artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
「野口哲哉の武者分類図鑑」展
会期:2014/02/16~2014/04/06
練馬区立美術館[東京都]
鎧兜をまとった武者ばかりつくってるアーティスト。武具甲冑も人物も見事なできばえで、明治期の彫刻置物を思い出させるが、素材は樹脂や化学繊維などを使い、サビや汚れも再現し、サイズも思ったより小さいせいか、どちらかといえば海洋堂あたりのフィギュアに近いかもしれない。いずれにせよ日本人ならではの超絶技巧が光る。いやそれだけでなく、細部を見ると鎧にシャネルの紋が入っていたり、兜にネコやウサギの耳がついていたり、背中にジェットエンジンを担いでいたり、甲冑がプラスチック製だったり、ヘッドフォンで音楽を聴いていたり、時代を超える荒唐無稽ぶりなのだ。いってみれば山口晃の立体版か。それにしてもまだ30代前半で、作品をつくり始めてから10年ほどしかたってないのに、出身地でも在住地でもない公立美術館で個展を開催できることに驚く。キャリアの問題もさることながら、精密な仕事にもかかわらずよくこれだけの量をつくったもんだと感心するのだ。ホンモノの甲冑や合戦図などを織り交ぜて「水増し」しているとはいえ、絵画も含めて100点近い出品はリッパなもの。本人以外の作品も合わせれば120点近くになり、けっこう見応えがあった。
2014/03/28(金)(村田真)
安部泰輔──いきもののようなもの
会期:2014/03/27~2014/04/13
MZアーツ[神奈川県]
古着を使ったぬいぐるみや刺繍作品で知られる安部泰輔。大分在住ながら全国各地を飛び回り、ミシンを踏んで制作している。この4月に40歳になったばかりだが、ヨコトリには2度(2005、2011)参加したベテランだ。展示は動物や天使などのぬいぐるみが中心だが、今回はゴッホの《ひまわり》を素材にした二次創作や、板を重ねて水玉模様を施したタブローなどフレッシュな新作もある。でも安部泰輔といえばミシンを踏んでなきゃ。
2014/03/27(木)(村田真)
アート・アーカイヴ資料展XI──タケミヤからの招待状
会期:2014/03/03~2014/03/28
慶応義塾大学アート・スペース[東京都]
まだ画廊も美術館もほとんどなかった1951年から6年間、瀧口修造による先鋭的な企画展を開いてきたタケミヤ画廊の資料を公開している。タケミヤ画廊は神田小川町にあった竹見屋洋画材店の大部分を展示スペースに提供したもので、企画を瀧口に依頼し、発案者の阿部展也を皮切りに、北代省三、山口勝弘、利根山光人、河原温、草間彌生、池田龍雄といった当時の若手作家の個展を中心に開いてきた。展覧会は約10日間ずつ計208回におよぶ。その案内状とリーフレット、写真などの展示。感心したことその1。案内状は全体の3分の1程度しかなく、リーフレットや写真もごくわずかだが、これだけ? とあきれるより、よく集めたもんだとホメるべきだろう。その2。初期のころの案内状の表記は「竹見屋画廊」「ギャラリー竹見屋」「タケミヤギャラリー」「画廊タケミヤ」などマチマチで、「画廊」も旧字体もあれば新字体もあって、細かい表記にこだわらない大らかさが感じられる(アーキビストからすれば困りもんだが)。その3。リーフレットはもちろんカラー図版など望むべくもなく、文字情報だけのシンプルなものだが、ちゃんと解説か推薦文が載り、おまけに出品作品のタイトルとサイズを記したリストまでついてること。これは資料的価値が高い。
2014/03/26(水)(村田真)
青木恵美子 展──春のように
会期:2014/03/20~2014/03/30
東邦アート[東京都]
非具象絵画を説明するとき、短い文章のなかで色彩がどうの構図がこうのといっても伝わりにくいので、なにか具体的なモノにたとえることがある。青木の絵だと「夕焼け空の郊外風景」とか「底に異物が沈殿した血液」とか。本人の意図はともかく、なんとなくどんな絵か伝わるはず。でもそうやってなにかにたとえるとイメージが固定化しかねない。イメージの固定化はその画家のトレードマークづくりには有効だが、絵画表現としては退行を招く。だからつねに画家は見るものを裏切り続けなければならない。そして見るものは以前のような作品を期待しつつ、その期待を裏切られることも期待するのだ。青木も「夕焼け空」だと思ったら「青空」になったりするところを見ると、少しずつ裏切ってることがわかる。今回はさらに太い筆触を強調したモノクロームに近い絵や、画面の低い位置に水平線を引いた抽象なども登場したが、これらは具体的なイメージを呼び起こさないので、これまでと違ってなにかにたとえにくい。その意味では期待どおり大きく裏切ってくれた。でもちゃっかり「夕焼け空」も出している。
2014/03/26(水)(村田真)
近藤幸夫先生──思い出の会
会期:2014/03/21~2014/03/23
慶応義塾大学日吉キャンパス来往舎ギャラリー[神奈川県]
この2月14日に亡くなった近藤幸夫さんをしのぶ展覧会。近藤さんは1980年に東京国立近代美術館に入られたが、当時の東近には優秀なだけでなくアクの強い研究官が多く、近藤さんみたいに真っ当な人は病気になってしまうんじゃないかと思っていたら、案の定体調を崩され、1996年に慶応義塾大学に移籍。その後は闘病しながら後進を指導し、日吉キャンパスの来往舎ギャラリーなどで学生とともに展覧会を企画されていた。展示は、東近での「現代美術における写真」「手塚治虫展」などのカタログ、翻訳した『ブランクーシ作品集』、来往舎ギャラリーでの展覧会リーフレットや写真など。亡くなったからいうのではないが、有象無象の跋扈する美術界のなかでは珍しく、本当によい人だった。
2014/03/22(土)(村田真)