artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
プーシキン美術館展 フランス絵画300年
会期:2013/07/06~2013/09/16
横浜美術館[神奈川県]
2年前に予定されていながら、東日本大震災(原発事故)のため延期とされていたプーシキン美術館展。さすがロシア、原発事故の怖さをよく知っていたようだ。展示は旧約聖書を題材としたニコラ・プッサンの古典的な歴史画に始まり、クロード・ロランの理想的風景画、シャルル・ル・ブランの《モリエールの肖像》、ギリシャ建築とピラミッドを隣り合わせに描いたユベール・ロベールの廃墟画、楽器と性愛を結びつけたルイ・レオポルド・ボワイーの恋愛画など、古典主義やロココの佳作が続く。とりわけブーシェのエロっぽい《ユピテルとカリスト》など、つい最近完成しましたみたいに色彩がみずみずしいので不思議に思ったら、画面にガラスを入れてないのだ。ところが、印象派をはじめとする19世紀以降の作品の多くにはガラスが入っていて、それ以前の作品より原色が多いはずなのにみずみずしさに欠けるように感じた。ガラス越しと生で見るのとこれほど見映えが違うとは驚き。ともあれ、19世紀以降も見どころは少なくない。印象派とほぼ同世代のルイジ・ロワールはイラストレーターとして知られていたらしいが、初耳。雨上がりの風景をとらえた巧みな表現はカイユボットに匹敵する。セザンヌの《パイプをくわえた男》はフォルムもプロポーションも常識破りだし、ゴッホの《医師レーの肖像》はアールブリュットの先駆ともいうべき色づかいだ。なるほど、彼らが20世紀絵画を先導したというのもうなずける。最後のほうにあったキスリングの《少女の顔》は、額縁が破損しているのでいかにもロシアらしいと思ったが、カタログを見るとこの作品、画家から寄贈される際に美術館が支払ったのは額縁代だけだったそうだ。その記念としてそのまま残してあるのかも。
2013/07/05(金)(村田真)
元田久治「東京」
会期:2013/06/21~2013/07/14
アートフロントギャラリー[東京都]
元田は世界の有名建築を廃墟として描いてきたが、今回は東京の廃墟図をリトグラフによって発表している。東京駅、東京タワー、銀座4丁目、浅草雷門、新宿歌舞伎町、国会議事堂、東京ディズニーランド……、東京人ならだれもが知ってる風景が、あわれ廃墟と化しているのだ。よく見るといろいろ発見があって楽しい。東京駅は戦後すっかりなじんだ駅舎ではなく、復元したばかりの建物が廃墟化されていること。東京スカイツリーにはツタが絡まり、六本木ヒルズの森タワー屋上は箱庭になってスケール感を混乱させていること。崩れかけた二重橋はあるけど、廃墟となった御所や宮殿はないこと。絶妙なのは、自由の女神像。一見ニューヨークかと思ったら、背後に大きな橋と東京タワーが見えるのでお台場のレプリカとわかる。しかも橋やタワーは破損しているのに、この像はブロンズ製でサイズが小さいせいかまったく傷ついてない。芸が細かいのだ。「江戸名所図絵」ならぬ「東京廃墟図絵」。
2013/07/03(水)(村田真)
アンドレアス・グルスキー展
会期:2013/07/03~2013/09/16
国立新美術館[東京都]
グルスキーはドイツ写真の代表的アーティストで、80年代にベルント&ヒラ・ベッヒャーの下に学んだいわゆるベッヒャー・シューレのひとり。基本的に同じような要素(人、窓、商品、記号など)が無数に凝集した全焦点的な風景写真で知られる。風景写真といっても現実の風景ではなく、精巧にデジタル加工した人工的な視覚世界だ。その構築的な画面構成から彼の写真はしばしば絵画にたとえられる。たしかにオールオーバーな巨大画面は抽象表現主義を思わせるし、現代社会の一面をモチーフとしている点はポップアートを、無機質な繰り返しはミニマルアートを想起させずにはおかない。ジャクソン・ポロックの《ワン:ナンバー31》を撮った《無題VI》などは、自己言及的なコンセプチュアルアートだ。もちろんこの《無題VI》に明らかなように、絵画に比べれば物質性が希薄で、ふつうのストレート写真よりさらに透明度が高く、いってみれば表面しかない。それゆえに、大勢の人がうごめく職場を撮っても、大量の商品が並ぶマーケットを撮っても、はるか向こうまで続くゴミ捨て場を撮っても、それらの光景はシリアスな社会批判にはなりえず、どこか表層的でマンガチックで、笑いすら誘うのだ。ひとつ不思議に思ったのは、彼の作品は基本的に大型(2×3メートル程度)だが、展示ではときおり小さなサイズの作品(40×60センチ程度)が差し挟まれていること。カタログではすべてがほぼ同じ大きさに掲載されており、写された内容からサイズが決められたとも思えないのだ。ではなにがサイズを決めたんだろう。
2013/07/02(火)(村田真)
TWSエマージング 196/197/198/199
会期:2013/06/08~2013/06/30
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
これは「トーキョーワンダーウォール公募」の入選作から選ばれた若手作家の展示だが、今回は都現美の「公募」と同じくパッとしないなあ。齋悠記(シャレた名前!)は不定形の抽象画だが、それより角にアールをつけたパネルを使用しているのが目を引く。残念ながらそれが内部の図像と関連しているようには見えない。笠見康大は100号と130号の大作10点の展示で、どれも一貫してピンクとグレーを基調にしているが、裏返せばどれも似たり寄ったりで、どこか時代遅れの抽象画といった印象は否めない。ふたりとも抽象画だからダメなのかといえば、そうでないことはあとのふたりを見ればわかる。風間雄飛は珍しく版画で、和紙にシルクスクリーンか木版で刷っているが、描かれている図像は興味を惹くものではない。桑田まゆこは下塗りした上に小動物や植物や装飾品などをサラリと描いているが、特筆すべき点はない。なんだろ、この停滞感は。
2013/06/28(金)(村田真)
大細密 展
会期:2013/06/25~2013/06/30
アートコンプレックス・センター[東京都]
2階では「大細密展」ってのをやってたんで見に行ったら、約30人が出品する大規模な展示。といってもいわゆる「細密画」は半分くらいで、イラストみたいな小品も少なくない。目を引くのは、アウトサイダーアート顔負けの細かい線描で画面を覆い尽くしたペン画。細い線で花とか動物とか描いているのだが、その全体像より線の集積に目が行ってしまう。一線を越えると細密画というのは「なにか」を表わす手段ではなくなり、線描そのものが目的化していくのかもしれない。
2013/06/28(金)(村田真)