artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

松山賢 個展「ハーイプシィ」

会期:2015/04/28~2015/05/17

みうらじろうギャラリー[東京都]

女の子、土偶、絵具などさまざまなモチーフを行ったり来たりしてる松山の、今回はエロばかりを集めた個展。チンコマンコを合体させた97年の彫刻「きもちいいからだ」から、女体の部分に花柄模様を被せた「ボディ」「ハーイプシィ」シリーズまで、エロエロあります。圧巻はS0号(18×18センチ)の画面に女性器を描いた連作。あっさりとした水彩もあれば、バーネット・ニューマン風の崇高な縦一線もあるし、克明な描写に装飾模様を重ねた油彩もある。値段を見ると、それぞれ2万、5万、8万円(消費税抜き)と3段階に分かれている。これはかかったテマヒマに比例しているんだろうが、買う側にとっては悩ましい価格設定だ。買いたいけど買えないけど。

2015/05/04(月)(村田真)

ダブル・インパクト──明治ニッポンの美

会期:2015/04/04~2015/05/17

東京藝術大学大学美術館[東京都]

ダブル・インパクトとは、幕末に開国してから日本が受けた西洋からの衝撃と、逆に西洋が日本から受けた衝撃という双方向的な影響関係を指す。美術に限らず、こうした異文化が衝突・融合したときの表現にはしばしば目を見張るものがある。出品は東京藝大と、藝大の前身である東京美術学校の設立に尽力した岡倉天心も深く関わったボストン美術館から、河鍋暁斎、小林清親らの近代的浮世絵、ワーグマン、高橋由一、五姓田義松らの初期油絵、狩野芳崖、橋本雅邦らの初期日本画、西洋で人気を博した超絶技巧の工芸品など多彩。いちばんインパクトがあったのは、チラシやポスターにも使われた小林永濯の《菅原道真天拝山祈祷の図》。ヒゲおやじが雷に打たれて身体を硬直させているシーンだが、まるで劇画じゃねーか。永濯のもう1点《七福神》も布袋の肉感的描写が妙にエロっぽくて衝撃的。また、朦朧体の例として出ていた横山大観の《滝》《月下の海》は、それぞれ垂直・水平を強調したミニマル日本画。とくに《滝》は女性器そのものに見える。黎明期の日本画は好き放題やり放題だな。なんでこの奔放さを持続できなかったのか。

2015/05/04(月)(村田真)

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第33回 明日をひらく絵画 上野の森美術館大賞展

会期:2015/04/29~2015/05/10

上野の森美術館[東京都]

602人、854点の応募から選ばれた136点の展示。会場をざっと見回して異様に感じるのは、まず作品が過密なこと。入選作品数は昨年の半分に絞ったものの、その分これまで前後2回に分けてた会期を1回に収めたため、密度は変わらない。それに、過半数の作品が正方形のS100号であるのも異様だ。サイズは100号までという制限があるのだろう。Sサイズだと長辺×長辺なので同じ100号でも面積がいちばん広くとれるってわけだ。もうひとつ、すべてに額縁がついてること。これも条件に含まれているのかもしれないが、同じ美術館でやってる「VOCA展」はほとんど額縁なしなので、おのずと絵の目指す方向性は違ってくる。はずなのに、両者の差異は縮まってる気がする。良し悪しではなく、前後左右の違いがなくなり、似たり寄ったり化しているのだ。もっと保守本流に徹するとか、立場をはっきりさせてほしいなあ。

2015/05/04(月)(村田真)

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没後100年 小林清親展

会期:2015/04/05~2015/05/17

練馬区立美術館[東京都]

これも日清戦争を描いた戦争画が出ているので見に行く。お目当ては、2月に静岡市美に行ったとき見られなかった《我艦隊黄海ニ於清艦ヲ撃チ沈ル之図》。清の戦艦が沈んでいく様子をまるで水族館のように水中から見た想像図なのだが、カタログでは気づかなかったけど実物を見て驚いたのは、沈没する船体に巻き込まれて沈んでいく無数の人間が細かく描かれていること。これは流体力学的にいえば理にかなった描写だと思うけど、なんでこんな不可視の情景を想像することができたんだろう。清親は最後の浮世絵師であると同時に、五姓田義松や高橋由一とともにワーグマンに習った最初の洋画家でもあり、かなり合理的な思考の持ち主だったのかもしれない。

2015/05/01(金)(村田真)

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近代日本の社会と絵画──戦争の表象

会期:2015/04/11~2015/06/07

板橋区立美術館[東京都]

鎌倉から乗り継いで成増で「戦争画」仲間と合流し、板橋と練馬をハシゴ。板橋区美は駅から遠いけど、コレクション展なので入場無料なのがうれしい。ほんとは公立美術館はすべて入場無料が原則のはずなんだけど。さて、タイトルは「戦争の表象」だが、第2次大戦前後(おもに30-60年代)に描かれた絵画を集めたもので、必ずしも戦争がモチーフになっているわけじゃなく、いわゆる戦争記録画は皆無。でも新海覚雄の《貯蓄報国》のような銃後の風景や、山本日子士良や古沢岩美のように従軍中に戦地で描いたスケッチもある。おそらく美術館としては、戦時中にもかかわらず戦争とは関係ない主題に取り組んだ松本竣介や麻生三郎、寺田政明ら新人画会をメインにしたかったんじゃないかと思うけど、それ以上に目立ったのが古沢岩美、福沢一郎、小川原脩、高山良策、山下菊二らシュルレアリスム系で、ざっと半数を占めている。板橋はとくに多く集めたのかもしれないが、30年代に一部でシュルレアリスムが猛威を振るったのも事実だろう。それにしてもシュルレアリスムと戦争とは近そうで遠い、およそ思想的にも表現的にも水と油のような関係のはず。だとすれば、シュルレアリスムから戦争画に流れた画家たち(同展には出品されていないが福沢も小川原も山下も戦争画を描いた)は、両者をどのように融合させたのか、あるいは融合させなかったのか、興味深いところではある。

2015/05/01(金)(村田真)

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