artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
川瀬巴水 展──郷愁の日本風景
会期:2014/03/19~2014/03/31
横浜高島屋ギャラリー[神奈川県]
大正後期から昭和前期までの約30年間、日本各地を旅しながら風景をスケッチし、木版画に描き出した川瀬巴水の生誕130年を記念する回顧展。戦中戦後の作品もあるが、大半は1920-30年代の「古きよき時代」のもの。江戸期の名所図絵などを参考にしながら、浮世絵版画の簡素な構図・色彩と西洋絵画のリアルな描写を兼ね備えた風景版画を確立した。風景画として優れているとか木版画として斬新だとかいうことではなく、例えば18世紀にカナレットの描いたヴェネツィアの風景画が旅行者に重宝されたように、川瀬の版画も絵葉書代わりの土産物として人気を博したのではないか。だとすれば、彼の制作活動は市場原理に基づく経済活動にほかならず、それこそ浮世絵のように庶民に支持されてなんぼの大衆芸術だったといえるだろう。
2014/03/21(金)(村田真)
第8回シセイドウアートエッグ──古橋まどか
会期:2014/03/07~2014/03/30
資生堂ギャラリー[東京都]
祖母の家に残されていた古いタンスに椅子、ポット、金魚鉢などを並べたり積み上げたりしている。「日用品を美術品に見立て、美術が成立する場や枠組みを検証しています」とあるが、美しいインスタレーションとして成立しています。管理の行き届いた資生堂だもの、ゴミとして捨てられることはないでしょうね。それより、どういう意図があるのかわからないけど、奥の部屋の壁を遮るカーテンがよかった。
2014/03/20(木)(村田真)
「ボストン美術館──華麗なるジャポニスム展」記者発表会
会期:2014/03/20
日本外国特派員協会[東京都]
今年は「フランス印象派の陶磁器」「ヴァロットン展」「ホイッスラー展」とジャポニスムに関連する展覧会が目立つが、その真打ちともいうべき展覧会がこれ。ボストン美術館所蔵のモネの《ラ・ジャポネーズ》を中心に、ゴッホやロートレックらの絵画、江戸時代の浮世絵や工芸などで日本美術が西洋に与えた影響を探るという。《ラ・ジャポネーズ》はモネの比較的初期の作品で、団扇を配した壁の前で赤い着物を着て扇子を持ったカミーユ夫人を描いたもの。団扇にはツルや風景や美人図などが描かれ、着物には刀を抜こうとする武者や植物模様が刺繍され、あからさまに日本趣味が出ている。後年モネはこの作品について「がらくた、ただの気まぐれ」と後悔しているが、日本人にとっては垂涎ものだ。今回は約1年の修復を経て美しく甦った姿でお目見えするという。同展は6月28日から世田谷美術館で。
ボストン美術館──華麗なるジャポニスム展
会期:2014年6月28日(土)~9月15日(月・祝)
会場:世田谷美術館
2014/03/20(木)(村田真)
中村一美 展
会期:2014/03/19~2014/05/19
国立新美術館 企画展示室1E[東京都]
内覧会に遅れて行ったため終了まで小1時間しかなかったが、それでも十分見られると思ったのが大間違い。1点1点じっくり見ていったら時間切れ、クライマックスともいうべき「ウォール・ペインティング」を含む3部屋ほど残して追い出されてしまった(急ぎ足で見たが)。これは体調を整えてもういちど見に行かなければいけない。それほど「見甲斐」のある展覧会だった。それは初期のY型から斜め格子、曲線の出現、蛍光色の使用、デコレーションのような絵具のテンコ盛りと徐々に展開する作品内容もさることながら、なにより作品の大きさと数によるところが大きい。質より量をホメるというのもなんだが、だだっ広いこの美術館の展示室を埋め尽くして余りある作品の物量にまず圧倒される。驚くのは、初期のころから100号、200号の大作を量産していること。セコい話だが、木枠とキャンバスだけで何万円もするし、厚塗りだから絵具の量もハンパじゃない。それを年に何十点も量産しているのだ。まるで30年も前から国立美術館で個展を開くことを想定して制作してきたかのような姿勢。もうそれだけで愕然としてしまう。これは尋常ならざる自信と覚悟がなければできないこと。とりあえず量だけで満腹、いや感服しました。
2014/03/18(火)(村田真)
VOCA展2014「現代美術の展望──新しい平面の作家たち」
会期:2014/03/15~2014/03/30
上野の森美術館[東京都]
いまさら具象も抽象もないけれど、あえて分ければ、VOCA展の初期のころは抽象絵画が多かったのに、次第に具象が大半を占めるようになり、近年再び抽象が復活し始めている気がする。といってもカッコつきの「抽象」で、モダニズム華やかなりしころの抽象絵画とは似て非なるものかもしれない。今回でいえば秋吉風人、大槻英世、小川晴輝、片山真妃、高橋大輔らだ。支持体を透明にしたり(秋吉)、ユーモラスなだまし絵風にしたり(大槻)、イリュージョニズムを導入したり(小川)、作画に過剰なルールを課したり(片山)、絵具を立体的に盛り上げたり(高橋)と、モダニズム(フォーマリズムと置き換えてもいい)の作法を踏み外す掟破りの「抽象」が多い。これは従来の抽象絵画を相対化するメタ抽象ともいえるし、抽象絵画のパロディといえなくもない。かつての藤枝晃雄の言葉を借りれば「芸術としての芸術」ではなく「芸術についての芸術」ということだ。もっともそれが彼らの受賞できなかった理由ではないだろう。実際、彼らの作品が今回の受賞作より質が低いとは思えないのだけど。
2014/03/14(金)(村田真)