artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ロイヤル・アカデミー展

会期:2014/06/01~2015/01/25

静岡市美術館[静岡県]

東京富士美術館でもやってたが、静岡に巡回するのを待って、大阪に行くついでに途中下車。なにしろ静岡駅から徒歩3分なので、八王子からバスに揺られて行くより便利かも。なわけで静岡市美術館に初訪問。ビルのなかの美術館だからギャラリーに毛が生えた程度だと思ってたら、あにはからんや天井高は4メートル以上あり、広さも展示室だけで1000平米を超す。県立美術館はもっと広々してるけど、ついでに寄るには遠いからな。でもなんでわざわざ途中下車してまで「ロイヤル・アカデミー展」を見に行ったかといえば、ちょうど30年前、初めてロンドンに行ったとき、初めて見た展覧会がロイヤル・アカデミーでやってた「17世紀オランダ風俗画展」で、そのとき初めてフェルメールのすごさとオランダ絵画の豊穣さを認識したからだ。以来ぼくのなかでロイヤル・アカデミーは、古めかしい建物ともどもクラシックな絵画の記憶と結びついているのだ。同展は、1768年のアカデミー創設から20世紀初頭までの150年間に活躍したレノルズ、ゲインズバラ、カンスタブル、ミレイ、サージェントらイギリス人画家の作品62点に、美術教育の資料を加えたもの。さすがアカデミーなだけにどの絵も古くさい。いまから見て古くさいだけでなく、おそらくそれぞれの時代においても古くさく感じられたのではないかと思えるほど古くさい。印象派の時代においていまだ古典主義だし、20世紀に入ってようやく印象派の影響が見られるくらいだから。ま、フランスだってアカデミーの画家は似たようなもんだったろうけど。カンスタブルは小さな習作はすばらしいのに、《水門を通る舟》みたいな油彩の大作になると安っぽい売り絵に見えてしまう。それはたぶん安っぽい風景画家がカンスタブルを手本にしたので、カンスタブルまで陳腐に見えてしまうのかも。チラシにも使われたミレイの《ベラスケスの想い出》は、ベラスケス特有のラフなタッチで衣服を描いてるのに、顔だけはていねいに描写している。そのため顔と衣服がチグハグで、観光地によくある顔の部分だけ丸く切り抜いた「顔出し看板」みたい。しかしもっとも印象深かったのは、チャールズ・ウェスト・コウプの《1875年度のロイヤル・アカデミー展出品審査会》。アカデミーの一室で重鎮たちが絵を審査している情景を描いたもので、突っ込みどころ満載なのだが、ひとつだけいうと、この審査風景っておよそ1世紀半も前のことなのに、いまの日展とほとんど変わらないんじゃないの?

2014/12/20(土)(村田真)

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未来を担う美術家たち17th──DOMANI・明日展

会期:2014/12/13~2015/01/25

国立新美術館[東京都]

「未来を担う美術家たち」「文化庁芸術家在外研修の成果」という、期待と事実を表わす2本のサブタイトルがついている。出品は12人(ほかに保存修復の3人も加わっている)で、年代は30代前半から50代なかばまで(年齢不詳が約3人)広がりがあるし、ジャンルも絵画、版画、ドローイング、彫刻、写真、陶磁、マンガ、アニメと多様。また、海外に派遣されたのは全員2000年以降だが、03-13年と幅があり、派遣先もヨーロッパ各国、アメリカ、インドネシアとさまざまだ。つまり文化庁のお金で海外に行ってきたという以外なんの共通点もないグループ展なのだ。まあ文化庁としては全員「未来を担う美術家たち」で収めたいのだろうが。でも見ていくうちに共通項が見つかった。ほぼ全員の作品がモノクロームかそれに近い色彩なのだ。と思ったら、後半の古武家賢太郎と入江明日香がカラフルだった。ガーン。とにかくトータルにはまとまりのない展示なので、個々の作品を楽しめばよい。雑巾に墨汁で年季の入った工場やクレーンを縮小再現した岩崎貴宏の「アウト・オブ・ディスオーダー」シリーズと、ドクロや鏡に過剰な装飾を施した青木克世の陶磁はすばらしい。岩崎の作品は川崎市市民ミュージアム所蔵となってるので、きっと京浜工業地帯の工場だろう。同じ目的で集う20-30人の人たちの顔を重ねて焼いた写真で知られる北野謙は渡米後、被写体を太陽や月に変えた。でも太陽や月を長時間露光で撮るのは珍しくないからなあ。一見、山口晃を思わせる入江明日香のJポップな屏風仕立ての絵が、実は銅版画(のコラージュ)だったとは驚き。これは売れそう。

2014/12/17(木)(村田真)

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伊東豊雄 展──台中メトロポリタンオペラハウスの軌跡 2005-2014

会期:2014/10/17~2014/12/20

ギャラリー間[東京都]

台湾・台中市に建設中の伊東豊雄設計によるオペラハウスの展示。外見は四角い箱だが、内部はドーナツの内側の曲線(円筒の両端を広げたような)を連続させた複雑な構造になっていて、要するに床、壁、天井の境界がないのだ。伊東によれば「これは人体になぞらえることができる。人の身体には多くのチューブ状の器官が存在するように、この建築の内部にも縦横無尽にチューブ状の空間が貫通しているからである。身体が口、鼻、耳などの器官を介して自然と結ばれているように、このオペラハウスも内外が連続する建築を目指したのである」。もちろんそんなややこしいことをしたらテマヒマかかることは目に見えてるので、このプロジェクトを円滑に仕切りたい総務課と、芸術性を重視する企画課がバトルを繰り広げたのではないかと想像する。もちろん実際にそんな課はないだろうけど、少なくとも伊東氏の頭のなかで両課はせめぎあってるのではないだろうか。考えてみれば、伊東氏も反対の声を上げたザハ・ハディドの新国立競技場案だって、総務課と企画課とのつばぜり合いにほかならない(そこに経理課と環境課も乱入してよけい複雑かもしれないが)。新国立競技場はともかく、オペラハウスのほうは着々と進んでいるそうだ。

2014/12/16(火)(村田真)

波濤──柿沼瑞輝 展

会期:2014/12/08~2014/12/28

ヨシミアーツ[大阪府]

DMの画像を見て、これは実際に見てみたいと思った。絵具がグチャグチャに塗られ、滴り落ち、投げつけられ、ところどころロープを張ったりバーナーで焼いたりしている。一見アンフォルメル絵画のようでもあるが、感覚的にはどこかポップで、デ・クーニングよりラウシェンバーグに、今井俊満より大竹伸朗に近い。あえて分ければ、これは抽象絵画ではなく、むしろグラフィティだ。

2014/12/12(金)(村田真)

山部泰司展「溢れる風景画2014」

会期:2014/12/16~2014/12/28

ラッズギャラリー[大阪府]

東西線新福島駅で降りて中之島近くのラッズギャラリーへ。山部泰司は80年代に花のイメージを画面いっぱいに広げた絵画で注目され、少しずつ変化して葉っぱのような抽象形態になり、一時は画面が金箔に覆われていたが、近年は樹木の生い茂る風景画に移行している。おもに関西で発表しているため数年に一度しか見る機会がないので、そのつど画風が大きく変わったように感じるが、基本的に植物をモチーフにしている点ではブレがない。風景画も数年前から続けているらしく、今回は赤茶色の線描で描き込んでいて、一見昔の銅版画を思わせる。小品には青色の線描もあって、こちらは西洋陶磁器の絵付けみたいだ。しかしよく見るとそんな懐古趣味的なものではなく、地面が水面というか水流のようになっていて、レオナルド・ダ・ヴィンチの洪水の素描、山水画、津波まで連想させる。というより、山部がレオナルドと山水画と津波をつなげたというべきか。また、水が雨になって地に降り注ぎ、樹液となって木を駆け上るという自然のサイクルも示唆しているのかもしれない。タイトルの「溢れる風景画」とは、水や樹木のあふれる風景画であると同時に、想像・創造あふれる風景画でもあるだろう。

2014/12/12(金)(村田真)