artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

東京オリンピックと新幹線

会期:2014/09/30~2014/11/16

江戸東京博物館[東京都]

いま東京オリンピックと新幹線の開通を覚えているのは、確実に半世紀以上生きてきた人たちだ。もちろん東京オリンピックといえば2020ではなく1964だし、新幹線といえばカワセミでもカモノハシでもなく、あの団子っ鼻をイメージするはず。そんな世代の人たちにとって(ぼくだ)この展覧会は垂涎ものにちがいない。展示は戦後のカストリ雑誌に始まり、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品が紹介され、従来の特急つばめ・こだまが出てきて、いよいよ新幹線の登場となる。こだま以上に速い、究極のひかり。この先もっと速い列車が出てきたらなんて名づけるんだろう、と子供心にも心配したものだ(まさか「のぞみ」にワープするとはね)。新幹線の工事と開通を伝えるパンフレットや新聞記事の書体に時代がにじみ出ている。そして東京オリンピック。こちらもパンフレットや売り出されたばかりのカラーテレビ、選手のウェア(とくに女子バレーボールのブルマ)などが時代を感じさせるが、亀倉雄策デザインのポスターはいま見ても新しい。ところでオリンピックには芸術展示がつきものだが、東京ではどんな展覧会が開かれたのか知らなかったし、美術史にも載ってない。それもそのはず「日本古美術展」(東博)と「近代日本の名作展」(東近)だもんね。ハイレッド・センターの首都圏清掃整理促進運動のほうが歴史に残るでしょ。

2014/09/29(月)(村田真)

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マリリンとアインシュタイン─神話的イコンに捧げる讃歌

会期:2014/06/07~2014/10/05

インターメディアテク[東京都]

アメリカ大陸を横断するグレイハウンド・バスの原寸大プリント、エルヴィス・プレスリーのサイン入り絵葉書、ジョー・ディマジオが銀座ミキモトで購入してマリリン・モンローに贈ったという真珠のネックレス、レーニン像に毛沢東像、安斎重男が撮ったウォーホルのポートレート、なぜかスバル360、そして赤瀬川原平の「大日本零円札」……これらの最大公約数はなにか? などと考えなくてもおもしろい展覧会だと思う。

2014/09/28(日)(村田真)

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ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 「遠く」へ行きたい

会期:2014/09/13~2014/11/09

東京ステーションギャラリー[東京都]

もう20年以上も前のこと、電通総研の知人に誘われて、たしか東銀座にあった藤岡和賀夫氏の事務所に遊びに行ったことがある。知人に「ディスカバー・ジャパンを仕掛けた人」と教えられたが、事務所は資料がきちんと整理されていてあまり仕事の匂いがしなかった。その日はさまざまなメディアの編集者たちが集ったので、きっとサロンのような場なのだろう、一発当てると20年後もこんなに優雅にすごせるのかとノンキに思ったものだ。その藤岡氏がプロデュースした「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンを、いまいちど「ディスカバー」しようという展覧会。展示は、藤岡氏の手がけたゼロックスのテレビCM「モーレツからビューティフルへ」に始まり、「ディスカバー・ジャパン」の新聞広告、テレビCM、国鉄のポスター、『アンアン』の旅行記事、時刻表、周遊券、駅に置かれたスタンプ、駅弁の包み紙、そしてテレビ番組「遠くへ行きたい」まで、実に多岐にわたっている。これを見ると、ぼくがどれだけこの「ディスカバー・ジャパン」にお世話になったか、というより乗せられたかがよくわかる。70年代初め高校生だったぼくは、休みごとに周遊券を使って東北、北陸、九州などを旅していたが、これは明らかにテレビ「遠くへ行きたい」に感化されてのことであり、CMの国鉄のキャンペーンに乗せられたものだった(カタログでも言及されてるが、「遠くへ行きたい」という番組自体が国鉄のCMだったともいえる)。それとは別に、高校は図らずもデザイン科を選んでしまったために、参考資料として創刊されたばかりの『アンアン』をいとこの女子大生から譲り受け、そのなかの旅の記事にも多いに刺激を受けていた。ということを、この展覧会を見ていまさらながら認識した次第。そっか、ぼくの人生の何分の一かは(少なくとも10パーセントは)藤岡和賀夫氏が決定づけたのかもしれない。

2014/09/28(日)(村田真)

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美少女の美術史

会期:2014/09/20~2014/11/16

静岡県立美術館[静岡県]

青森県立美術館で立ち上がり、静岡県立美術館を経て、島根県立石見美術館に巡回する企画展。なんで東京を素通りするんだよお、少女ものならオペラシティか水戸芸あたりでやってもいいだろ。と思ったらこの3館、4年ほど前に「ロボットと美術」展を共同開催した前科があり、今回はその延長線上に浮上した企画らしい。どうやら地方の公立美術館にはオタク度の高い学芸員が潜伏し、地下ネットワークでつながっているようだ。なわけで名古屋からの帰りに静岡で途中下車。展示は江戸初期の遊女図から春信、歌麿の浮世絵、竹久夢二や和田英作ら近代の美人画、そして現代の村上隆、タカノ綾、松山賢まで日本美術史から「美少女もの」を採集しているが、これだけだったら従来の美人画展と変わらない。ひと味違うのは、鏑木清方の「少女出世双六」とか水森亜土のイラスト、手塚治虫の「リボンの騎士」、岡本光博のイチゴ模様、初音ミク、美少女フィギュア、そして3館の担当学芸員が企画製作した新作アニメまで幅広く集め、美少女のモチーフを美術の枠を超えて文化(史)論にまで高めていること。なるほど、目からウロコほどではないけれど、ほっぺたが落ちるくらいはおもしろい。出品数も200件近くあって見ごたえ十分。こうして見ると、戦後つまり20世紀後半の美少女文化はサブカルチャーに占められ、美術系の入り込む余地がほとんどなかったこと、でもそれ以前と以後はサブカルチャーと美術が共存または合体していることがわかる。

2014/09/26(金)(村田真)

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塩田千春─マケット

会期:2014/08/30~2014/10/02

ケンジタキギャラリー[愛知県]

来年のヴェネツィア・ビエンナーレの日本代表に選ばれた塩田のマケットを中心とする展示。室内(箱の内部)に赤や黒の糸を巡らせて子供服や紙幣などを浮かせたものや、窓枠を集積して家のようなかたちにしたものなどいろいろある。ヴェネツィアで発表する予定のインスタレーションのマケットは2階の奥にある。展示室に2艘の舟を置き、天井から無数の赤い糸を垂らして1艘は宙に浮いた状態。それぞれ糸の先端には鍵が結びつけられている。赤い糸は血や命、人間の関係性を象徴し、舟は旅立ちや人生を連想させ、鍵は宝箱やパンドラの箱のように、大切なものや秘密のものを明かす文字どおりキーとなるものだ。このように強い象徴性を持つモチーフの組み合わせだけに、とくにキリスト教ではまた別の意味を持つかもしれず、どんな反応が来るか楽しみだ。

2014/09/26(金)(村田真)