artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

タケヤアケミ──SOSに関する小作品集

会期:2012/10/05~2012/10/07

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

大野一雄フェスティバルのプログラムで、映像と言葉と身体を絡めたパフォーマンス。スクリーンに数秒ごとに映し出される「SURPRISE OR SHOCK」とか「SPIRIT OF SAMURAI」とか「SOUND OF SILENCE」(はなかったかも)といった言葉にタケヤが反応し、なかば即興的に言葉と動きを紡ぎ出していく。これを何度か繰り返すうち、3文字のイニシャルがタイトルにもなってる「SOS」であることに気づく。というと、知的なコンセプチュアル系のパフォーマンスに聞こえるかもしれないが、実際にはひっくり返ったり、しどろもどろになったり、素っ裸になったりする天真爛漫なタケヤの性格に負うところの多いパフォーマンスであった。ところで「タケヤアケミ」の名前に記憶があったので、ひょっとしてと思い終演後に聞いてみたら、やっぱり! 彼女は25年前に横浜の開港記念会館で開かれたパフォーマンス・フェスティバル「メイ・ガーデン」に、いまは亡きアーティストの村上達人が連れて来た新人ダンサーだった(当時は竹谷明美)。そのとき、ぼくがこのイベントのコーディネーターをやり、またBankART代表の池田氏はPHスタジオのメンバーとして参加していたのだ。ああ、なんかひとまわりしてつながった感じ。

2012/10/07(日)(村田真)

メトロポリタン美術館展「大地、海、空──4000年の美への旅」

会期:2012/10/06~2013/01/04

東京都美術館[東京都]

最初に「メトロポリタン美術館展」を見たのは高校生のとき。ボナールのバラ色の絵が美しかったなあ。以来40年、何度開かれたことだろう。メトロポリタンに限らず、ルーヴルもエルミタージュも数年に一度はコレクション展が開かれている。彼らは数十万から数百万点ものコレクションを持っているから、毎年100点ずつ違う作品を選んでも1万年は続けられる計算だ。でもそれじゃあ芸がないので毎回テーマを立てることになる。ちなみに40年前の初の「メトロポリタン美術館展」のときはテーマなし、サブタイトルもなしの名品展だったが、それでも30万人もの人が集まった。今回はテーマが「自然」、サブタイトルは「大地、海、空──4000年の美への旅」というもの。これは西洋美術の紹介としては王道からはずれるけど、自然と親しんできた日本人向けには妥当な設定かもしれない。作品は、理想化された風景や人の手の入った農村風景、動植物を描いた絵や工芸、自然をとらえた写真など、時代もジャンルもさまざまで、プッサン、レンブラント、ターナー、ドラクロワ、ミレー、モネ、ゴッホと、巨匠たちの作品もそろってる。また、日本向けを意識したのか、ティファニーのガラス工芸やカエルをモチーフにしたお盆、エミール・ガレの飾り棚など、日本美術の影響を受けたジャポニスム系の作品も目についた。そうやって見ると、ゴーガンの《水浴するタヒチの女たち》もジャポニスム色の濃い絵であることに気づく。いろんな意味で楽しめる展覧会。残念なのは、メトロポリタンはフェルメール作品を5点も持ってるのに1点も来てないことだが、「自然」がテーマだから仕方がないか。

2012/10/05(金)(村田真)

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館長 庵野秀明 特撮博物館

会期:2012/07/10~2012/10/08

東京都現代美術館[東京都]

毎夏恒例のアニメ展、10回目の今年は「エヴァンゲリオン」シリーズで知られる庵野監督が「館長」となり、日本固有の発展を遂げてきた「特撮」に焦点を当てる。怪獣やウルトラマンよりも、彼らが壊すミニチュアセットに異常な興味を抱いていた小学生の私だったら狂喜したであろうこの展覧会を、40年以上たったいま小学生の息子と見に行くことになった。怪獣やウルトラマンの着ぐるみやマスク、海底軍艦のミニチュアや設計図、特撮用の道具や機材がところ狭しと並ぶ美術倉庫の再現など、約500点の展示。ああもっと早く見たかった。最後は東京タワーを中心とする昭和の東京のジオラマセットと、それを背景に特撮したスタジオジブリ短編映画『巨神兵東京に現わる』の上映。おまけのメイキング映画では、限られた予算のなかでCGに頼らず、いかに知恵を絞って最大の効果を発揮させるかが描かれていておもしろい。大の大人があーでもないこーでもないといいながら嬉々として特撮に講じる姿に、日本のお家芸の秘密をかいま見た気がする。

2012/10/01(月)(村田真)

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沈崇道個展「毛沢東肖像画」

会期:2012/09/08~2012/09/29

東京画廊+BTAP[東京都]

沈は60年代から上海美術設計公司で中国共産党幹部の肖像画制作にたずさわり、なかでも最高機密の国家主席・毛沢東の公式肖像画を手がけた数少ない画家のひとりだという。しかし改革開放が進むにつれ肖像画の需要が減り、上海美術設計公司も退社。同展は沈が退社後に描いた毛沢東の肖像画10点を展示するもの。もはや公的な肖像画ではないのだから自由に描いてもいいはずなのに、どれもキチンと描いているのは長年のあいだに身に染みついてしまった習性ゆえか、それとも彼自身の律儀な性格ゆえか。おかしさと哀しみを誘う展覧会。

2012/09月28日(金)(村田真)

『ニッポンの、みせものやさん』試写

会期:2012/09/28

TCC試写室(2012年12月から新宿K's cinemaにて上映)[東京都]

江戸後期には300軒、昭和なかばにも48軒残っていた見世物小屋もいまや1軒を残すのみとなった。その1軒、大寅興行社を奥谷洋一郎監督が10年にわたり追いかけたドキュメンタリー。情報社会の発達とともに身体性が希薄になり、不気味さやうさん臭さの消えていくこの世の中では(別の不気味さやうさん臭さは生まれるが)、たしかに見世物小屋の生き残る余地は少ない。でも逆に、だからこそヘビを食ったり火を吐いたりする人間のナマの身体性を再確認する必要があるだろう。似たようなことは美術にもいえるはずだ。高齢化が進み絶滅寸前となった悲哀感漂う見世物小屋の芸人たちと、まるで緊迫感のない監督のユルい語りが残酷なまでに時代のギャップを浮き彫りにする。

映画『ニッポンの、みせものやさん』特報

2012/09月28日(金)(村田真)