artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
坂本夏子 新作展「Still Life」
会期:2012/10/11~2012/11/10
ケンジタキギャラリー/東京[東京都]
坂本夏子というと、遠近法的にちょっと歪んだ格子状の空間に数人の人物がいる絵(と書いて河原温の「浴室」シリーズを思い出した)の人かと思ったら、今回は違った。暗い背景に青灰色で不定形のイメージをザワザワと描いている。風景にも群像にも静物にも見えるがそのいずれでもなく、かといって抽象と呼ぶにはモノの気配が残る。タイトルは「Still Life」なので静物に基づいたイメージなのだろう。以前よりいちだん深みに入り込んだ印象があるが、これは深化(進化)なのかどうか。
2012/10/16(火)(村田真)
美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年
会期:2012/10/16~2013/01/14
東京国立近代美術館[東京都]
開館60周年を記念するコレクション展。華やかさには欠けるけど、ほかの美術館から有名作品を借りて祝うより、たとえ貧弱でも自前のコレクションを精一杯見せるほうが誠実だし、好感がもてる。でもタイトルのように「ぶるっ」た作品がはたしてどれだけあっただろうか。たとえば岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》とか関根正二《三星》とか橋本平八《幼児表情》とか、たまにぶるってもプチぶる程度。もう少しぶるっちゃう作品はようやくその後に出会う。戦争記録画だ。宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》にしろ藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》にしろ、色彩は暗いけど、やっぱり密度や緊迫感が違うなあ。戦争記録画が終わってしばらく行くと、妙に明るく乾いた現代美術が目に飛び込んできて面食らう。なんかヘンだなあと思いつつ外に出たら、第2部「実験場1950s」の入口があった。そうか50年代が抜けてたんだ。こちらは全国の美術館から作品を借りての大展開。でもなんで50年代だけ拡大するの? と思ったら、近代美術館ができたのが1952年だからということらしい。そのため50年代美術を紹介するというより、写真やイラスト、デザインも含めて時代気分を浮かび上がらせようとしている。こんな大変な時代に近美はスタートしたんだと。
2012/10/15(月)(村田真)
ニューアート展 NEXT 2012「動く絵、描かれる時間:ファンタスマゴリア」
会期:2012/09/28~2012/10/17
横浜市民ギャラリー[神奈川県]
いつ「今日の作家展」が終わって「ニューアート展」になって、いつから尻に「NEXT」がついたのかウヤムヤだが、どうやらギャラリーの入ってるビル解体のためこの企画展自体ウヤムヤに消滅しちゃうかもしれないとのウワサも。いずれにせよ関内駅前では最後の「ニューアート展 NEXT」ということで、今回はかなり思いきった企画。なにが思いきったかって、まずタイトルのように絵が動くこと。いや、絵が動くのは最近では当たり前で、むしろ動かない絵に驚く人が増えたことに驚く。次に思いきったのは、出品作家がシムラブロスと金澤麻由子のたった2組なこと。これは予算上の都合だろうけど、2組だとつい対比して見てしまう。そこで実際に対比して見ると、映画を構成する光、物質、時間といった要素を問い直し再構築しようとするコンセプチュアルなシムラの映像インスタレーションと、観客が触れることでメルヘンチックな手描きアニメが動く金澤のインタラクティブな映像とでは、あまりに方向性が違いすぎないか。まあ「動く絵」の多様性を示すにはいいのかもしれないが、もう1組くらいほしかったなあ。
2012/10/14(日)(村田真)
リヒテンシュタイン──華麗なる侯爵家の秘宝
会期:2012/10/03~2012/12/23
国立新美術館[東京都]
展示室に入ると円柱とアーチがしつらえてあり、ちょっと宮廷の気分。もう少し進むと、壁も天井もバロック調に装飾された大部屋に出る。おお、これは安っぽいながらもいい感じ。きっとこんな部屋で王侯貴族どもは芸術を楽しんでいたに違いない。壁には絵画のほか装飾ゴテゴテの鏡やタペストリーが掛けられ、床にはテーブル、キャビネット、彫刻が置かれ、なんと天井にも楕円形の絵が4点はめられているではないすか。展覧会で天井に絵を飾るというのはあまり聞いたことがない。ディスプレイばかりに気をとられているが、作品もすばらしいのが来ている。クエンティン・マセイス《徴税吏たち》やクリストファーノ・アッローリ《ホロフェルネスの首を持つユディト》は、数ある同主題の絵のなかでも優品だと思うし、ブリューゲルの数点の作品はコピーとはいえ貴重なもの。しかしなんといっても圧巻なのはルーベンス。幅4メートルを超す《占いの結果を問うデキウス・ムス》をはじめ大作が4点も。額縁も絢爛豪華で、ゴテゴテの装飾が60センチくらい突き出してる額もある。これどうやって運んだんだろう。でも大作もいいが、ルーベンスの技巧を味わうには小品や下絵がいちばん。なぜなら弟子の手が入ってないし、本人の筆の勢いが直に感じられるからだ。とくにチラシやポスターにもなった《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》のような家族の肖像は、プライベートなものだけにひしひしと伝わってくるものがある。いやー満足。
2012/10/12(金)(村田真)
中国──王朝の至宝
会期:2012/10/10~2012/12/24
東京国立博物館[東京都]
「日中国交正常化40周年」を記念するこの展覧会が、中国で反日運動が盛り上がるこの時期に開かれるというのはどうなのよ。今日の内覧会にはアグネス・チャンも来ていたが、記者から「中国の反日活動をどう思います?」とイジワルな質問をされていた。展覧会は、中国美術に関してほとんど知識も興味もない私にとってもかなりおもしろいものだった。なにがおもしろいかって、蜀とか楚とか秦とか唐とか宋とか王朝が代わるごとに美術の様式もゴロッと変わること。もちろんつながりのある時代もあるけど、西洋美術史みたいに継承・発展していかないで、前の時代の様式がまるでなかったかのようにまったく別の様式を打ち立て、またそれをチャラにして……というシジフォスの神話みたいなことを何千年も繰り返してきた。このムダなエネルギーの消費こそ大河中国の足を引っぱってきた要因なんだなと、あらためて気づいたのでした。やはり中国は奥が深い。
2012/10/09(火)(村田真)