artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

サイモン・フジワラ

会期:2013/03/29~2013/04/27

タロウナス[東京都]

なにやら高そうなコース料理の写真と英語のレシピが貼り出され、足下に建築の設計図が置いてある。嫌だなこういう思わせぶりのインスタレーションは。と思いつつ奥の部屋に行くと、バーの一部が再現され、カウンターの上に英語のメモが置かれている。メモを読むと、1968年8月8日に男女が出会い、このバーで親しく語らったようだ。もういちど前の部屋に戻って設計図を見直すと、それは旧帝国ホテルの図面で、その日の男女の行動が時間軸に沿って糸で跡づけてある。それによると、男は日本人のバンドマスター、女は白人のダンサーで、ふたりは45年前の夏の夜、帝国ホテルのショーで出会い、バーで飲み、一緒に部屋に泊まったらしい。その行動が何時何分という分刻みで記されているのだ。サイモン・フジワラは日本人の父とイギリス人の母をもつハーフなので、これは両親の出会った1日を克明に再現しようとしたものだろう。あるいは架空の物語かもしれないが、いずれにせよここまで細かく示されると、若き日の両親の艶かしい情景まで浮かんできてなにやら切ない気分に襲われる。最初の印象を裏切って、まるで映画1本見たような気分で帰れた。

2013/04/25(木)(村田真)

レオナルド・ダ・ヴィンチ展──天才の肖像

会期:2013/04/23~2013/06/30

東京都美術館[東京都]

上野ではラファエロ(国立西洋美術館)に続いてレオナルドの作品も見られる。なんとゼータクな。でも昨年も「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」やったけど、記憶に薄いなあ。覚えてるのは裸のモナ・リザが来ていたことくらいだ。今回もレオナルドの油彩は《音楽家の肖像》1点のみで、あとは素描とメモの「アトランティコ手稿」22葉と周辺の画家の作品。もちろんこれだけ来るのも大変なもんだが、しかし「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」という看板の重さに比してインパクトは弱い。これまで何度かレオナルドの作品がやって来たけど、それらを集めてひとつの展覧会にしたらかなりイケるんじゃないか。《モナ・リザ》をはじめ、《白貂を抱く貴婦人》《受胎告知》《ほつれ髪の女性》《音楽家の肖像》、そして数々の手稿類。これらが一堂に会せば「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」の名に恥じないけど、たぶんその規模はルーヴル美術館を除くほかのすべての国のすべての美術館でも不可能でしょうね。

2013/04/22(月)(村田真)

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島田真悠子 個展「デイドリーム」

会期:2013/04/05~2013/04/25

ライズギャラリー[東京都]

白昼夢みたいな絵が10点ほど。犬から発せられるビーム、そのビームに当たって失神する人、トポロジカルな空間に引き込まれそうな人、花瓶の周囲を回る男たち……。タイトルも「ズキュン」とか「ふわっ」とか、もうやりたい放題。こういうの、おじさんには真似できませんね。

2013/04/21(日)(村田真)

Chim↑Pom「PAVILION」

会期:2013/03/30~2013/07/28

岡本太郎記念館[東京都]

2年前、渋谷駅に設置された岡本太郎の壁画《明日の神話》に福島原発事故の絵を付け足し、ひと騒動おこしたChim↑Pom。それが縁で今回、岡本太郎記念館で太郎との対決=コラボレーションとなった。しかしChim↑Pomは大先輩の太郎も敏子も見たことがない。そこで彼らの家だった記念館と太郎の墓を往復し、生と死を接続して福島原発につなげようと考えた。展覧会名にもなっている《パヴィリオン》は、記念館の一室をホワイトキューブに変え、奥のガラスケース内に直径4センチほどの太郎の骨片を展示するというインスタレーション。いかにも仰々しい。僕が「パヴィリオン」という言葉を初めて知ったのは、忘れもしない1970年の万博のとき。その万博のパヴィリオン内でもっとも仰々しく展示されていたのがアメリカ館の「月の石」だ。そういえば太郎が死んだ日に大きな彗星が墜ちたことも思い出した。万博、宇宙、太郎の死とつながっていく。それにしてもこの仰々しさはChim↑Pomらしくないなあ。らしさでいえば、手前の黒い部屋で見せていた《ゴミの墓》という映像インスタレーションのほうだ。これは夜中に太郎の墓場に忍び込み、穴を掘ってゴミを埋め上に墓碑を置いてくるという映像と、黒御影石をゴミ袋の形に彫った墓碑からなる作品で、いかにもChim↑Pomらしい。もっともChim↑PomらしいことばっかりやってるのもChim↑Pomらしくないが。ところで、例の福島原発事故の絵《LEVEL7feat『明日の神話』》は1階奥の太郎のアトリエのイーゼル上に飾られているが、どうやら隣で見ていた人はそれを太郎の絵だと思ったらしい。たしかに太郎の絵に似せて描いてあるし、それもありかな。

2013/04/20(土)(村田真)

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山口晃 展──付り澱エンナーレ老若男女ご覧あれ

会期:2013/04/20~2013/05/19

そごう美術館[神奈川県]

ヴァーチュオーゾ山愚痴屋の横浜初の個展。これまでの仕事のアンソロジーのほか、「ひとり国際展」として「山愚痴屋澱エンナーレ」も開催。どんなもんかというと、これがアイディア一発勝負の即効アート。たとえば《銃声》という映像は、バババッという音が聞こえてくるので見に行くと、壊れかけた街灯が音を立てながら点滅してるだけだったり、《オーロラ》は東京の夜空に出現したオーロラの映像かと思ったら、窓ガラスに息を吐きかけた曇りだったり、《一本の赤い線》という絵画は、巨大なキャンバスにバーネット・ニューマンのごとく赤く塗っただけだったり。これらはおそらく、根をつめて描く細密描写のストレス発散としての役割もはたしているんじゃないだろうか。あと目に止まったのが五木寛之の小説の挿絵で、とくに「五、六人」と題する挿絵はなんと5.5人の顔が描かれているのだ(ひとつの顔だけ目が3つある!)。発想もすごいが、それをなにげに絵で表わしてしまう画力がすごい。

2013/04/19(金)(村田真)

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