artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

川俣正「Expand BankART」

会期:2012/11/09~2013/01/13

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

BankART全館を使った久々に大規模な川俣の個展。川俣と横浜といえば、2005年に総合ディレクターとして関わった横浜トリエンナーレが記憶に新しいが、それ以前から何度か制作を行なっていた。じつはBankARTの隣に神奈川県警ビルが建つ前は三菱倉庫があり、それが取り壊される直前の1988年にファイナルイベントとして「ヨコハマフラッシュ」が開かれ、崔在銀や田原桂一らとともに川俣も参加していた。もっとさかのぼって1980年には神奈川県民ホールギャラリーと横浜市民ギャラリーでグループ展に出品している。でも個展としては今回が初めてだ。そもそも日本でこれほど大がかりなインスタレーションが実現するのも初めてのことかもしれない。まず海岸通に面したアプローチに古い窓枠をつないで屋根をつくり、NYKの外階段から外壁をはうように屋上までパレットでおおっていく(この時点では未完成)。遠くから見ると、屋上から流動物が流れ出てくるイメージだ。館内に入ると、1階のホールではパレットを積み上げて壁面をおおい、洞窟のような空間を創出。2階は天井から無数の窓枠を平行に吊るし、3階には柱の上方にツリーハウスみたいな構築物を設置するといったプラン。どれも今回が初めてというわけではなく、たとえば天井を窓枠でおおうのはロンドンのサーペンタイン・ギャラリー(1997)などで、大量のパレットを流動的に配置するのはヴェルサイユのアートセンター(2008)などで、柱にツリーハウスを組み立てるのはパリのポンピドゥー・センター(2010)などで、すでに実現している。つまり今回の個展は、これまで世界各地で見せてきたさまざまなスタイルの集大成的インスタレーションといっていい。ちなみに、素材は木ならなんでもいいわけではなく、窓枠は近くにある解体前の公団住宅から提供され、パレットはここがもともと倉庫であることから使うことにしたという。この場所ならではの素材を選んでいるのだ。

2012/11/23(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00019645.json s 10066491

コラボレーションプロジェクト 植田工×茂木健一郎

会期:2012/11/05~2012/11/25

RISE GALLERY[東京都]

脳科学者の茂木が次々と「指令」を出し、アーティストの植田が絵で応えていくコラボレーションプロジェクト。その指令とは、たとえば「偶有性の海を描け!」とか「相互作用同時性を描け!」といった抽象度の高いものから、「縄文人の『絵日記』を描け。『うわあ、今日も松茸かあ』」とか「脳の中にいる、小さな人(ホムンクルス)を描け!」といった具体的イメージを喚起するものまで、どっちにしろ絵にするのが難しいものばかり。それに対して植田は当初、具体性のある言葉を拾って絵にしていたが(たとえばマツタケの絵を描くとか)、どうもそんなものを期待されているのではないと悟り、徐々に植田本来の奔放なドローイングに近づいていったという。たしかに壁に貼り出された絵を見ると、指令の言葉に比較的忠実な初期の具象派から、あまり言葉にとらわれない後期の混沌派へと変化が見られる。ある意味エントロピーの法則どおり。

2012/11/22(木)(村田真)

トランスアーツトーキョー

会期:2012/10/21~2012/11/25

旧東京電機大学校舎11号館[東京都]

神田錦町にある地上17階、地下2階建ての旧東京電機大学11号館全館を使った展示。主催は東京藝術大学で、神田コミュニティアートセンター設立に向けてのプロローグだそうだ。とにかくデカイ。1フロアはそれほど広くないけど平均すれば10部屋程度あり、それが19フロアも重なってるのだから埋めるだけでも大変そう。各階10人のアーティストに任せても計190人のアーティストが必要だし(実際には約300人が参加)、見るほうも1フロア10分で見るとしても3時間以上かかる計算だ。なんて計算してる場合ではない。さっそくエレベーターで上まで昇って1階ずつ見て歩く。上階はカフェや藝大生たちのオープンスタジオに占められていたが、退屈なので足早に通過し、14階で足が止まった。どの部屋もガラクタやスプレーの落書きで埋め尽くされ、フロア全体がひとつのインスタレーションみたいな様相を呈している。Chim↑Pomの卯城竜太が講師を務める美学校の受講生たち10数人による展示だった。見てもいいけどわかんねえだろ的な藝大生と違い、来場者を驚かせ楽しませるサービス精神に富んでいて大変よろしいと思います。ひとつ飛ばして12階も見る価値があった。とりわけ、窓から見える経団連ビルのロゴ「KEIDANREN」を原寸大に再現した佐藤直樹のウォールドローイングと、女性ファッション誌を飾る「小顔革命」「ツヤぴち肌」「女を磨く�。」「今すぐGET!」といったキャッチコピーを切り抜いて部屋中にびっしり貼った渡部剛のコラージュインスタレーションが秀逸。ずっと降りていって5階、コレクター岡田聡が代表を務める「どくろ興業」所属のアーティストたち(どくろオールスターズ)によるインスタレーションも、グッチャグチャで楽しめた。3階では岩田草平が部屋のなかに土の家を建て、和田昌宏は雨を降らせていた。低層階では藝大系アーティストによるコミッションワーク、昔の神田の写真や神田っ子のポートレート写真などが展示されていたが、いいかげん疲れたので通過。やはりこういう取り壊し寸前のビルというハレの時空間ではバカやらなきゃシカトされると痛感しました。

2012/11/22(木)(村田真)

森村泰昌 展「アーカイブ、それから」

会期:2012/11/03~2013/02/11

佐賀町アーカイブス[東京都]

額縁絵画の上に石膏で型どりした足首を置いた作品がポツンと1点。まるで踏み絵じゃないか、と思ったらまさに《踏み絵》という作品だった。森村泰昌は1990年に佐賀町エキジビット・スペースで個展「美術史の娘」を開催し、人気を博す。バブルの真っただ中、佐賀町も森村も勢いがあった(森村は勢い余ってモリエンナーレだ)。《踏み絵》はそのときの出品作品。もうふた昔以上も前の話だ。

2012/11/22(木)(村田真)

福嶋さくら「ブルー・バックグラウンド」

会期:2012/11/21~2012/12/09

Bambinart Gallery[東京都]

ひとけのないシュルレアルな風景に家や柵が描かれ、主要部分だけ刺繍が施されている。刺繍を使った作品は珍しくないが、彼女のように絵画の上に刺繍する例はあまり聞いたことがない。でもこのままだと「私的」「女性的」作品に見られがちで、趣味的絵画に終わってしまう可能性がある。1点だけ、赤と緑の糸で縦線を縫った抽象的な作品が異彩を放っていた。補色なのでチラチラし、ちょうどなにも映ってないテレビの画面みたい。これは画廊の人によれば、1点の絵が完成してから次の絵に移るあいだの幕間としての意味があるらしいが、ちょっと別の可能性を感じさせた。

2012/11/22(木)(村田真)