artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
魅惑のニッポン木版画
会期:2014/03/01~2014/05/25
横浜美術館[神奈川県]
開館25周年を記念する展覧会……のわりに木版画だけに絞った、しかも自館のコレクションをベースにした地味な展示。だからタイトルだけでも「日本」ではなく「ニッポン」にして、おまけに「魅惑の」をつけて客を呼ぼうとしたのか、などと邪推はしない。展示は、江戸末期の歌川豊国(三代)あたりから月岡芳年、小林清親、竹久夢二、川瀬巴水、柄澤齊、風間サチコあたりまで200点以上ある。このなかで、サイズといいテーマといい見せ方といい、よくも悪くも木版画の概念を踏み外し、トリックスター的役割を果たしてるのが最後のほうの吉田亜世美と風間サチコのふたり。もはや「魅惑の木版画」という枠を破壊してしまっているのだ。ちなみにこのふたりの作品は大半が個人蔵となっているけど、横浜美術館がまとめて買っちゃえば?
2014/04/22(火)(村田真)
都築響一「独居老人スタイル」展(前期)
会期:2014/04/05~2014/04/29
ナディッフアパート[東京都]
過激な暴走老人、と本人たちは思ってないはずで、ただ社会の規範から多少はみ出してしまう一人暮らしの独居老人を取材した都築響一の快著『独居老人スタイル』。そこに登場するアーティスト(と呼んでいいのか)たちのポップでキッチュな「作品」を2回に分けて紹介している。前期は、閉館して半世紀にもなる本宮映画劇場を守り続けてきた田村修司をはじめ、早稲田松竹映画劇場お掃除担当の荻野ユキ子、画家の美濃瓢吾、日曜画家の川上四郎の4人。このうち美濃は唯一プロといえるが、あとの3人は怖いもの知らずのシロート。ピンク映画をはじめとするB級映画のポスターで壁を埋め尽くした田村も、ヘタな絵だけでなく妙に生々しい女性ヌード写真を出してる川上も滋味深いが、もっとも戦慄的なのが荻野ユキ子。彼女はスーパーで売ってる食品トレイをベースに、プラスチックの笹や人形などの廃品を組み合わせ、箱庭のように仕立てたオブジェを映画館に設置してきた。そのチープでゴージャスな小宇宙を数十個テーブルにびっしりと並べている。いったいなんのために? だれのために? などと考えてはいけない。ただ創作衝動にかられてつくり続けてきた、というのが真実だろう。このたくましい創造力! その創造力が社会に与える破壊力!
2014/04/22(火)(村田真)
キトラ古墳壁画
会期:2014/04/22~2014/05/18
東京国立博物館[東京都]
7~8世紀に造営された奈良県明日香村のキトラ古墳の石室内に、壁画が発見されたのは1983年のこと。壁4面に青龍、朱雀、白虎、玄武の四神、天井には天文図が描かれているのだが、漆喰の剥離が著しいため壁面をはがして修理作業が進められている。今回公開されたのは朱雀、白虎、玄武の3面と、それぞれの下に描かれた十二支のうちの子と丑の計5点。ぶっちゃけ、墓の内壁を引っぺがして公衆の面前にさらしてるわけで、別に罰当たりとは思わないけれど、これらの壁画も一種のサイトスペシフィックワークと考えれば、やはり博物館で鑑賞するのは違和感があるなあ。もちろんそれによって実物と対面できるわけだから文句を言える立場じゃないけど。今回は陶板による壁画のレプリカも展示しているが、こうしたレプリカはひとつの解決策になるかもしれない。これから3Dプリントの技術も発達するだろうし、ますますホンモノに近づくから美術館や博物館での需要は増えるに違いない。でもそうなると贋作や著作権問題が多発するかもね。それはともかく、ちょっと不思議に思ったのは、カメとヘビが絡み合う玄武の描かれた壁面が、ちょうどカメの甲羅のかたちに剥がされてること。偶然? わざと?
2014/04/21(月)(村田真)
楊子弘「立会人」
会期:2014/04/18~2014/04/20
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
台北市と横浜市のアーティスト交流プログラムで横浜に滞在し、BankARTで制作していたヤンさんの成果発表。ヤンさんは立体、映像、インスタレーションとさまざまな手法を用いて現代社会を考え直す作品をつくってきたが、今回は基本的に絵画に絞り、台湾の立法院を占拠していた仲間たちへの連帯をアピールした。作品はヒマワリの絵、星条旗のような赤と青の国旗、黒いキャンバス、それにSNSで運動に賛同した人たちの名前など、台湾人にしか理解しにくい要素で構成されている。きわめて政治色の濃い、それゆえ効力は強くても賞味期限の短い作品。この時点ですでに日本では忘れられつつあった事件だし。
2014/04/18(金)(村田真)
ニコラ・ビュフ──ポリフィーロの夢
会期:2014/04/19~2014/06/29
原美術館[東京都]
日本に住むフランス人アーティスト、ニコラ・ビュフの美術館における初個展。巨大な動物の口を通って美術館に入ると、まず解説パネルを読むよう勧められる。そこにはポリフィーロの冒険物語が書かれており、その物語に沿って各部屋に設置された作品を見て回るという手の込んだ仕掛け。作品は植物が絡み合うような西洋の装飾模様をベースにしながら、壁画、立体、そしてインタラクティブなマルチメディア・インスタレーションなどに展開している。でもオタク的な感性を持つ彼自身の興味は装飾模様より、西洋の古典と日本のロールプレイングゲームとの融合にあるらしい。いずれにせよ、邸宅として建てられた原美術館の空間をここまで活用して作品化した例はほかにないだろう。軽快にして重厚な展覧会。
2014/04/18(金)(村田真)