artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
霜田誠二「ボクの夏休み。または激痛のため立てなくとも」
会期:2013/07/16~2013/07/27
ステップスギャラリー[東京都]
会場の正面に霜田誠二のパフォーマンスを写し出すディスプレイが置かれ、壁には押し花を中心に文章を配した手書き新聞が10点ほど並ぶ。展示はそれだけ。でも霜田本人がいた。70年代から詩と独断舞踏を始め、80年代からパフォーマンスアーティストとして海外でもドサ回りを始め、90年代からだれに頼まれたわけでもなくパフォーマンスアートフェスティバル(NIPAF)を始め、現在は痛風と闘う中年の星だ。会期中計6回おこなわれる彼のパフォーマンスは、いずれ無形文化財に指定されるだろう。
2013/07/16(火)(村田真)
ウルの牡山羊 シガリット・ランダウ展
会期:2013/05/17~2013/08/18
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
メインの部屋では、4面の縦長スクリーンにそれぞれ樹木が映されている。その幹を大きな機械の腕が挟んで轟音とともに激しく揺さぶると、土煙とともになにかがバラバラと落ちてくるのがわかる。これはなんだ? 見たことない光景に心がざわめく。落ちてきたのはオリーブの実。実際こんな手荒な方法で収穫するんだろうか。これはイスラエル南部のネゲブ砂漠にあるオリーブ園で撮影されたもの。もう一方の部屋では、キッチンやリビングに時代遅れの家具が並ぶ50年代のイスラエルの居住空間が再現され、ランダウの親族との関係が示唆されている。タイトルの「ウルの牡山羊」とはメソポタミアで発掘された古代彫刻のことで、神の命でアブラハムが息子のイサクを生贄に捧げようとした旧約聖書(ユダヤ教の聖典でもある)の創世記に由来するもの。ランダウはイスラエルとユダヤ人の記憶を呼び起こすような作品を制作しているが、歴史も文化も異なる日本人には遠すぎて届きにくい。とくに後者のように私的な関係性から紡ぎ出された作品は、たとえそれが民族全体の問題に敷衍できるにしても共感するのは難しい。直接的な言及より、前者のような得体の知れない映像のほうが心に響くものだ。
2013/07/16(火)(村田真)
オープン・スタジオ2013
会期:2013/07/12~2013/07/21
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
5月20日からBankARTのスタジオを借りた37組のアーティストたちが、約2カ月間の成果を発表。1室を半透明のスクリーンで二分し、片方に竹を使ったサウンドオブジェを仕掛け、もう一方でその影絵を見ながら音を楽しむというインスタレーションを制作した松本秋則をはじめ、グーグルマップを使いながら「いま私はどこにいるのか」を問う谷山恭子、きゃりーぱみゅぱみゅなカワイイ風景を極彩色の半立体で表現した増田セバスチャン+m.a.m.a.、バリ島の仮面をモチーフに大型絵画に挑んだ宮間夕子、写真を撮るために人形を塑像し背景をセットして被写体をつくる関本幸治、「青」の時代から水平線の絵画へと試行しているフランシス真悟など、挙げていくとキリがないが、とにかく今年はレベルが高い。毎週末は4、5人ずつアーティストトークを行ない、今日は松本、谷山、増田、南條敏之、パク・ミスンの5人に話を聞いた。
2013/07/15(月)(村田真)
〈遊ぶ〉シュルレアリスム──不思議な出会いが人生を変える
会期:2013/07/09~2013/08/25
損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]
生誕160年を記念して某文化センターでゴッホの連続講座を開き、その最終回として《ひまわり》を見るため損保ジャパンの美術館を訪れた。だから「シュルレアリスム展」はついでに見ただけなんで印象が薄いなあ。大ざっぱにいえば、シュルレアリスムは夢や無意識など非合理の世界に分け入ったため、恐怖やグロテスク感を呼び覚ます一方で、笑いを誘うユーモアのある作品も見られる。今回は後者のほうがメインになっているように感じた。デュシャン、マン・レイ、エルンスト、ダリといった中心画家より、ドロテア・タニング、トワイアン、ウィルフレド・ラム、ヴィクトル・ブローネルといった周縁画家に佳作が多い。
2013/07/09(火)(村田真)
ジェレミー・ディッキンソン展
会期:2013/06/19~2013/07/08
自動車を並べたり積み上げたりした絵。車体の塗料がはげてたりプロポーションがずんぐりしてるため、ミニカーを描いたものだとわかる。もちろん描写力があるからミニカーだとわかるのであって、ヘタな画家が描いたら本物の車と区別がつかないかもしれない。おもしろいのは、色とりどりの積み木をぴったりはめ込んだ隙間にミニカーを挿入した絵。モンドリアンの幾何学的抽象画を彷彿させる。聞くところによると、彼は子どものころからミニカーを集めていて、現在5,000台くらい持っているという。子どものころからの趣味をそのまま引き継いで好きな絵に描いて(しかも売れて)る……男にとって最高の人生だ(か?)。
2013/07/06(土)(村田真)