artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
岡本光博「マックロポップ」
会期:2014/10/25~2014/11/22
eitoeiko[東京都]
青森県立美術館学芸員の工藤健志キュレーションによる、東京では21年ぶりの個展。なわけで東京では岡本光博というと、有名ブランドのバッグの生地を使ってバッタのかたちに縫製した「バッタもん」でLV社と小競り合いを繰り広げたり、京都にアートスペース「クンストアルツト」を開いて若手作家を支援したり、なんとなく「社会派」みたいなイメージがあるが(ぼくだけかもしれないが)、この個展を見る限りすがすがしいほど「ふざけた野郎」だ。青森県立美術館から巡回中の「美少女の美術史」展にも出ていた内藤ルネ風のイチゴを散らせた女子パンティを思わせる逆三角形の絵をはじめ、女の子の縮れ毛が入ってる《まんげ鏡》、「バックします」の警告音を聞きながら鑑賞する後背位の絵、自称「マグナム」のイチモツを上から目線で撮ってプリントしたネクタイ、針が6時を指すと同心円に毛の生えたマ○コ印になる時計など、基本的にドエロの下ネタばかりで安心した。もちろん社会風刺的な作品もあるけれど、正義より悪戯を、「白い偽善より黒い偽悪」(工藤健志)を重んじる。「マックロポップ」たるゆえんである。
2014/11/01(土)(村田真)
谷本真理 展
会期:2014/10/03~2014/10/15
BankARTスタジオNYK ミニギャラリー[神奈川県]
若手作家に発表の場を与える「アンダー35」のひとつ。ギャラリーに置かれたベッドやテーブルの上に電熱器を載せ、ポップコーンをつくっている。そのかたわらには器や動物らしき大小の粘土彫刻が。触ってみると紙粘土のようだ。一見アナーキーな状態をつくり出しているけど、いちおう秩序みたいなものはありそうだ。別になにが新しいわけでもないし、たぶん本人もスゴイことをやろうとしてるわけでもないだろう。こういうのがいちばん判断に困る。逆にいえば、いちばんアートらしいかも。
2014/10/3(金)(村田真)
改組新第1回日展
会期:2014/10/31~2014/12/07
国立新美術館[東京都]
昨年は不正審査問題で揺れた日展。今年から気分も新たに再出発することを、タイトルに「改組」「新」「第1回」としつこいくらいに並べてアピールし、理事長も女性日本画家の奥田小由女に交代、また外部からも審査員を迎えて心機一転……したかな? ではさっそく入ってみよう。3秒後、なんだほとんど変わってねーじゃん。日本画はいつになく新奇な作品が見られるような気もするけど(とくに伊東正次、池田亮太、三浦浩、米谷清和ら)、洋画は大半の画家がいつものモチーフをいつもの調子で描いて十年一日のごとし。なかには中学生並みの絵も入選していて、いったいどんな審査をしてるのか首を傾げたくなる。とくに今回は洋画に南嶌宏氏や本江邦夫氏も審査員に加わったというので、彼らがどんな作品を推し、どんな作品を拒否したのか知りたいところだ。いずれにせよ、本気で変革しようと思ったら、まず審査員を外部に一任し、会員とか理事とかいった序列をなくし、部屋ごとフロアごとのヒエラルキーもなくし、そしてなにより日本画・洋画・彫刻といったジャンル分けをなくすことだ。ちなみに今年は応募総数が約1割減の12,638点、総陳列点数は2,997点。今日1時間かけて見たのは日本画と洋画合わせて1,115点だから、1点につき約3秒。例年よりていねいに見ました。
2014/10/31(金)(村田真)
東京ミッドタウンアワード2014 受賞作品展示
会期:2014/10/17~2014/11/09
東京ミッドタウン プラザB1[東京都]
アートとデザインの2部門からなるコンペ。アートはテーマなしで6点が受賞。おもしろかったのは、コンクリートブロックを積み重ねた小さな壁に雑草が生えた原田武の作品と、道端に停まってる車を後ろから撮った加藤立の写真。だが原田の作品は素材がコンクリートでも植物でもなく、すべて金属でつくってるところがつまらなかったし(本人はたぶん金属でつくらなければ意味がないと思ってるはずだが)、逆に加藤は自分の誕生日と同じナンバーの車ばかり撮って毎日入れ替えるという、意味のないところがおもしろかった。原田はグランプリ、加藤は準グランプリを獲得。デザインは「和える」というテーマの下、8点が受賞。これで肉や魚を焼くと和文様がつくhitoeの《和網》、レインコートを鎧風にデザインした85の《鎧カッパ》、ハーモニカ型の皮にアンコを包んだwunit design studioの《ハーモナカ》、割れたせんべいを金でつないだ泉美菜子の《金継ぎ煎餅》、果物に刺す楊枝の先に「大吉」とか「小吉」とか書いた土屋寛恭の《おみく枝》など、なるほどと思う佳作が多い。グランプリ、準グランプリは《和網》と《鎧カッパ》。アートとデザインを比べるのもなんだが、はっきりいってアートは低調だ。それは応募総数でも差がついたし(アート357点、デザイン1,072点)、観客の投票数にも表われている(10月28日現在、アートは最低564票、最高1,080票、平均727票に対し、デザインは最低953票、最高2,980票、平均1,703票を獲得)。アートはデザインより興味を持たれてないということだ。でもデザインのほうが発想がせこいぞ。
2014/10/28(火)(村田真)
堀浩哉 展「起源」
会期:2014/10/18~2014/11/09
多摩美術大学美術館[東京都]
多摩美教授だった堀の退官記念展。最初の展示室は70年代のインスタレーションとパフォーマンスの再現(どちらの用語も当時まだ流通してなかったが)。床にぐしゃぐしゃにした新聞紙を敷き、壁には「REVOLUTION」という言葉を文章に挟んだ紙を貼り、その手前にグルッと木枠を立て、一部に白い布をかけている。そのなかで行なわれた堀ともうひとりのパフォーマンスの映像も流されていて、布を動かしながら「走れ!」「レボリューション!」「勇気!」「レボリューション!」「元気!」「レボリューション!」と掛け合いをやっていくのだが、これがナンセンス劇のようでおかしい。展示のほうは、高校3年のとき富山県展に出した油絵に始まり、多摩美闘争時代の《鑑賞を拒否する》、パフォーマンスの記録写真、3原色を用いた「プラクティス」シリーズを経て、80年ごろから始まる抽象表現主義的なタブローに移行していく。大作絵画は壁に1、2点だけ飾り、小品やドローイングは壁一面を埋め尽くすようにびっしり並べている。全体に簡潔で、説得力のある展示になっている……のだが、なにか足りない気がする。説得力があるのに足りないのではなく、むしろ説得力があるからこそウンウンとうなずいてしまい、そこになにか大切なものが抜け落ちてしまってる気がするのだ。高校時代は自分の描いた絵に納得できず、大学に入って「自己埋葬儀式」を行ない、闘争に身を投じたものの絵筆は折らず、絵画を解体して1から再構築し、やがてモネの晩年の絵に出会って描くことに没入していく……。展示を見ると、そんなひとりの画家の紆余曲折に満ちた歩みが、たった4室の小さな美術館のなかで30分ドラマのごとく完結してしまっているように見える。そこに違和感を覚えるのだ。しかも、そこが闘争で中退したものの30数年後に教授として迎えられた多摩美の退職記念展という場であってみれば、なおのこと「めでたしめでたし」で終わってはならないだろう。もっと大きな会場で、すべての作品を見てみたくなった。
2014/10/27(月)(村田真)