artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

現代絵画のいま

会期:2012/10/27~2012/12/24

兵庫県立美術館[兵庫県]

横尾忠則現代美術館から海に向かって20分も歩けば県立美術館に着くはずだが、道が不案内だし荷物も増えたのでタクシーでビュンっと。石田尚志、奈良美智、野村和弘、平町公、丸山直文、三宅砂織ら若手を中心とする14人の絵画展。東京では「VOCA展」や「シェル美術賞展」など絵画のコンペはたくさんあるのに、なぜか美術館企画のバリッとした絵画展(個展を除く)は関西に比べてとても少ないように思う。調べたわけではないけれど、絵画への情熱はなんとなく西高東低のような気がする。まあいいけど。で、この展覧会、でかい展示室にも余るドでかい布に神戸を俯瞰する風景を描いて張り巡らせた平町や、真っ白い壁におもに鉛筆でうっっっすらとほとんど見えない壁画を描いた野村、展示室内に小屋をつくり、その内部にペイントしていく過程を撮った映像をその場で見せる石田など、絵画の可能性と限界に挑戦する作家もいて、それはそれで楽しめたが、見終えた後でどうもなにかすっきりしない。なにがすっきりしないのかというと、たぶんこの展覧会がわれわれ観客をどこに導こうとしているのかはっきりしないことだろう。タイトルに引きつけていえば、「絵画のいま」がなんなのか結局よくわからないのだ。わからないのが正解なのかもしれないけど。

2012/11/02(金)(村田真)

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開館記念展「横尾忠則 展──反反復復反復」

会期:2012/11/03~2013/02/17

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

阪急で神戸の王子公園に出て、明日公式オープンの横尾忠則現代美術館へ。同館は、兵庫県出身の横尾忠則からの寄贈・寄託作品を保管・展示するため、かつての兵庫県立近代美術館新館(その後、原田の森ギャラリー西館)をリニューアルしたもの。地上4階、地下1階で、1階がオープンスタジオとミュージアムショップ、2階と3階が展示室で、4階にデザイン原稿から雑誌、LPレコードまで横尾関連の資料を保管するアーカイブルームがある。開館記念展の「反反復復反復」は、「ピンクガールズ」や「Y字路」など時代を超えて横尾作品に何度も登場する同一モチーフの絵画を集めたもの。それにしてもこれほど模倣、模写、反復を公言してはばからない画家も珍しい。絵を描きたいというより、真似したいという欲望に突き動かされて描いているんじゃないかと思えるくらいだ。しかしそもそも絵を描くとはなにかを真似る、あるいは輪郭をなぞる衝動から始まったと考えれば、横尾こそもっとも真っ当な、真っ正直な画家といえるかもしれない。

2012/11/02(金)(村田真)

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中原浩大「ドローイング1986-2012 コーちゃんは、ゴギガ?」

会期:2012/09/22~2012/11/04

伊丹市立美術館[兵庫県]

JRで伊丹へ。なぜ伊丹で中原浩大のドローイング展なのかといえば、最初期の1986年の手と足のドローイングを伊丹市立美術館が所蔵しているからだ。その1986年から2012年の新作まで数百点の展示。といっても、この4半世紀のうち1996年から2004年まで10年近くがすっぽり抜けている。中原が登場したのは80年代前半だが、90年代なかばからフェイドアウトしていき、その後たまに写真作品が発表されたりするものの現在にいたるまで「復帰」した観はない。けれど2005年ごろからドローイングは描いていた。したがってタイトルに「1986-2012」とあっても中間が抜けているのだ。また、数百点といっても、ドローイングの描かれた紙1枚ずつを額装して展示するだけでなく、スケッチブックも含めて10点前後展示している陳列ケースもあり、バラせば何点になるかわからない。というより、そもそも中原のドローイングは1点1点独立した作品として数えるべきものだろうか。たしかに彼のドローイングはヴァリエーションに富んでいるけれど、むしろそれゆえに全体でひとつのドローイングを形成しており、1点1点はいまだ全貌がつかみきれない大きなドローイングの部分にすぎないと考えたほうが納得しやすい。これはある程度だれの作品にもいえることだが、とりわけ中原のドローイングに当てはまる気がする。

2012/11/02(金)(村田真)

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宮永愛子「なかそら──空中空」

会期:2012/10/13~2012/12/24

国立国際美術館[大阪府]

長さ20メートルはあろうかという透明アクリルケースに、コップや缶、本、洗濯バサミ、ジグソーパズルが置かれ、表面が白い霜のようなものでおおわれている。が、霜ではなくナフタリンだという。「世界はいつも変わり続けている」という彼女の世界観をかたちにするため、常温で昇華するナフタリンを用いる。変わり続ける世界を作品として提示するのに美術ほど向いてないジャンルもないと思うが、そのチャレンジャブルな姿勢は買おう。でも、別の暗い展示室に白い柱やハシゴを何本も立て、アクリルケースのなかにナフタリンの蝶を展示しているインスタレーションを見ると、なんでこんな舞台設定が必要なのか首を傾げてしまう。とくに隣では石っころを置いただけみたいな「もの派」を中心とするコレクション展が開かれているせいもあって、よけい細工が気になる。と思ったら、最後の部屋にはキンモクセイの葉脈をつないで巨大なタタミイワシ状にした作品が、天井から床にかけてタランと横たわっていて、なぜかひと安心した。

2012/11/02(金)(村田真)

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エル・グレコ展

会期:2012/10/16~2012/12/24

国立国際美術館[大阪府]

この展覧会は東京にも巡回するけど、ついでだから寄って見た。記者発表のときにも書いたが、エル・グレコに対する唯一の関心事は、なんでこんなに絵のヘタな画家が美術史に残ったのかということに尽きる。人体デッサンは狂ってるし、その上に着せた衣装はハリボテにしか見えない。色彩もやたら黒を用いるから肖像画の顔なんか灰色でまるで死人のようだ。ギリシャ人のくせにちゃんと石膏デッサンをやらなかったんだろうか。「だってマニエリスムだもん」ではすませられない逸脱ぶりだ。しかしそんな荒っぽさがモダンといえば、たしかにベラスケスなんかよりはるかにモダンといえるかもしれない。こんな絵ほかに描くやついないから、だれが見たってエル・グレコだってわかるし。でもだからといって美術史に残るか。

2012/11/02(金)(村田真)

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