artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ランドマーク・プロジェクトV──小山穂太郎+石内都+川瀬浩介

会期:2014/08/01~2014/11/03

関内周辺[神奈川県]

今日はランドマーク・プロジェクトを重点的に探索。まず向かったのは鶴見線の国道駅。ここは5年ほど前、鶴見線の各駅を使ったアートプロジェクトをやっていたので訪れたことがあるが、改札口直結のガード下がレトロな飲屋街(現在は1軒しかやってない)になっていて、いまも昭和30年代の空気が淀んでいる。今回は閉店した店をおおうベニヤ板の上に、横浜港の海を撮った小山穂太郎の巨大なモノクロプリント約10点を展示。これはスゴイ。場所ともども一見の価値あり。次は馬車道駅近くの帝蚕倉庫へ。再開発のため1棟しか残っていない倉庫を囲む塀に、カイコの繭から生糸(シルク)、色鮮やかな絹織物まで撮った石内都の写真シリーズ「絹の夢」を並べている。帝蚕倉庫は文字どおりかつて主力輸出品だった生糸を保管するために建てられたものなので、倉庫の周囲から歴史をあぶり出すかっこうだ。ここにはもうひとり宮本隆司の作品があるはずなのだが、うっかり見落とした。その後ギャルリーパリに寄り、フランシス真悟キュレーションの「ミクスト・アップ!」を見て(レビューは省略)、1928年竣工の「キング」と称される神奈川県庁舎へ。1階に川瀬浩介の呼吸するように光る作品が置いてあるが、夏休み限定でビアガーデンとして開放された屋上にも、川瀬による光る植木鉢状のオブジェが20個ほど並んでいる。黄昏時に築90年近い建物の屋上で、ぼんやり明かりをながめながらビールを飲めるなんて、県庁も粋な計らいをするものだ。

2014/08/16(土)(村田真)

ランドマーク・プロジェクトV──楢橋朝子

会期:2014/08/01~2014/11/03

関内周辺[神奈川県]

桜木町・ぴおシティの地下通路に展示しているのは写真家の楢橋朝子。ふだんはポスターなどを貼ってる壁に、近くを流れる大岡川の水面すれすれから撮った関内外の風景写真を滑り込ませている。これもよく見なければなにかの広告写真かと思って通りすぎちゃいそうだけど、よく見ると風景はすべて仰瞰だし、どれも画面が斜めってるし、下のほうに水面が迫ってるし、明らかに異質だ。この地下通路はおそらく海抜0メートルかそれ以下なので、津波が来たり大岡川が氾濫してこの地下通路に水が流れ込んだら、きっと水面がこの高さに見えるに違いない。

2014/08/14(木)(村田真)

Under35──山下拓也

会期:2014/08/08~2014/08/20

BankART Studio NYK Miniギャラリー[神奈川県]

35歳以下の若手作家に発表の場を与える「Under35」シリーズ第1弾。暗いギャラリーに鳥にも似た異形のものたちが十数体、ブラックライトに浮かび上がる。なにかと思えば、かつて横浜フリューゲルスのマスコットキャラクターだった「とび丸」を模したものらしい。版木は巨木の根元をスライスした大きな板で、その表面を彫って紙にプリントし、それを切り抜いて組み立てたそうだ。だから版画でもあり、立体でもある。これはご苦労な力作だ。しかしなんでいまさら「とび丸」なんだろう。くまモンやふなっしーだったら生臭すぎるし、アートのモチーフとしてちょうどいい距離感なのかも。

2014/08/12(火)(村田真)

宝塚歌劇100年展──夢、かがやきつづけて

会期:2014/08/05~2014/09/28

兵庫県立美術館[兵庫県]

前日、中学校の同期会のため伊丹のホテルに宿泊。朝、台風が近づくなかJR伊丹駅から神戸方面に向かうが、暴風雨のため目的の灘の一駅手前の六甲道で停車、そのまま待てど暮らせど動かず2時間近く足止めを食らう。JRに平行して走る阪神と阪急は動いているのに、暴風雨でそこまで歩けないし、タクシーもほとんど走ってない。たった一駅がこんなに遠いとは。仕方なく駅の近くで昼飯食って、びしょぬれになりながらタクシー拾って美術館へ。結局カネは3倍、時間は4倍ソンした。別にそこまでして見たい展覧会ではないんだけど、それに東京にも巡回するんだけど、ここまで来て見ないで帰るのはシャクだからね。でもこういうときの美術館は狙い目、客がほとんどいないからゆっくり見られる。さすがの宝塚展も、会場にいた1時間ほどのうちにわずか3組の客しか見かけなかった(その3組はどこからどうやってきたんだ?)。その代わり監視のおばちゃんがやたら多い。展示品が細々してるうえ、熱狂的ファンが少なくないから監視の目を光らせているのだろう。まあ宝塚展に限ってはほかの美術展と違い、観客が多いほうがにぎやかで楽しいかもしれない。展覧会は、劇団創立以来100年の歩みをたどりつつ、スターのポートレート、大道具小道具、衣装、ポスターなどを展示している。大道具などは近くで見るとチャチイものだが、衣装やポスターは有名デザイナーに依頼するなど徐々に進化を遂げているのがわかる。でも展覧会としてはアートとしての宝塚というより、一般のヅカファン向けの催しといった風情だ。そのため美術館の意地を見せようとしたのか、最後に小出楢重、小磯良平、小倉遊亀、中山岩太ら阪神モダニズムの作品を特集し、面目を保っていた。

2014/08/10(日)(村田真)

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だまし絵II──進化するだまし絵

会期:2014/08/09~2014/10/05

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

だまし絵というと絵画のなかでも「詐欺」っぽくて芸術性は劣ると思われがちだが、極論すればすべての絵画はだまし絵といえなくもない。ただ詐欺性が濃いか薄いか、芸術性が高いか低いかの違いがあるに過ぎない。今回の「だまし絵」展は現代美術を中心に、詐欺性が濃く、しかも質の高い作品が集められている。現代美術中心とはいえ、プロローグにはアルチンボルドやヘイスブレヒツ、視点によって変容するアナモルフォーズ絵画など古典的作例が見られ、とくに本の集積で人物を表わしたアルチンボルドの《司書》が来ていたのはうれしい。近現代では、エッシャーとかマグリットとかヴァザルリといった詐欺性の濃いだまし絵は想定内だが、デイヴィッド・ホックニーのコラージュ写真、高松次郎の影の絵、チャック・クローズの指で描いたスーパーリアリズム絵画、杉本博司の「ジオラマ」シリーズ、トーマス・デマンドの模型写真、ヴィック・ムーニーズのゴミを集積した絵画、須田悦弘の植物彫刻など「だまし絵」で括るには申しわけないような良質のアートもあって、けっこう楽しめた。次回はぜひ、なんでこんな作品が10億円もするの?っていう「商業的だまし絵」のカラクリを紹介してほしい。ジェフ・クーンズとか、ダミアン・ハーストとか。

2014/08/08(金)(村田真)

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