artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術

会期:2013/04/13~2013/06/16

横浜美術館[神奈川県]

よく晴れた日曜日の昼下がり。なのに美術館内はタイトルに反してひんやりしていた。それは観客がまばらだからというだけでなく、かつてアジア美術に感じられたような熱気が出品作品から感じられず、ということはつまりクールなものが多く、しかも展示が「ジャングル」とは正反対に整然としていて破綻がないからだ。いやぼくはなにも東南アジアの現代美術は熱く、混沌としていなくちゃいけないと考えているわけではない、とわざわざ断らなくちゃいけない程度にはそう考えているけど、主催者はそれ以上に「熱々」と考えているらしい。その現実とのギャップがひんやりしている原因なのだ。

2013/05/12(日)(村田真)

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SICF 14

会期:2013/05/03~2013/05/06

スパイラルホール[東京都]

各50人×2日間=計100人のクリエーターが狭いブースで繰り広げるスパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル(SICF)の前半。アーティストではなくクリエーターを対象としているせいか、チャラチャラした工芸やイラストが多くていたたまれず、帰ろうとしたら目に飛び込んできたのが橋村至星の絵。正方形のキャンバスにそれぞれパック入りの肉、野菜、魚、果物などを描いて並べ、チープな蛍光灯をつけてブース全体をお店屋さんに仕立てている。おやじ好みな作品。これも村田真賞だ!!

2013/05/04(土)(村田真)

フィギュア誕生30周年「海洋堂フィギュアワールド」

会期:2013/05/02~2013/05/07

東急東横店西館8階催物場[東京都]

東急東横線の渋谷駅が廃止されたと思ったら、東急東横店の入口も閉鎖されてるではないか。50年前から変わらぬ渋谷駅を知ってる者としては寂しい限り……と思ったら、閉館したのは東館だけで、西館はまだ現役ピンピン。ってほどでもないけど、海洋堂のイベントをやっていたので行ってみた。海洋堂のフィギュアで思い出すのが、レオナルドとミケランジェロが繰り広げたといわれる「絵画と彫刻、どっちがエライ?」論争だ。ミケランジェロが「絵画はイリュージョンにすぎないけど、彫刻は実在だぜ」とケンカ吹っかけたのに対し、レオナルドは「彫刻は奥行きや状況描写ができないけど、絵画ならできるもん」と答えたという。本当にあったかどうかもわからない論争だが、海洋堂のフィギュアはレオナルドの反論に対する反証になっているように思えるのだ。まずフィギュアは、2次元でしか表わせなかったキャラクターの画像を、かなり強引に3次元に起こしてみせた。いってみれば多焦点的なピカソの絵を立体化したようなもんだ。さらに海洋堂は踏み込んで、火や水といった流動物の固定化や、遠近感をともなう背景描写、動きや変化などの時間表現までちっちゃなフィギュアに採り込んでしまう。レオナルドをして彫刻には不可能だといわしめた状況描写を、海洋堂はいともたやすく(でもないだろうけど)フィギュアで実現してみせたのだ。ぼくがフィギュアに関心をもつのはその1点のみだ。

2013/05/04(土)(村田真)

トーキョー・ストーリー2013 第2章「アーティスト」

会期:2013/05/02~2013/07/07

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

1年ぶりに再開したTWS渋谷では、先月見たTWS本郷に続き、2013年度のクリエーター・イン・レジデンスの成果を問うオープン・スタジオが開かれている。アーティストは足利広、遠藤一郎、栗林隆の3人で、彼らは同時期にレジデンスを体験したことで意気投合し、「アーティストとしての生き方」「アーティスト自身」を提示するところからプロジェクトを始動したという。それはいいんだけど、作品は各展示室に置かれた鉄の檻(客も入檻できる!)と、メインルームで3面スクリーンに映し出される林や祠や鳥居の映像くらいしか見当たらない。これだけ? ショボすぎないか? 本郷の「第1章」では各自精一杯つくっていて見ごたえあったのに、これはないだろ。と思ったら、会期中「作品」であるアーティストが会場を変容させていくと書いてあった。そうか、お楽しみはこれからなのね。どうやら来るのが早すぎたようだ。

2013/05/04(土)(村田真)

アートアワードトーキョー丸の内2013

会期:2013/04/27~2013/05/26

行幸地下ギャラリー[東京都]

チャラい絵が多いなかで異彩を放ったのが伊勢周平の作品。下地を施していないカンヴァスに灰色の円を描き、その下からさまざまな色の絵具が流れ落ちている。つまり灰色の円はいろんな色を混ぜてできたものであることがわかる。ただそれだけのことを完璧な技術で表現し尽くしている。もしこれが灰色でなければ、もしこれが四角であれば、もしこれが横長の画面だったら、まったく異なる意味を有していたはず。彼のみ作品に関してノーコメントと無粋なのもいい。天野太郎賞はうなずける。村田真賞も勝手に追加だ。あと印象に残ったのは、コップを描いた波部早紀子と、食べ物を描いた高木智子。藤田嗣治の《アッツ島玉砕》を黒一色で描き、ラメを散らせた平川恒太の作品も気になる。

2013/05/02(木)(村田真)