artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
海軍記録画──絵画によりたどる海軍の歴史[後期展]
会期:2013/04/10~2013/06/10
大和ミュージアム[広島県]
朝6時発のぞみの始発に飛び乗り、広島で乗り換えて10時半ごろ呉に到着。呉市海事歴史科学館が「大和ミュージアム」と呼ばれるのは、かつて軍港として栄えた呉で建造された戦艦大和の10分の1の模型が目玉だからだ。10分の1といっても26メートル以上あるから小型船よりずっと大きい。ともあれその大和ミュージアムが企画した戦争記録画の展覧会。昨年度は「前期」として幕末の黒船来航から日清、日露を経て日中戦争までの戦争画を集めたが、今回は太平洋戦争の海軍記録画に焦点を当てている。宮本三郎《落下傘部隊の活躍》、小野具定《第二ブーゲンビル沖航空戦》、川端龍子《水雷神》といった有名作から、藤田嗣治のエスキース的な小品、小磯良平や中村研一らのスケッチ、戦意高揚のポスターと原画まで約40点の展示。まず気づくのは、大作が少ないこと。戦争画は日本では珍しい歴史画なので、画家たちもがんばって幅3メートルも4メートルもある大作を手がけたが、その大半は戦後アメリカ軍に接収され、現在は東京国立近代美術館に収蔵されている。ところが、なぜか出品作品は海上自衛隊や船の科学館、茨城県近代美術館、福富太郎コレクションなどから借り、東近からは1点も借りていない。会場が広くないから出品要請しなかったのか、あるいは東近から断られたのか。これと関係するのかどうかわからないが、作品前の解説を読むと描かれた戦闘については詳述されているものの、作品や作者についてはサラッと流している。つまり戦争画の芸術的価値よりも記録的価値に重点が置かれているのだ。これはやはり美術館ではなく、海事歴史科学館が企画したものだからだろう。だから東近とは距離をとったのかもしれない。その解説だが、作品の手前にしつらえた台上に記されているため、観客と作品との距離が1メートルほど空いている。見方を変えれば、観客が手を伸ばしても作品に届かないように解説台をフェンスにしているのだ。モノが戦争記録画だけに、カゲキな行動を抑える予防線を張らなくてはいけないのだろうか。
2013/05/24(金)(村田真)
さすらいの日本画展
会期:2013/05/20~2013/05/25
吉田町画廊[神奈川県]
タイトルから察するに、一匹狼の無頼派による根無し草的な展示かと思ったら、ぜんぜんそんなことはなく、女子多数の日本画小品展だった。「さすらい」とは銀座の画廊へ巡回するかららしい。もっと各人しっかりさすらってほしい。
2013/05/23(木)(村田真)
メメント・モリ──愛と死を見つめて
会期:2013/04/13~2013/05/18
児玉画廊+アラタニウラノ+山本現代+ロンドンギャラリー+新素材研究所など[東京都]
白金アートコンプレックス5周年合同展覧会。5階に研究所を構える杉本博司御大が窮霊汰(キュレーター)を買って出て、森美術館開館10周年記念展「LOVE」に呼応するかたちで「メメント・モリ──愛と死を見つめて」なるお題を出し、各フロアのギャラリーが作品でそれに応えるという趣向だ。1階の児玉画廊は高田冬彦ら5人による混沌としたエロス&タナトス展、2階のアラタニウラノは加茂昂の立体交差的絵画と高嶺格の水槽透過裸体映像、3階の山本現代はヤノベケンジ+ビートたけしのドローイングや小谷元彦の写真など、4階のロンドンギャラリーは橋本雅也の鹿の骨や角による彫刻に西洋の解剖図と日本古美術の取り合わせ、そして5階の新素材研究所では映画『愛と死を見つめて』が見られるほか、杉本博司が女装したお宝写真も飾ってある。これは土曜のみの公開なので運がよかったというか、なんというか。このほか、各フロアに杉本氏の作品やコレクションが紛れ込んでいて、聞くところによるとオープニングも杉本氏の独壇場だったという。レオナルドか利休か、みたいな器用な人だ。
2013/05/18(土)(村田真)
和田義彦「幸せの国ブータンを描く」
会期:2013/05/06~2013/05/18
ギャラリーミハラヤ[東京都]
和田義彦といっても、たぶん多くの人が忘れているだろうけど、7年前に美術界だけでなく広く世間を騒がせた有名画家。もうすっかり画壇から見放されたと思っていたら、なぜかブータンに招かれ、このヒマラヤの王国(ヒラヤマ王国ではない)の芸術顧問に収まっていた。今回の個展も「ブータン王国芸術顧問就任記念展」と銘打っている。そりゃブータン国王は和田がイタリアの画家アルベルト・スギの絵を盗作し、地位も名誉も失ったなんて知るよしもないからな。出品作品はブータンの風景や風俗を描いたもので、和田特有の(スギ特有のいうべきか)余計な線や華麗な色づかいは影をひそめ、非個性的な絵になっている。まあとにかく盗作は見習うべきではないが、いちど葬られてもゾンビのように甦るたくましさとあつかましさは見習いたい。
2013/05/15(水)(村田真)
牧野邦夫「写実の精髄」
会期:2013/04/14~2013/06/02
練馬区立美術館[東京都]
2月に練馬区立美術館でやっていた「小林猶治郎展」を見て、牧野虎雄の絵と似ているなあと書いたら、今度は「牧野邦夫展」だ。ビミョーに違いますね。ほかにも牧野義雄なんて画家もいてややこしいのだ。タイトルにもあるように、牧野邦夫は「写実の精髄」をきわめようとした画家になっているが、作品を見ると写実画というより幻想画でしょう。恥毛もあらわな女性ヌードとか、騎士?に扮した自画像とか、日本的モチーフと西洋画法の混在がキッチュ・悪趣味を増幅させ、それゆえ見ていて楽しい。孤塁を守った画家らしいが、あえて位置づければ、神仏混淆させた牧島如鳩や、エロねーちゃんを得意とした古沢岩美のような、戦前・戦後に現われた日本特有の幻想絵画の系譜に連なるだろう。こうした日本的な、いいかえれば生活くさい=貧乏くさい幻想絵画をぼくは「四畳半シュルレアリスム」と呼んで愛しているが、絵画的にはものたりないところがある。それは、彼らに世代が近いフランシス・ベーコンやルシアン・フロイドといったイギリスの画家たちの作品と比べてみると、違いがはっきりわかる。牧野らの絵は「文学性」に引きずられてる分、「ペインティング」というメディウムに対する意識が明らかに低いのだ。
2013/05/15(水)(村田真)