artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ソンエリュミエール、そして叡智

会期:2012/09/15~2012/03/17

金沢21世紀美術館[石川県]

金沢美術工芸大学での特別講義のため金沢へ。早めに着いたので21世紀美術館を訪れる。展覧会名の「ソンエリュミエール(Son et Lumi re)」は「音と光」の意味らしい(出品作家のピーター・フィッシュリとダヴィッド・ヴァイスにも同題の作品がある)。この春から開かれていた「ソンエリュミエール──物質・移動・時間」を第1章とし、第2章となる今回は「世の中の矛盾に正面から向き合い、立ち続けようとする人間の可能性を探る」のが趣旨。そのため「人間社会を鋭い眼差しで捉え、その膿みをあぶり出す。あるいは絶望自体も取り込み、半ば自虐的ともいえる手法で、それでも生き抜こうとする現代人の姿を映し出そうとする」アーティストを集めたという。引用すると楽だ。出品作家はフィッシュリ&ヴァイスのほか、最年長ゴヤから最年少Chim↑Pomまで14組。同館コレクションを中心とした出品なので見覚えのある作品が多い。初対面の作品では、ジェイク&ディノス・チャップマンがアドルフ・ヒトラーの水彩画に上書きしたとかいう作品に少し心を動かされた。

2012/11/16(金)(村田真)

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来往舎現代藝術展9 インスタレーションワークショップ「ことばの森」

会期:2012/11/15~2012/11/21

慶応義塾大学来往舎ギャラリー[東京都]

近藤幸夫ゼミの学生有志で企画・運営される来往舎現代藝術展、9回目の今年はミヤケマイによる言葉を使った参加型の公開ワークショップが行なわれた。植木が置かれた会場には、参加者が書いた文がシリトリのように上から連なり、まさに「ことばの森」。昨年の「菅木志雄展」とはずいぶん違うなあ。それより床に敷きつめたオガクズ、掃除が大変そう。

2012/11/15(木)(村田真)

大岩オスカール──Traveling Light

会期:2012/11/14~2012/11/26

渋谷ヒカリエ8階キューブ[東京都]

オスカールが東京都現代美術館で個展を開いたのは2008年というから、4年ぶりに見る新作展だ。作品は(本人も)ぜんぜん変わってない。マンネリに陥るのでも自己模倣にハマるのでもなく、ひたすら描き続けているらしい。相変わらず東京ともニューヨークともサンパウロともつかない都市や郊外やジャングルの風景に、判じ絵やダブルイメージなどの遊び心を加えて寓意性を高めているが、同時に、いやそれ以上に色彩と筆触の醸し出す絵画性にも注目したい。たとえば、都市の片隅や森林の枝葉など主題から外れた部分の描写。彼はそんなどうでもいいような細部を義務的に処理するのではなく、むしろ中心主題より画面の端っこにこそ描く喜びが宿るといわんばかりに奔放に筆を走らせる。それが鑑賞者にも伝わるから見ていて楽しいし、そこにオスカールの真骨頂があると思う。

2012/11/14(水)(村田真)

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そこからの景色

会期:2012/11/05~2012/11/17

ギャラリーなつか[東京都]

彫刻の伊東敏光、絵画の吉田夏奈、版画の吉永晴彦による風景を主題にした3人展。なかでも山を人体や頭部に見立てた伊東の風景彫刻がおもしろい。風景を彫刻でつくるのは最近ちょっとした流行のようだが、その場合たいていは急峻な山だ。こんどはぜひ平野を彫ってほしい。

2012/11/13(火)(村田真)

MOTアニュアル2012──風が吹けば桶屋が儲かる

会期:2012/10/27~2012/02/03

東京都現代美術館[東京都]

この弛緩しきった緊張感はなんだろう? 2000年の「ギフト・オブ・ホープ」を最後に、ゆるーい団体展状態が続いていた「MOTアニュアル」だが、今年は久々にコーフンした。「美術館の備品を手作りで再現して、設置しました」などと記した紙を並べた森田浩彰に始まり、下道基行、ナデガタ・インスタント・パーティー、奥村雄樹、佐々瞬、田村友一郎、そしてなにも展示しない田中功起まで、すべてがこの美術館、この展覧会をモチーフに作品づくりをしているように見受けられる。のみならず、出品作家同士が協力し、相互に影響し合い、すべての作品がつながってひとつの大きな作品を形成しているようにも感じられるのだ。ひとりひとりの作品は相変わらずゆるいけど、ゆるいまま合体したら個々の作家性を超えてメタアニュアルなできそこないのガンダム状態になりました、的な前代未聞の事態に陥っているのだ。「MOTアニュアル」史上最高のデキだと思う。いや結論はまだ早い。桶屋が儲かるまでもう少し時間がかかりそうだから。これはもういっかい見に行く価値がある。

2012/11/13(火)(村田真)

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