artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

MOTアニュアル2014「フラグメント──未完のはじまり」

会期:2014/02/15~2014/05/11

東京都現代美術館[東京都]

珍しい双子の女性アーティスト高田安規子・政子は、軽石を削って古代ローマ遺跡に見立てたり、100円ショップで買ったゴム吸盤に切り込みを入れて江戸切子にしたり、ハイ&ロウ、過去と現在、東と西、大と小をミキシングしてお手軽な作品に仕上げてる。青田真也はガラス瓶やプラスチックボトルの表面をヤスリで削り、表面にあった文字や記号を消し去ることで匿名の物体に変えてしまう。吉田夏奈は立体の表面に風景や石の模様を描くことで、立体の絵画化と絵画の立体化を実現させようと試みている。みんなちょっとした思いつきを手際よく身近な日用品で表現していて感心する。でも、発想力を競う一発芸で終わらないように。

2014/04/04(金)(村田真)

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驚くべきリアル──スペイン、ラテンアメリカの現代アート

会期:2014/02/15~2014/05/11

東京都現代美術館[東京都]

「驚くべきリアル」というタイトルから、またアントニオ・ロペスなスペイン・リアリズム絵画を連想したが、ぜんぜん違う現代美術展だった。これは「日本スペイン交流400周年」事業のひとつで、スペイン北西部のカスティーリャ・イ・レオン現代美術館(MUSAC)のコレクションから27作家の作品を紹介するもの。マドリッドのレイナ・ソフィアでも、バルセロナ現代美術館(MACBA)でもないところが希少だ。映像や写真など姑息な作品が多いなか、巨大壁面を89枚の絵画で隙なく埋めたエンリケ・マルティの《家族》は圧巻。サイズの異なる正方形の板に油彩で家族のスナップ写真をサラサラッと描いたもので、なかに血まみれの子どもの絵もあって驚くが、これはキリスト教の儀式に由来するパフォーマンスで、血はフェイクだそうだ(もちろん絵だけど)。家族の絆が強く、カトリック色の濃いラテン系ならでは作品。もうひとつ、同じ部屋にあったサンドラ・ガマーラの《ガイドツアー(リマ現代美術館LiMacカタログ)》にも注目した。リマ現代美術館のカタログを1ページずつ描いているのだが、そんな美術館は存在しないし、もちろんカタログもない。架空の美術館をでっち上げ、カタログ(だけでなくグッズも)をつくっているのだ。たとえばジョアン・フォンクベルタの旧作のように、架空の物語に従って連作をつくる手法はよくあるが、写真やCGではなくアナログな絵によって再現するところがうれしい。

2014/04/04(金)(村田真)

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ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション

会期:2014/04/04~2014/05/25

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

19世紀ミラノの貴族ポルディ・ペッツォーリの集めた絵画、武具、タペストリー、時計、ガラス器などのコレクションを公開。こういう貴族のコレクションを邸宅ごと公開しているところでは、やっぱり壮麗な室内空間のなかに置かれた作品をその場で見るから価値も倍増するんであって、作品だけ持ってきて見せられても身ぐるみはがされたみたいでちょっと貧相に映ってしまう。ともあれ、絵画は14世紀の祭壇画から、マンテーニャ、ポッライウォーロ、ボッティチェッリなどルネサンスのイタリア絵画が中心だが、最後のほうにフォンタネージの風景画があって不思議な感じがした。いうまでもなくフォンタネージは、明治初期に日本最初の美術学校である工部美術学校で2年間教鞭をとった画家。つまりわれわれから見れば横のつながりの人なので、こうして西洋(イタリア)美術史という縦の流れのなかに組み込まれると、外国の街で唐突に日本人と出くわしたときのように、「やあこんなところで」と親しみを覚えると同時に居心地の悪さも感じるのだ。

2014/04/03(木)(村田真)

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没後百年 日本写真の開拓者 下岡蓮杖

会期:2014/03/04~2014/05/06

東京都写真美術館[東京都]

日本最初の写真師のひとりで、幕末に横浜で写真館を開いた下岡蓮杖の初の本格的な回顧展。1823年生まれというから、洋画の先駆者・高橋由一や五姓田芳柳とほぼ同世代。3人とも最初は絵師を目指したが、由一や芳柳が西洋画を見て憧れたのに対し、蓮杖はたまたま目にしたダゲレオタイプに衝撃を受けて写真に転向する。こうした人生の分かれ道はほんの偶然によるものだ。とはいえようやく開港するかしないかの時代、だれも写真術なんか知らないので外国船の入る下田(出身地でもある)や浦賀をうろつき、要人に食い込んで習得したという。こうして開港まもない横浜で写真館を開業するが、明治8年に東京浅草に移転。この前後から写真館の背景画やパノラマ画を描いたり、乗合い馬車を始めたり、夫婦でキリスト教の洗礼を受けたり、洋画を展示して観客にコーヒーを振る舞う油絵茶屋を開いたり、多彩な活動を展開し、晩年は絵画制作に明け暮れたという。結局、蓮杖が写真に専念したのは90年を超す長い人生のうち、横浜ですごした10年ちょっとのあいだだけで、今回の展示の大半もその時代の写真に占められている。あとはそれ以降の水墨画や同時代の資料などだ。ヤマッ気たっぷりだったらしい蓮杖にとって、写真とはどうやらひと山当てるための商売にすぎず、人生を賭けるに足るものではなかったのかもしれない。絵画に戻り、最後まで絵を描いていたというのは示唆的だ。

2014/04/02(水)(村田真)

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ハンマーヘッドスタジオ新・港区「撤収!」展

会期:2014/03/28~2014/04/06

ハンマーヘッドスタジオ新・港区[神奈川県]

2008年に横浜トリエンナーレの会場として建てられた4,400平方メートルもの広大なスペースをもつ新港ピアだが、11年のヨコトリには使われず、代わりにBankARTが特別連携プログラムとして「新・港村」を開設し、内部にさまざまな建造物を建ててイベントを展開。翌春には共同スタジオ「新・港区」として50余組のクリエーターが入居し、今夏のヨコトリまで2年間限定の共同スタジオとして活用されてきた。今回は撤収前のファイナル展となる。入居アーティストは石黒昭、牛島達治、開発好明、鎌田友介、さとうりさ、タカノ綾、松本秋則、ほか多数。ダンサーの中村恩恵、ギャラリーの青山|目黒、ヨコハマ経済新聞の支局も入居していたし、会田誠や曽谷朝絵のように個展準備のため期間限定でスペースを借りる人もいた(あ、ぼくも2週間だけお世話になりました)。結局、この建物ができてから6年間でもっとも有効活用できたのは、この2年間ではないだろうか。

2014/03/28(金)(村田真)