artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

「暮らしと美術と高島屋」展

会期:2013/04/20~2013/06/23

世田谷美術館[東京都]

いまどき「美術と百貨店ってなんの関係があるの?」といぶかしむ若者もいるはずだが、「デパートと美術」は歴史的には興味深いテーマ。明治のころだと三井呉服店─三越百貨店がリードし、20年ほど前までは西武デパートがぶっちぎりのトップに立っていたが(これはやっぱり売り上げに比例する)、ここでは高島屋1本に絞ってる。焦点を絞ってるため展示は明快だが、関係する美術家(日本画家と工芸家が多い)は限られ、「デパートと美術」全体について考えるうえでは広がりに欠ける。そのためか、後半では三越や白木屋などのデパート建築、ポスターなども紹介し、カタログには高島屋社長と西武流通グループの総帥だった堤清二こと辻井喬との対談を載せている。いちおう目配りはしているのだ。それにしても、なぜ公立美術館が高島屋という特定のデパートを採り上げたのか、なぜ「デパートと美術」という一般論にしなかったのか不思議に思ったが、答えは意外と簡単、近所に玉川高島屋があるからだ。それに、世田美は2007年にも「福原信三と美術と資生堂」という一企業と美術の関係をたどる展覧会を開いた前歴もあるし。公立館としてはなかなか勇気のいることだと思う。こんどは東急の五島と組むか、いや、それより隣接地に清掃工場があるので、ぜひ「ゴミとアート」をテーマにしていただきたい。

2013/06/15(土)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00021219.json s 10089279

トーキョーワンダーウォール公募2013入選作品展

会期:2013/05/18~2013/06/09

東京都現代美術館[東京都]

毎年100人ほどの入選者のうち、足を止めて見てみたいと思えるのはせいぜい5、6人だが、今年はもっとキビシー。透明感のある岩を描いた岩瀬晴香、ちょっとだれかに似てるけど三井淑香、色彩が美しい清水香帆の絵画に、かろうじて目が止まった程度。3人とも女性で、なぜか全員「香」がつくぞ。関係ないけど。

2013/06/07(金)(村田真)

笹井青依「Camellia」

会期:2013/06/04~2013/08/10

アンドーギャラリー[東京都]

案内状の絵を見て、以前「五美大展」で見た作品を思い出した。プリミティヴな木の絵なんだけど、葉っぱがカツラのように描かれてるのと、色彩が美しい中間色だったのでよく覚えている。今回もその延長線上の作品で、50号と150号が4点ずつ、ドローイング3点の展示。背景はいずれもグレーだが、斜め方向に濃淡をつけてるので風が吹いてるように感じる。幹と枝はベージュ、葉っぱは緑灰色で、これが木の葉というより髪の毛みたいに見え、ユーモラスかつ不気味でもある。モチーフは木だけで(なぜか2本か4本)、色彩は2、3色のみというシンプルさ。にもかかわらず不思議と惹きつける絵だ。作者がどれだけの力量をもっているのか、ほかの絵を見てみたい気もするが、まだしばらくこれでやってもらいたい気もする。おのずと変わっていくかもしれないし。

2013/06/07(金)(村田真)

「印象派を超えて──点描の画家たち」記者発表会

会期:2013/06/05

国立新美術館[東京都]

10月4日から国立新美術館で開かれる展覧会の記者発表。まだ4カ月も先のことだし、これから暑くなる時期に秋口の話をされてもなあ的な冷めた空気も漂う。展覧会のモネ、スーラ、ゴッホ、ドランと続く点描表現の流れは教科書的だが、モンドリアンの初期だけでなく幾何学的な色面抽象まで点描の延長として位置づけた点がユニーク。たしかに3原色の独立した配置は点描に通じるかも。しかし初期の点描風のマティスが出ないのは画竜点睛を欠かないか。そもそも出品作品の大半は、オランダのクレラー・ミュラー美術館のコレクションからで、「点描」でまとめるというアイディアも美術館側からの提案だったらしい。クレラー・ミュラーといえば日本でたびたび開かれる「ゴッホ展」の供給元として知られる美術館。日本にとってはありがたい存在であるが、クレラー・ミュラーからすれば日本はいいお得意さんに違いない。こうして西洋美術の需給のバランスは保たれているんだね。

2013/06/05(水)(村田真)

小沢剛 高木正勝 アフリカを行く──日本とアフリカを繋ぐ2人のアーティスト

会期:2013/05/25~2013/06/09

ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]

第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の開かれている横浜で、その「パートナー事業」として行なわれた展覧会。小沢剛と高木正勝の2人展で、どちらもアフリカをテーマにした新作を見せているが、小沢が抜群にサエている。ふだんあまり縁のないアフリカと日本をつなぐものを考えて、そこに福島の原発事故が頭をよぎり、出てきた解が野口英世。福島出身の野口は、アメリカを経てアフリカに渡り、みずからの研究対象だった黄熱病に罹ってガーナで死去した細菌学者だ。これは絶好のネタ! と小沢が叫んだかどうかは知らないが、さっそくアフリカに渡って現地の看板屋に野口の生涯を描いてもらったのが、1階に展示されている8枚の大画面《帰って来たDr. N》だ。節約のためか、横長の画面を左右2場面に分けている。描かれているのは日本人のはずだが、顔も衣装も背景も日本なのか中国なのかアフリカなのかわからず、思わず笑ってしまう。また文字を覚えたDr. Nの母からの手紙は、ひらがなっぽいけどハングルにも似た不思議な書体で書かれ、頭がクラッとする。そのかたわらには野口自身の筆になる油絵も飾られているが、本物かよ。最後はDr. Nの子孫が福島に里帰りし、放射能汚染を調査するというストーリー。TICADの主旨がいつのまにか原発問題にスリ替わっているのだ。これで日本がアフリカに原発を輸出するのは難しくなった(としたら大成功)。

2013/05/31(金)(村田真)