だけがしっかり残っていて、中断どころか同じ旅の延長線上にあることがわかった。想像以上に大きな川だったのだ。あと印象に残ったのは、ときどき掃除する姿が映ったこと、いまだフィルムしか使わないこと。写真家の鑑ですね。監督の畠山容平は親族かと思ったが、たまたま名字が同じの先生と生徒の関係だそうだ。

2015/05/22(金)(村田真)

《聖プラクセディス》

会期:常設展

国立西洋美術館[東京都]

フェルメールの《聖プラクセディス》を見に行く。この作品は2000年の大阪市立美術館で開かれた「フェルメール展」にも出ていたが、現在「フェルメール作」ではなく「フェルメールに帰属」になっているのは異論が多いからだ。しかしサインと年記(Meer 1655)が入ってるうえ、使われてる絵具がフェルメールの初期作品ときわめて近いらしい。でも同名の画家は17世紀オランダに複数いたことがわかってるので、決定打にならない。しかも、仮にフェルメールの真作だとしても、まだフェルメールらしさが表われてない初期の作品で、おまけにイタリアの画家フィケレッリの模写というから、ありがたみは薄い。そんな作品がなんで西洋美術館にあるかというと、もちろん美術館が購入したからではなく、だれか日本人が昨年オークションで10億円超で競り落とし、美術館に寄託したからだそうだ。でもまあフェルメールらしきものがあるというだけでも客は来るかも。

2015/05/17(日)(村田真)