artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

われわれは〈リアル〉である 1920s-1950s──プロレタリア美術運動からルポルタージュ絵画運動まで:記録された民衆と労働

会期:2014/05/17~2014/06/29

武蔵野市立吉祥寺美術館[東京都]

板橋区立美術館からバスで成増に出て、池袋-新宿経由で吉祥寺へ。こちらは板橋とは対照的に繁華街のビルの中にあるので便利だけど、それだけに窮屈なのがタマにキズ。展示は板橋と重なる部分もたくさんあったが、こちらは戦前の作品や戦争画も含まれ、また漫画や雑誌などの印刷物もかなり出品されてるので見応えがあった。もっとも全体的に暗いのは同じだが。印象に残ったのは、須山計一や小畠鼎子らの銃後の美術と、中村宏、池田龍雄、桂川寛らのルポルタージュ絵画。とくにルポルタージュ絵画はメッセージ性だけでなく絵画としても特異な位置を占めていると思うし、世界記憶遺産とまではいかなくても、もう少し高く評価されてしかるべきだし、もう少し広く知られてもいいと思った。一般に長いタイトルの展覧会はピントがボケたものが多く、ロクなもんじゃないが、これは例外だろう。板橋といい、先日見た府中市美術館といい、中小の公立美術館が地味ながらがんばってるなあ。

2014/05/17(土)(村田真)

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焼け跡と絵筆──画家の見つめた戦中・戦後展

会期:2014/04/12~2014/06/15

板橋区立美術館[東京都]

今日は板橋から吉祥寺へ戦中・戦後美術のハシゴだ。板橋では同館コレクションから戦中・戦後に描かれた絵画を紹介している。「戦中の前衛画壇と池袋モンパルナス」「時局の悪化と画家のまなざし」「焼け跡の風景」「事件、社会を描くルポルタージュ絵画」などいくつかのテーマに分かれているが、奇妙なのは戦中と戦後で作品にそれほど違いが感じられないこと。一様に暗いのだ。もうちょっと戦後の絵画は明るくて解放感があると思ったのに、やっぱり敗戦の重圧と脱力感は想像以上に大きかったのだろうか。おそらく戦中も戦後も画材が乏しかったので、暗くて小さい絵しか描けなかったという理由もあるかもしれない。威勢のいい戦争画もないし。目を引いたのは、福島秀子、漆原英子、草間彌生ら戦後登場した女性作家のザワつくような作品と、中村宏や高山良策らによる社会的メッセージ性の強いルポルタージュ絵画。それにしても、こんなに地味で暗い展覧会に、しかもこんなに駅から遠い美術館にいったいだれが見に行くだろうと心配したけど、そこそこ人が来ていたのは、やっぱり入場無料だからでしょうね。

2014/05/17(土)(村田真)

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佐藤時啓「光-呼吸──そこにいる、そこにいない」

会期:2014/05/13~2014/07/13

東京都写真美術館[東京都]

東京藝大の彫刻科を出た佐藤が写真に転じたのは80年代後半のこと。以後4半世紀以上にわたり一貫して、写真というものが光と時間の相関関係で成り立っていることを写真で表現してきた。佐藤自身が企画した展覧会名を借りれば「写真で(写真を)語る」ということになるが、しかし本人はそんな「写真のための写真」にとどまるつもりがないことは、展示のプロローグとエピローグに原発をモチーフにした旧作を据えたことからも明らかだ。この原発周辺に広がる光の点は、佐藤自身が手鏡で太陽光をカメラに向かって反射させた光跡なのだが、いま見ればまるで放射能に汚染された痕跡に見えてこないか。このように、佐藤の写真は手法的には手鏡やペンライトを用いて長時間の光跡を定着させるものだが、その場所は初期のニュートラルな藝大構内から、バブル期の東京、イタリアの遺跡、いわきの海、白神山地の森などへと移り変わり、少しずつ物語性を高めてきている。遺跡の前の光跡はまるで心霊写真のようだし、木の根元の光点は森の木霊に見えないだろうか。また手鏡やペンライトだけでなく、手づくりのカメラオブスクラや24穴のピンホールカメラを用いるなど手法も多様化しており、まるでニエプス以来の写真の歴史をひとりでたどり直そうとしているかのようでもある。実際、彼の写真にはホックニー、杉本博司、山中信夫、山崎博ら先達のエッセンスがいっぱい詰まっているのだ。たっぷり見応えのある展覧会。

2014/05/16(金)(村田真)

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市制施行60周年記念 東京・ソウル・台北・長春──官展にみる近代美術

会期:2014/05/14~2014/06/08

府中市美術館[東京都]

戦前日本の支配下にあった朝鮮、台湾、満州の3地域の官展に焦点を当てた興味深い展覧会。日本で文部省主催の官展「文展」が始まったのは1907年だが、その3年後に併合された朝鮮半島では22年からソウルで「朝鮮美展」が、1895年に割譲された台湾では1927年から台北で「台展」(のちに「府展」)が、また、32年に建国された満州国では38年から新京(長春)で「満州国展」が、それぞれ日本政府の主導により戦争末期まで開催された。そのモデルになったのが「帝展」(19年に「文展」から改称)で、公募審査や受賞などの方式は「帝展」に倣い、実質的な審査も日本人が仕切っていたという(出品者も現地の日本人が多かったらしい)。今回は作品がほとんど残ってない満州を除き、朝鮮も台湾も当時の出品作品を探し出して展示している。地域によって風景(おもに建物)や人物(とくに衣装)などにエキゾチックな趣があるものの、視点や描き方は日本の近代洋画・日本画とほとんど変わらない(一方で、日本の帝展出品作に中国の風景を描いた作品やチャイナドレスを着た婦人像が多くなっている)。こうした日本主導の官展が東アジアの美術の近代化を促したことは否定できないが、とくに望んでもいない官展が導入されることで各地域が歩むべき別の美術の選択肢を摘み取ったことも間違いない。もともと日本の洋画も(日本画さえも)西洋絵画の二番煎じなんだから、三番煎じを押しつけられた朝鮮や台湾はいい迷惑だっただろう。反日感情が収まらない現在、よくこれだけの企画を実現できたもんだと関心する。同展は福岡アジア美術館で立ち上がり、韓国や台湾での開催も視野に入れていたが、メドは立ってないという。ちなみにカタログは日本語、ハングル、中国語の3カ国語併記。

2014/05/13(火)(村田真)

JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク

[東京都]

昨年リニューアルオープンした旧東京中央郵便局、現JPタワー内に開設された「博物館」。運営は日本郵政グループと東京大学総合研究博物館で、東大が開学以来収集してきたのに顧みられることの少なかった厖大なコレクションの一部を移設し、公開している。日本に生息していたワニの化石から、クジラやイルカの骨格、甲殻類や爬虫類や鳥類の標本、ダチョウの卵殻、人体解剖模型、鉱石コレクション、古代ペルシャの首飾り、年代物の地球儀・天球儀、天体望遠鏡、電気工学器具、幾何学関数の実体模型、東大医学部教授たちの胸像や肖像画、明治天皇の肖像写真、なぜか赤瀬川原平の《零円札》まで、かつてのヴンダーカマー(驚異の陳列室)を彷彿させる壮観さ。しかも入場無料というのがうれしい。ものすごく貴重なものは少ないと思うけど、これだけの年代物を幅広く集積し公開すること自体とても貴重なことだと思う。またひとつ楽しめるミュージアムが増えた。

インターメディアテク

URL=http://www.intermediatheque.jp/

2014/05/13(火)(村田真)