artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

支倉常長像と南蛮美術──400年前の日欧交流

会期:2014/02/11~2014/03/23

東京国立博物館本館7室[東京都]

約400年前に伊達政宗の命によりメキシコ経由で渡欧した支倉常長の肖像画を、《南蛮人渡来図屏風》《世界図屏風》とともに展示。肖像画はローマ教皇に謁見するためローマ滞在中に描かれたとされ、イタリアの個人蔵となっている。仙台市博物館にある半身像ともども初めて西洋で油彩画に描かれた日本人の肖像画だろう。顔や衣装はメイド・イン・ジャパンなのに、陰影や立体感がつけられて妙な感じがするし、背景の南蛮船や聖人像などとの組み合わせもミスマッチ。逆に日本人が西洋人を平面的に描いた《南蛮人渡来図屏風》と好対照をなしている。もし可能なら、この《支倉常長像》と、和服姿の夫人を描いたモネの《ラ・ジャポネーズ》を並べてみたい。

2014/03/14(金)(村田真)

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札幌国際芸術祭2014記者会見

会期:2014/03/13

六本木ヒルズ・アカデミーヒルズ[東京都]

今年7月に札幌市内の美術館や街中で開催される芸術祭の会見。坂本龍一がゲストディレクターに就任して話題になったが、素朴な疑問その1、なんでメインディレクターなのに「ゲスト」と冠しているんだろう。わざわざ北海道に招いたから? そんなこといったらいまどきの国際展のディレクターはみんなゲストじゃないか。いや全責任を負わせないようにゲストで、ってことだとしたら腰の引けた印象を与える。さて、テーマは「都市と自然」という、いかにも北海道らしいもの。メインビジュアルもビルの建ち並ぶ都市風景と、残雪のなかを蛇行する川の航空写真を対比的に使っていてわかりやすい。もちろん都市と自然を単に対比的に捉えるのではなく、明治以降の都市化・近代化に焦点を当て、炭坑史からエネルギー問題まで視野を広げている。参加アーティストはアンゼルム・キーファー、カールステン・ニコライ、スボード・グプタ、中谷宇吉郎・芙二子、砂澤ビッキ、工藤哲巳、岡部昌生、大竹伸朗、高谷史郎、宮永愛子、坂本龍一ら。素朴な疑問その2、北海道の炭坑出身の川俣正が出てないね。素朴な疑問その3、芸術祭全体で見ると、展覧会だけでなく「パフォーマンス/ライブ」「プロジェクト」もあり、ディレクターもそれぞれ分かれ、会場も異なっているのでややこしくないか。いろいろあって楽しいけど、ヘタすりゃ散漫な印象を与えかねない。それこそ統括するメインディレクターの存在が必要だろう。

2014/03/13(木)(村田真)

第17回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2014/02/08~2014/04/06

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

審査員も受賞作品も似たり寄ったりの絵画コンペが林立するなか、いまや規格外の破天荒な作品が期待できる唯一の現代美術コンペといえるのがこのTARO賞だ。とはいえ、審査員がほぼ固定したまま17回も続けていると、マンネリとはいわないまでもある種の傾向が出てくるのは否定できない。それは日用品や映像や音などを動員したミクストメディアによるインスタレーションだ。もともと絵画も映像もなんでもありだから、目立とうと思えば最大5メートル立方のインスタレーションを出すのが有利だろうことは予想がつく。とくに今回は岡本太郎賞のキュンチョメをはじめ、岡本敏子賞のサエボーグも、特別賞の小松葉月やじゃぽにかも、受賞作品の大半はインスタレーション。ほかにも小山真 、萩谷但馬、廣田真夕、柵木愛子らがゴチャゴチャしたミクストメディアのインスタレーションだった。こうなると少数派の絵画・彫刻に加担したくなってくる。展示室中央のガラス面に即興で描いた文谷有佳里のドローイングは、目立たないながらも線描ならではの強度を備えた作品だと思う。それからもうひとつ気になるのは名前。キュンチョメ、サエボーグ、じゃぽにかってなんなんだよお!?

2014/03/11(火)(村田真)

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『東海道名所膝栗毛画帖』弥次喜多珍道中展

会期:2014/02/28~2014/03/30

佐川美術館[滋賀県]

日本画壇の裏を描いた黒川博行の小説『蒼煌』に、平安急便なる大手運送会社が設立した平安美術館という架空の美術館が登場する。政界との太いパイプを持つ社長が、人気日本画家の作品を300点も購入したものの、バブル崩壊で売るに売れなくなり、財団法人を設立して美術館を建てたというエピソードだ。もちろん佐川美術館とはなんの関係もないが、つい思い出してしまうのは、この美術館の母体が佐川急便で、目玉コレクションが300点を超す平山郁夫作品だから。でもそんな「予備知識」がなくても、訪れてみればバブリーな美術館に驚き、ド満足するはず。まず琵琶湖のほとりに位置する広大な敷地。隣にはSGホールディングスのスタジアムや体育館などを完備し、一大文化スポーツセンターになっている。人工池に囲まれるように建つ二棟の美術館は、わずかにアールのかかった切妻屋根とグレーを基調にしたシンプルなデザイン。常設は、入口に「平和の祈り」の看板を掲げた平山郁夫のほか、佐藤忠良の彫刻と素描、地下展示室の十五代樂吉左衛門の陶芸など。とくに樂吉左衛門の展示は、作品に比してディスプレイが大げさで微笑ましかった。もっとも心に残ったのは、もっともシンプルに展示されていた佐藤忠良の樹木を描いた素描だった。特別展示室でやってる「弥次喜多珍道中」は、大正期に制作された木版画『東海道名所膝栗毛画帖』全59場面を公開するもの。広重の『東海道五十三次』あたりを参照しつつ、近代的な視点・描法も採り入れてなかなか興味深い連作だった。しかしなぜ佐川で弥次喜多なのかと考えたら、そうか、街道を行く旅ものだからだ。

2014/03/02(日)(村田真)

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アール・ブリュット☆アート☆日本

会期:2014/03/01~2014/03/23

ボーダレス・アートミュージアムNO-MA+近江八幡市内[滋賀県]

滋賀県近江八幡の伝統的建造物保存地区にあるアール・ブリュット(アウトサイダー・アート)の専門館、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAが開館10周年を迎え、市内6カ所の会場に日本と台湾の500点を超すアール・ブリュット作品を展示している。あいにくの小雨だが、駅前で自転車を借りてまずはNO-MAへ。伝統的な和室に絵や陶芸が置かれているが、アール・ブリュット特有の濃密さや荒唐無稽ぶりに欠ける作品があるなあと思ったら、日比野克彦の作品だった。日比野ではかなわないか。ほかにヴェネツィア・ビエンナーレにも参加した澤田真一、台湾の林 萱の出品。以下、元呉服屋だったという奥村邸では、女性器や乳房をオブセッショナルに描いた 万里絵、糸を切って結んでつなげていく作業を繰り返す似里力ら、旧造り酒屋のまちや倶楽部では、紙を継ぎ足して約10メートルにもなった画面に建物や戦車や観覧車などを描き続けている古久保憲満、飛行中の飛行機の絵だけに執着する西澤彰ら、築100年の旧吉田邸では、カラーボールペンで広告チラシみたいなクセのあるイラストを描いてる中田勝信、さまざまなバリエーションのサトちゃん人形を集めた横山篤志ら、元材木商のカネ吉別邸では、雑誌やチラシを何百枚もコラージュしてるうちに立体になってしまったという金崎将司、何十年も前の記憶を元に歪んだ遠近法で子供時代の室内風景を描く秦野良夫ら、そして瓦の博物館かわらミュージアムでは6人の台湾の作品が展示されている。凡人の予想をはるかに超える作品もさることながら、100年を超える展示空間のアウラも身に染みて日常では得がたい体験だった。

2014/03/01(土)(村田真)

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