artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
室井公美子「It searches」
会期:2013/05/11~2013/06/08
ギャラリーモモ六本木[東京都]
0号程度の紙に水彩が200点はあろうか。色彩は「室井カラー」ともいうべき灰色がかった紫が中心で、顔や人体、動物、花、風景を思わせる半抽象的イメージが、にじみやボカシを生かして描かれている。キノコ雲のように見えるものも2、3あったが、偶然か、気のせいか。
2013/05/31(金)(村田真)
祐源紘史 個展「最初の食事が死の始めである」
会期:2013/05/10~2013/06/07
ギャラリーt[東京都]
ケンタッキーフライドチキンの食べカスの骨で人体の骨格模型を組み立てる祐源。旧作のバレルの上に直立する骨格もあるが、今回は片手で骨を振りかざす新作の骨格もあって、まるで『2001年宇宙の旅』のプロローグに出てくる猿人を思い出す。猿人の骨がチキンとはね。ほかにも油のついた紙を「ドローイング」として額装したり(これは榎倉康二風)、ケンタから多くのネタを引き出している。もう少し有名になったら、ケンタからチキンを無償提供してもらえるといいね。ケンタ以外では、卵のパックに鶏卵と中身を抜いた殻を半々ぐらい並べた作品があった。これだけじゃ作品にならないが、タイトルを見ると《隣はセメタリー》となっていて激しく納得。まさに生と死が隣り合わせになってるのだ。しかもよく見ると、ひとつの殻は割れた部分がドクロのかたちになっている。コンセプトが明快でユーモアがあり、芸も細かい。
2013/05/25(土)(村田真)
太田侑子展「愛しい神さま」
会期:2013/05/10~2013/06/16
アンシール・コンテンポラリー[東京都]
食卓や洗濯物などごくありふれた日常的な場所に、ちょっと不気味な人形が鎮座する情景を描いてる。手法としてはカメラアイでとらえたスーパーリアリズム風で、主題的にもポップアートに近いが、あえて筆触を残し、手描きならではのニュアンスを伝えている点では、まっとうなペインティングとして評価すべきだろう。
2013/05/25(土)(村田真)
開発好明「3.11 3.15 6.15 9.11」
会期:2013/05/10~2013/06/01
ギャラリーハシモト[東京都]
タイトルの3.11と9.11はわかるけど、3.15と6.15はなんだろう。ぼくにとって3.15は70年の大阪万博の開幕日で、6.15は60年安保闘争でデモ隊が国会に突入し、樺美智子がなくなった日だ(記憶にはないけどね)。でもここには万博も安保もなく、もんじゅと福島の原発事故とアメリカの同時多発テロが扱われている。印象に残ったのは壁の両側に並べられた3枚組の写真群。いずれも建物の正面を撮ったものだが、片側の写真は明らかに破壊され、荒れているのがわかるのに対し、もう一方の写真には被害を受けた様子が見当たらず、でもカーテンが引かれて無人の様子。前者が津波による被害で、後者が原発事故の被害だという。目に見える被害と見えない被害の違いをうまくとらえている。
2013/05/25(土)(村田真)
極限芸術──死刑囚の表現
会期:2013/04/20~2013/07/21
鞆の津ミュージアム[広島県]
瀬戸内の名勝地・鞆の浦にある鞆の津ミュージアムは、東京人からすればかなりの難所だ。しかも今日は呉からなので、いったん広島に戻って新幹線で福山に行き、そこからバスで30分以上揺られなければならない。幸い待ち時間は少なかったが、それでも2時間以上かかった。このミュージアムもそんな利用者の不満は百も承知で、同展チラシには「来るなら来い!」と見得を切っている。いいなあこういう態度。建物は築150年の蔵を改装したもので、既存の美術の外側で表現してきた「アール・ブリュット」をはじめとする作品を紹介する場所らしい。なにしろ死刑囚の絵が見られるという以外なにも知らずに来てしまったのだ。今回は開館1周年ということで企画されたもので、約300点の死刑囚の絵が集められている。以前、東京の画廊で見たときはこんなたくさんなかったが、近年ある篤志家が出資して希望する死刑囚に絵を描かせるようになってから増えたという。展示はいきなり和歌山毒物カレー事件の林眞須美の絵から始まる。黒を背景に赤で涙と目隠し布らしきものを表したシンボリックな《国家と殺人》と題する絵。林はほかにも青い正方形のアド・ラインハートのような抽象画や、娘と息子を両脇に抱いた母子像、ピカソ風の人物画などスタイルの異なる8点の絵を出していて、なにを考えているのかわからずちょっと不気味。わかりやすいのは、神や仏や家族を描いた悔悟の念を感じさせる絵や、おいしそうなお弁当や女性ヌードなど、もはや叶わぬ欲望を描いた絵の類だ。おそらく彼らはこれらの絵をいつも「最強の絵」として描いているに違いない。考えてみればこれは表現する者にとって壮絶な試練だ。
2013/05/24(金)(村田真)