artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

新印象派──光と色のドラマ

会期:2015/01/24~2015/03/29

東京都美術館[東京都]

新印象派を、色彩理論に基づく点描技法の創始者スーラと、その技法を受け継いだシニャック、リュス、クロス、その他ベルギーの画家たちに限定してしまうとかなり地味な展覧会になる。なので、点描技法を試みたピサロ(1830年生)からドラン(1880年生)まで、いいかえれば印象派からフォーヴィスムまで約半世紀をカバーすれば、モネやマティスらビッグネームも入ってくるってわけだ(なぜかゴッホは外れてるが)。でも、狭義の新印象派だけでもいろいろ発見はある。もともと点描は絵具を画素のようにキャンバス上に置いていく技法だから、描く喜びに欠けるし、手仕事では限界があった。そんな欠点を彼らはいかにして克服していったか、できなかったか。たとえば筆触を大きくしたり、ぼかしたり、装飾性を強めたり、さまざまに試行錯誤した形跡が読み取れるのだ。そのあげく、最後のセクションでは色彩も形態もグズグズになり、やがてフォーヴィスムに回収されていく。新印象派がフォーヴィスムを方向づけたともいえるが、フォーヴィスムが新印象派を解放したともいえるのだ。そのへんの美術史のせめぎ合いがおもしろい。

2015/01/23(金)(村田真)

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小林亮介 展「森へ」

会期:2014/12/20~2015/01/25

名古屋造形大学黄金町サテライトスタジオ[神奈川県]

森を撮った幻想的な風景写真。のように見えるが、よく見るとどこか不自然。写真の下には「霧の背後に樹影が見えた。森の向こうにはまた森が続いているらしい」とか「幼い頃、限りなく続く山並みを画面の隅々まで描いた」とか「夢から覚めてまた夢の森を歩く。音は無い」といった詩のようなタイトルが記されている。これらの詩を読み上げた音声波形を森のかたちに合成したのが、この風景写真のように見えるデジタルプリントなんだそうだ。小林は30年以上も前に、たしか緑色の森のようなインスタレーションを神田の画廊で発表していた。いい作家だなと目をつけていたから覚えていたのだが、その後ドイツに留学し、以来30年ほど消息を聞かなかった。それが昨年、黄金町のY氏邸で遭遇。なんと名古屋造形大学の学長になっていた。作品は大きく変わったけど、森のテーマは一貫している。

2015/01/22(木)(村田真)

黄金町通路:再訪

会期:2015/01/10~2015/01/25

高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]

黄金町にはかつての売春宿を改装したアーティスト・イン・レジデンスがひしめく。そこで滞在・制作したアーティストたちの作品を通して、レジデンスプログラムの意義を問い直そうという趣旨。アーティストから見れば黄金町は通過点のひとつだから、タイトルは「黄金町通路」に。出品は加藤翼、和田昌宏、韓国のユ・ソラ、インドネシアのヤヤ・スンら7人で、それぞれ新作や滞在中のドキュメントなどを出している。なかでも目を引くのが吉野ももの襖絵。4枚の襖に透視図法で襖がずっと奥まで続いているように描いている。これをたんなるイリュージョン・アートとして片づけるのはもったいない。襖は日本では(日本にしかないか)絵の支持体のひとつであり、その襖に襖を描くという自己言及的な作品であり、もっといえば襖という字に隠れてる「奥」を視覚的に感じさせる作品でもある。その吉野が描いた黄金町の壁画は昨年のバザールの前に消され、ベトナムから来たライヤー・ベンが新たにグラフィティ風の壁画を制作。その制作過程をコマ撮りした映像もおもしろい。

2015/01/22(木)(村田真)

挿絵画家 依光隆 展

会期:2015/01/19~2015/01/31

文房堂ギャラリー[東京都]

3年前に亡くなった挿絵画家の回顧展。SF小説、児童文学、科学イラスト、法廷スケッチなど半世紀におよぶ画業を約250点の原画で振り返っている。ライフワークは1971年にスタートしたハヤカワ文庫の「宇宙英雄ローダン」シリーズらしいが、ぼくはそれ以前の児童書の表紙や挿絵でなじんでいたはず。はず、というのは、たとえば『海底2万マイル』とか、はっきり覚えてないけどたしかこんな挿絵だったという漠然とした記憶があるからだ。いわゆる美術史の名画を知るのはそれ以後のことだから、ぼくにとっては小松崎茂と並ぶ初期の絵画体験だった。当時は超絶技巧(そんな言葉なかったが)だと思っていたけど、いま見るとそうでもなかったりして。

2015/01/20(火)(村田真)

幻想絶佳:アール・デコと古典主義

会期:2015/01/17~2015/04/07

東京都庭園美術館[東京都]

1933年に竣工したアールデコ調の朝香宮邸を前身とする庭園美術館ならではの企画展。アンリ・ラパンの設計した建築や壁画、ルネ・ラリックによるガラス工芸など、館内の装飾を見せるだけでも展覧会として成り立つ。こんな美術館、日本には少ないでしょうね。新館には、1920-30年代のアールデコの画家たちによる古典主義の絵画が並ぶ。ジャン・デュパ、ルイ・ビヨテ、ロベール・ブゲオン、ジャン・デピュジョル、アンドレ・メールなど、ほとんど知らない名前ばかり。多くはキュビスムをいったん通過したのだろう、古典的なテーマの裸体画なのに妙に幾何学的なクセがある。だいたいこの時代はモダンアートの流れでいうと抽象かシュルレアリスムで片づけられがちなので、こんな古典主義がはびこっていたというのは驚きだった。はたして彼らの作品は前衛芸術に反発する保守勢力の趣味を反映した美学だったのか。というのも、これらの作品がナチス・ドイツに愛されたアドルフ・ツィーグラーやヨハン・シュルトらの古典主義絵画とどこか通じているような気がするからだ。

2015/01/16(金)(村田真)

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