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村田真のレビュー/プレビュー

ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎

会期:2014/09/13~2014/11/09

上野の森美術館[東京都]

先日見た「華麗なるジャポニスム展」もこの「北斎展」も、10月から三菱一号館で始まる「ミレー展」も、すべてボストン美術館の所蔵品展。なんでこんなにボストン美術館ばかりから借りるのかと思ったら、みんな名古屋ボストン美術館で開かれる展覧会の巡回展なのだ。入口を入ると正面の壁に北斎の浮世絵をアニメ化した映像が映し出される。いいのかこんなにイジって。壁はコーナーごとに少しずつ異なる色の紙を帯状に貼り、その上に絵を展示している。2階には茶室を模した休憩所が設けられ、北斎の描いた富士山の拡大図を見ながら休める仕組みだ。浮世絵は刷り物だから基本的に小さいし、どれもこれも似たようなもんだし、素材が紙なので照明を落としてるため、見てるうちに飽きてくる。その退屈感を打ち負かし、少しでも楽しませようという努力がうかがえる。しかしなんだな、浮世絵なんてえもんはひとり片手にもって楽しむもんでな、美術館なんぞに小ぎれいに並べてありがたく鑑賞させていただくような代物じゃねえんだよ。わーったか、このスットコドッコイ。と北斎は申しております。

2014/09/12(金)(村田真)

ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展

会期:2014/06/28~2014/09/15

世田谷美術館[東京都]

某文化講座の仕上げに再訪。講座では印象派を中心とする西洋絵画への日本美術の影響を語ったが、実のところ、今回の目玉であるモネの《ラ・ジャポネーズ》は、日本の芸術文化を採り入れたわかりやすい例であり、ジャポニスムの広がりのなかでは初歩的なものといっていい。もう少し影響が内面化していくと、どこがどれほど日本美術の影響なのかわからなくなるくらい自分のものにしてしまう。そこまできてようやく西洋が日本美術を血肉化したといえるのだ。その過程を示すのが「ジャポニスム展」の醍醐味であり、また難しいところでもあるだろう。特設ミュージアムショップには金平糖やらオリジナルふきんやらさまざまな便乗商品が売られていたが、なぜか特製レトルトカレーもあって「なんでだろう?」と思ったら、「カレーなるジャポニスム展」だからだ。なにかどんどんハードルが下がってきてる感じ。

2014/09/09(火)(村田真)

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あなたの都市の上に草は生える

会期:2014/09/06

都内某所[東京都]

札幌国際芸術祭で見逃したアンゼルム・キーファーのドキュメンタリー映画を、内々で上映するというので見に行く。林のなかに小屋が点在する風景が映し出される。アトリエなのかギャラリーなのかわからないが、作品らしきものが置いてある。重機を使って穴を掘り、地下神殿のようなグロッタをこしらえている現場も映し出される。途中キーファーへのインタビューが差し挟まれ、最後はコンクリートを積み上げて不安定な塔を建てておしまい。なんだこれ? 後にこれらが南仏アルデシュ県バルジャック村に構えた35ヘクタールに及ぶアトリエの一部であることがわかって、おったまげる。35ヘクタール? 想像がつかんが、うちより広い。ところでバルジャックといえば、20年ほど前に先史時代の壁画(ショーヴェ洞窟壁画)が発見されたヴァロン・ポン・ダルクの渓谷のすぐ近く。キーファーが移り住んだのも同じころ。とすれば、敷地内に洞窟を掘ってるのは偶然ではないだろう。

2014/09/06(土)(村田真)

高畑早苗「Metamorphosis」

会期:2014/08/26~2014/09/06

Galerie Paris[東京都]

一昨年亡くなった友人に捧げるオマージュ展。出品は、ボッシュかブリューゲルを思わせる楕円形の風景画に、ビザンチン風ともいうべき華麗な人物画、キャンバス地をドレス型に仕立てて絵を描いた「ウェア・ミー」シリーズ、それに小さな人物像をビーズやガラスで飾り立てたイコン風の装飾品など、形式もスタイルも多彩というほかない。ただ共通しているのは、どれも東洋的でも西洋的でもなく無国籍的であること、どれもアナクロニズム志向であること、どれもアンチフォーマルながら絵画を基本にしていること。そしてもうひとつ付け加えるなら、どれもこの世とあの世をつないでることだ。

2014/09/05(金)(村田真)

印象派のふるさと ノルマンディー展

会期:2014/09/06~2014/11/09

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館[東京都]

また館名が変わった。当初の安田火災東郷青児美術館は見る影もない。「ノルマンディー展」は、北仏ノルマンディー地方を描いた風景画に焦点を絞った、ありそうでなさそうな、でもありそうな展覧会。廃墟、荒天、夕日といったいかにもな舞台設定を好む19世紀前半のロマン主義から、コローやブーダンら無愛想で素っ気ない曇天模様のレアリスムを経て、一気に明るいモネの風景画へ移り変わっていく。その間に海辺が日光浴や海水浴などレジャーの場と化し、娯楽や産業が栄えていくさまが絵からも読みとれる。20世紀になると点描や表現主義が襲い、風景より画家の個性が前面に出てきて絵画が大きく方向転換していく。ノルマンディーという定点を観測するだけで、この一世紀のあいだに絵画にも人々の生活にもモダニズムの大波が押し寄せたことがよくわかる展観だ。しかし最後のデュフィはどこがいいんだかさっぱりわからん。

2014/09/05(金)(村田真)

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