artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
藤原京子 展「Gate──門」
会期:2014/06/25~2014/07/13
岩崎ミュージアム[神奈川県]
港の見える丘公園の近くにある岩崎ミュージアムでの個展。照明を落とした暗いギャラリーに、鉄柵みたいなものを段違いに配しているのだが、近づいて見ると鉄柵には割れたガラスが貼りついている。素材だけだと「もの派」みたいだが、もの派がモノの表面からホコリ(意味や物語性)を排除しようとしたとすれば、彼女は逆にモノの組み合わせや照明などで物語らせようとする。なにを物語らせるのかわからないけど、意味深なんだな。いってみれば舞台装置。そう、舞台装置というのは役者が登場すれば意味を放つけど、それだけでは自律できない。作品が役者を待つんじゃなく、作品が主役にならなくちゃ。
2014/07/01(火)(村田真)
笠原出 展「ふわりんぼ/トリートメント」
会期:2014/06/10~2014/07/06
トラウマリス[東京都]
笠原は90年代から、笑顔の亡霊みたいな「スマイル」を立体やインスタレーションで表現してきたが、06年から絵画に移行。ネットから拾ってきた富士山や陶器などの画像を正方形のキャンバスにアウトフォーカスで描き、上から金箔の「スマイル」を順序よく並べている。下に描かれた富士山が笑われてるようにも見えるし、賛美されてるようにも見え……ないか。
2014/06/28(土)(村田真)
ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展
会期:2014/06/28~2014/09/15
世田谷美術館[東京都]
モネの《ラ・ジャポネーズ》を中心に、ボストン美術館の所蔵品で構成された「ジャポニスム展」。1年の修復を経て初めて公開される《ラ・ジャポネーズ》は高さ230センチを超す大作で、色彩も鮮やかに蘇ってる(修復前は知らないけど)。でもね、団扇をベタベタ貼った壁の前で、赤い和服を着た金髪の白人女性が扇子を広げてポーズをとる姿は、考えてみればかなり悪趣味だ。だから現代にはぴったりマッチするのかもしれない。ほかにもゴッホ、アンソール、マティスらの絵画、ホイッスラー、メアリー・カサット、ロートレックらの版画、エミール・ガレのガラス器、そして日本の浮世絵や工芸品まで並べて、19世紀の欧米における日本美術の影響を探っている。すごいのは、これらがあっちこっちからかき集めたのでなく、ひとつの美術館から借りてきたものであることだ。西洋美術だけでなく、日本美術のコレクションでも知られるボストン美術館だからこそできたこと。ただ、ゴッホの模写した広重はあっても、ゴッホの模写自体はないんだよねえ。さて、今日は内覧会。《ラ・ジャポネーズ》の部屋に行ったら、作品の前で同じ着物姿の女の子がポーズをとってる。谷花音ちゃんという子役だそうだが、最近こういうの多いなあ。大きな展覧会の内覧会には必ずといっていいほどタレントが出てきて、目玉作品の前でフォトセッションをする。それはいいんだけど、10歳の女の子に「ジャポニスム展はいかがでした?」なんて聞いてどうする。「悪趣味だと思いました」と答えたらホメてやりたいけど。
2014/06/27(金)(村田真)
台北 國立故宮博物院
会期:2014/06/24~2014/09/15
東京国立博物館[東京都]
中国のお宝が台湾からやってくる。同じ台湾の「宝」でも、保険評価額でいえばヤゲオよりこちらのほうがはるかに高いはず。東博と東近の格の違いだ。ただ、金銀きらびやかな西洋やオリエントと違い、いかにも高そうなモノがないのが東洋のお宝。つまり目を刺激するものが少なく、ジミーちゃんなのだ。案の定、前半は書画が多くて退屈する。でも陳列ケースに展示された書画の上にその拡大写真が置かれ、色も明度もクリアなのでついそちらのほうばかり見てしまう。じゃあ手前のホンモノはなんのためにあるのか。後半になると磁器、刺繍、玉器など工芸品が増えて少し楽しめる。とくに《紫檀多宝格方匣》はミニチュア工芸品を入れたコンパクトなコレクションボックスで、箱の内部は小さな陳列棚になっており、西洋のヴンダーカマーをさらに縮小・凝縮したかたち。しかも展示室そのものがこの箱を模していて、入れ子状のミクロコスモスを強調している。そして最後に登場するのが、本館の特別展示室で限定公開される(もう終わっちゃった)最大の目玉《翠玉白菜》。翡翠を彫って白菜(+イナゴ)に見立てた高さ20センチ足らずの彫刻だが、台湾でもこの展示室の前には連日長蛇の列ができるほどの人気という。たしかに翡翠は宝石だけど、そんな貴重な石でわざわざ虫の止まった白菜なんか彫るかよ。白菜は純潔を、虫は多産を象徴するという説もあるが、じつは翡翠という高価な素材を庶民的な白菜に変えることで価値の転倒を図ろうとしたのではないか。一種の逆錬金術。それって現代美術の発想か。
2014/06/23(月)(村田真)
現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより
会期:2014/06/20~2014/08/24
東京国立近代美術館[東京都]
台湾の電子部品メーカーのCEOピエール・チェンが設立したヤゲオ財団のコレクション展。コレクションは台湾のアーティストから始まり、中国、欧米の現代美術へと広がっていったという。何人か挙げると、ロスコ、ベーコン、ウォーホル、リヒター、キーファー、ジョン・カリン、ピーター・ドイグ、グルスキー、ザオ・ウーキー、杉本博司、蔡國強といった顔ぶれ。あまり脈絡がないというか、選択の基準は「値が急上昇してるもの」じゃないかと勘ぐりたくなる。作品としてはオペラシティで紹介された石川コレクションのほうがおもしろかった。むしろ「美的価値」だけでなく「市場価値」を加味した展覧会の構成に興味がわいた。チラシや解説で作品の美的価値をたたえつつ市場価値をほのめかしたり(市場価値が美的価値を後押しする?)、もっと露骨に50億円で作品を買うゲームを用意したり。カタログもパートごとに扉の上段は美的価値、下段は市場価値の話題に書き分けている。つまり二枚舌。巻頭の財団理事長ピエール・チェンへのインタビューはつまらないが、その裏版ともいうべき保坂健二朗氏のQ&A「なぜ美術館でコレクターの展覧会が行われ、現代美術が『世界の宝』と呼ばれたのか?」は近年稀に見るおもしろさだった。とくに最後の「美術館とコレクターの関係」は目からウロコ。展覧会のカタログを(しかも国立美術館の)こんなにわくわくしながら読んだのは何十年ぶりだろう。いやー近美も変わったもんだとつくづく思う。いい意味でね。
2014/06/19(木)(村田真)