artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
単位展
会期:2015/02/20~2015/05/31
21_21 DESIGN SIGHT[東京都]
小6の息子と見に行く。長さ、重さ、時間などを計るさまざまな「単位」をモチーフとした展示。教科書みたいに1メートルは100センチで、とかいわれても「あーそー」で終わってしまうが、ここでは身近なものを使って比較し、また実際に体感してみるのでわかりやすい。たとえば一斗樽といわれてもピンと来ないけど、隣に一升瓶を10本、徳利を100本、お猪口を500個ほど並べてあるから一目瞭然。また、マッハ1(秒速340メートル)はどれくらい速いか見当がつかないけど、1秒間で東京タワーの高さを上回ると写真で示されれば納得するし、山道を走る自動車から撮った映像を早回しすれば実感もできる。おもしろいのは言葉の重み。「あ」から「ん」まで同じ材質でつくったひらがなを組み合わせて単語をつくり、天秤で計るというもの。「ちち」と「はは」では「はは」が重く、「おくさん」と「あいじん」ではわずかに「あいじん」が重かった(なにを計ってんだか)。で、いちばん軽いのは「へ」。言葉はけっこう正直なのだ。
2015/04/25(土)(村田真)
ヴァチカン教皇庁図書館展II──書物がひらくルネサンス
会期:2015/04/25~2015/07/12
印刷博物館[東京都]
紙の印刷からコンピュータへと情報メディアが大きく変換している現在、印刷博物館でヴァチカン教皇庁図書館展が開かれることはなにか象徴的な意味があるに違いない。なーんて深読みしたくなる。ヴァチカン教皇庁に図書館が設立されたのはルネサンス全盛期の15世紀なかばのこと。ちょうど印刷術の発明と同じころだから、書物のビッグバンとともに成長を遂げてきたことになる。出品はさまざまな言語の聖書をはじめ、ヘロドトス『歴史』、プリニウス『博物誌』、ウィトルウィウス『建築書』、デューラー『黙示録』、ユークリッド『幾何学原論』、トマス・モア『ユートピア』、ゲスナー『動物誌』など垂涎ものばかり。日本語があると思ったら、「天正少年使節からヴェネツィア共和国政府への感謝状」だった。それにしても西洋の書物というのは書体も文字組みも挿絵も美しいこと。こうした古書に惹かれるのは、そこに書かれてる内容もさることながら(ていうか読めないし)、文字や絵が記された紙の束という形式ゆえであり、硬い表紙にくるまれた四角い物体の存在感に負うところが大きいだろう。いってしまえばフェティシズムの対象なのだが、それは絵画も同じで、いくらディスプレイ上で画像が見られるようになってもタブローはなくならないはず。人類は表面になにか書かれた四角い物体が本来的に好きなのだ。
2015/04/24(金)(村田真)
トーキョー・ストーリー2015[第1期]
会期:2015/04/18~2015/05/31
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
TWSのレジデンス・プログラムにより、海外の都市で滞在・制作してきた伊藤久也(ソウル)、久野梓(ベルリン)、鈴木紗也香(バーゼル)、安野太郎(ベルリン)の帰国展。鈴木はバーゼルの男の子の部屋を描くことから発想を展開し、壁2面にマティス風の貼り紙をした上に室内を描いた絵を飾っている。しかもその画面に壁紙を部分的に貼って重層化させている。この「絵画インスタレーション」にはさらなる発展の余地がありそうだ。安野はルンバに自動演奏楽器を搭載してベルリンの路上を徘徊させた映像と、2カ月間の滞在中つけていた400-500字の日記を公開。同じくベルリンの久野は、抜け落ちた髪の毛でジャングルジムのようなキューブをつくったり、ひき肉とキウイジャムとの攻防をビデオにしたり、ある意味もっともベルリン的な作品を出している。彼女はもともとベルリン在住なのに、TWSのサポートを受けてあえてベルリンのレジデンスに滞在したという。いいなあベルリンは、なにやってもよさそうだ。
2015/04/24(金)(村田真)
小川千甕──縦横無尽に生きる
会期:2015/03/07~2015/05/10
泉屋博古館分館[東京都]
六本木一丁目の駅に着いたとき、そういえばよく知らないけどおもしろいかもしれない画家の展覧会をやってたなと思い出し、寄ってみる。小川千甕は明治から昭和にかけて活躍した画家で、少年時代は仏画を描き、20歳から浅井忠に洋画を学び、明治末には漫画家として知られ、渡欧してルノワールに会い、帰国後は日本画家として本格デビュー、晩年は文人画にも手を染めたという。こうした遍歴だけでも興味が湧くが、それが結晶するのは晩年の文人画だ。西洋画とも日本画ともいえないマンガチックで大胆な空間構成は、まさにタイトルのごとく縦横無尽。ちなみに名前は「せんよう」と読むが、近眼だったため「ちかめ」の名でも親しまれたらしい。まだまだ知られざる画家はいるもんだ。
2015/04/24(金)(村田真)
シンプルなかたち展──美はどこからくるのか
会期:2015/04/25~2015/07/05
森美術館[東京都]
リニューアルしていっそうシンプルさを増した展示空間に、「シンプルなかたち」がところ狭しと並んでいる。石や骨やダチョウの卵、幾何学的な曲面や結晶モデル、先史時代の石器や古代メキシコの立像、キクラデスの頭部像など「芸術」以前の造形物から、橋本平八の木と石による《牛》、ピカソの創作過程をたどれる連作版画(これも牛)、アニッシュ・カプーアの「孕んだ壁」まで、総点数130点。展示構成も時代や地域は関係なく、「形而上学的風景」「孤高の庵」「宇宙と月」といった恣意的な分け方をして、作品を引き立たせている。点数が多いのはうれしいけれど、とくに李禹煥の《関係項ーサイレンス》など、隣り合う作品が目に入って騒がしい。大量の作品をシンプルに見せるというのは難しいかも。
2015/04/24(金)(村田真)