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村田真のレビュー/プレビュー

震災から20年 震災 記憶 美術

会期:2014/12/16~2015/03/08

BBプラザ美術館[兵庫県]

県立美術館から歩いて5分ほどのBBプラザでも震災展をやっている。いやな言い方だが、東日本大震災の追い討ちがなければこんなに注目されなかったかもしれない。震災のストレートな表現は、県立美術館にも出ていた西田眞人による下絵を中心とした10点ほどの震災画と、白い瓦礫状の山を築いて石をたたく音を流す古巻和芳+あさうみまゆみ+夜間工房のインスタレーションくらいか。榎忠はさすがにスケールが違う。1500万年前の野島断層と、約1億年前の鞘型褶曲の化石を出している。ここまでスケールを拡張すると、阪神大震災が一瞬のちっぽけな出来事に思えてしまう。

2014/12/12(金)(村田真)

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阪神・淡路大震災から20年

会期:2014/11/22~2015/03/08

兵庫県立美術館[兵庫県]

静岡からひかりで新神戸へ。1月17日の20周年に合わせ、常設展示室でコレクションを交えながら震災をテーマにした展示をやっている。そもそもこの美術館自体、阪神大震災後「文化復興」のシンボルのひとつとして建てられたものだから、自館の成り立ちとコレクションをたどるだけでも震災に関連した展示になってしまうが、なかでも気になる作家をピックアップしてみると──。震災で倒壊した家に押しつぶされて亡くなった津高和一。ぼくは名前しか知らず、作品を見てもあまりピンと来なかったが、80年代前半に屋外にテントを張ってその中で展覧会を開いていたことを聞いて、ただの抽象画家ではないことを知った。具体の精神が引き継がれていたのか。被災地を撮った写真はおびただしくあるのに、被災地を描いた絵は少ない。西田眞人の《瓦礫の街》はその代表例といえるが、写真を元にした絵であれば写真以上の迫真力が求められ、苦心の跡がうかがえる。福田美蘭の《淡路島北淡町のハクモクレン》は、写真と絵の組み合わせ。画面下に倒壊した家とその脇に立つ木の写真を貼り、その上に木の幹をつなぎ、鮮やかな青空をバックに大きくハクモクレンの花が開いたさまを描いている。泣かせるのは、写真に「この木を残してやって下さい」と書いた板が木の枝にぶら下がってるのが写っていること。福田の絵は「こんなに花が咲きましたよ」という応答なのだが、花びらに混じって☆をたくさん描き込んでるのはどうなんだろ。写真では、震災から約10年後の被災地や遺体安置所を撮った米田知子のシリーズに注目したい。最大の被災地は更地と新築の家が写った風景写真になり、遺体安置所だった教室はなにごともなかったかのような室内写真になっている。震災を撮るのではなく、震災後の一筋縄ではいかない時間を捉えている。ところで、戦前に活躍した写真家の中山岩太による神戸空襲の戦災写真が何点か並んでいたが、まるで50年後の震災を予告しているかのようだ。

2014/12/12(金)(村田真)

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ヒトのカタチ、彫刻

会期:2014/12/16~2015/03/22

静岡市美術館[静岡県]

白くて広々としたロビーを使った展示。青木千絵、津田亜紀子、藤原彩人の3人の人体彫刻が床に置かれている。といっても青木は漆、藤原は陶、津田は樹脂に布を被せたもので、造形そのものより素材に目が行きがちな点で、彫刻というより工芸的な印象を与える。いずれもモノクロームを基本としながら要所に色彩を施しているので、白い空間にうまく映えている。ただし、床置きのため柵が必要なのはわかるが、やっぱり目ざわり。

2014/12/12(金)(村田真)

シェル美術賞展2014

会期:2014/12/10~2014/12/23

国立新美術館[東京都]

絵画を対象とする若手作家の発掘を目的とした公募展で、815点の応募作品のなかから52点の入選作品を展示している。15倍強の倍率を勝ち抜いたとはいえピンからキリまであり、しかもキリが多くてピンがほとんど見当たらず、絵画というものが一朝一夕では描けないものだということが再認識される。人物の頭上から木の枝が生えたような田淵麻那の《観葉植物A》は、色彩といい構成といい完成度が高い。これは保坂健二朗審査員賞。ビルの壁の「ル」の字のみクローズアップした大岩雄典の《ル》は、なぜ板に描いてるのかわからないけれど、クリーム色の地に青灰色が美しい。二股に分かれた木の幹のあいだから家族が笑顔を見せる黒木南々子の《華の家系図》は、わざわざ一人ひとり薄い板に描いたものを貼っている。むしろこうした一見無邪気に見える作品に絵画の別の可能性を感じてしまう。奥の部屋では過去に選ばれた作家によるセレクション展を開催。こちらはひとり数点ずつ出品していることもあって見ごたえがある。今井麗は日常的な食卓と人形をサラリと描いて気分がいいし、松尾勘太はできそこないのシュルレアリスムみたいで妙な魅力がある。一方、マンガチックな聖人に金の装飾を施した森洋史と、パイプや金網、噴煙などを描き込んだ吉田晋之介は、それぞれ背景と前面に津波や原発事故を出している。津波・原発はモチーフとして使いやすいし、免罪符にもなりかねないので取り扱い注意だ。ところで、毎年のことだが、会場には英語の作品リストはあるのに日本語のはない(なぜかセレクション展は日本語のリストがある)。以前なぜなのかたずねたら、日本語のリストはカタログに載ってるからということだったが、1000円は大金だ。とても手が出ない。再考を望む。

2014/12/12(金)(村田真)

石原友明 展「透明人間から抜け落ちた髪の透明さ」

会期:2014/11/29~2015/01/18

MEM[東京都]

白いキャンバスに細くて黒い曲線が無数に引かれた作品が6点。最初は髪の毛みたいだなと思ったけど、髪の毛のようにドローイングしてるのかも、それにしては曲線がうますぎるな、いやいや藤田嗣治なら面相筆で描けたはず、でもよく見ると手描きではなくプリントみたい、ひょっとしてCGか、などと考えていたら、ギャラリーのスタッフが「これは石原さんの髪の毛です」と教えてくれた。「お風呂に落ちてた髪の毛を集めたものだそうです」と。それをベクタデータ化して作成した「自画像」だそうだ。いろんなことやりよるなあ。

2014/12/12(金)(村田真)