artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
村上佳苗「うみやまのあいだ」
会期:2012/08/04~2012/08/26
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
やまと絵の遊楽図とボッスの《快楽の園》を足して2で割ったような連作絵画。技法的には西洋画だが、須弥山のような山が現われたり、獅子舞の獅子が顔をのぞかせたり、画面に霞がかかっていたり、絵の世界観(宇宙観というべきかも)は東洋的だ。各画面にはたくさんの人が描かれているが、絵と絵のあいだの壁にもまるで聖地を巡礼するかのように人の姿が直接描かれているのがおもしろい。これは労作。
2012/08/26(日)(村田真)
長谷川義朗(オル太)「刺し身処 五右衛門」
会期:2012/08/04~2012/08/26
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
長谷川は、物量と泥臭さと力仕事で勝負するオル太のメンバーのひとりだが、今回はソロショー。ギャラリー中央には豊漁を願う魚介類満載の巨大熊手が立ち、壁には幅5メートルはありそうなテント地に「刺し身処五右衛門」の看板絵がペンキで描かれている。この「刺し身処 五右衛門」は長谷川の故郷である福井県小浜市に実在する海鮮料理屋で、この看板絵も店主に依頼されて制作したもので、実際にお店に飾られているらしい(よく見ると「おばま」つながりで現アメリカ大統領の肖像も)。かたわらのモニターには、この看板絵を担いで国会前の反原発デモに参加したときの映像が流れている。そういえば小浜市は“原発銀座”ともいわれる若狭湾に面した街で、現在唯一稼動している大飯原発から20キロ圏内に位置するという。なるほど、刺身~小浜~大飯原発~反原発デモと芋づる式につながっているのだ。これは明快でわかりやすい。
2012/08/26(日)(村田真)
原倫太郎+原游「影祭──夏祭り万華鏡、真夏の行進」
会期:2012/07/29~2012/09/17
十日町商店街[新潟県]
昨日は松代のBankART妻有で作品制作。今日帰る前に、7月のバスツアーで見逃した十日町商店街の展示を見に行く。入口の暗幕を開けると、がらんとした薄暗い空きスペースにポツンと電球が灯され、壁や床や天井に人やものの影が伸びている。実体がないので影は描かれたものだとすぐわかるが、影自体が錯綜しているので光源はひとつではないらしい。よく見ると、松代にあるイリヤ&エミリア・カバコフの彫刻によく似た人影もあって、いろいろな仕掛けが施されているようだ。近所の人たちを連れてきたり身近なものを使って、この場所で制作したサイトスペシフィックな壁画といえる。
2012/08/25(土)(村田真)
「戦争と宣伝」阿智村ポスターが語る
会期:2012/07/28~2012/09/02
長野県立歴史館[長野県]
長野新幹線で上田に出て、しなの鉄道に乗り換えて屋代駅で下車、そこから徒歩で25分かかるのだが、炎天下を歩くのはツライので駅でチャリを借りてようやく長野県立歴史館に到着。なんでこんな山奥の、でもないか、風光明媚な場所に来たかというと、そのあとで越後妻有に行くという「ついで」もあるが、ここで開催中の企画展「戦争と宣伝」をパフォーマンス・アーティストの霜田誠二がワケあってススメていたからだ。この展覧会、同県の阿智村の土蔵に残されていた第2次大戦中のプロパガンダポスターを公開するもの。これら国策宣伝ポスターは敗戦後に焼却命令が出たが、当時の村長が密かに保存していたという。ポスターは計135点あり、うち約70点を国民精神総動員、貯蓄奨励、志願兵徴募などに分類展示し、あわせて先行する欧米のポスターなどを例に、いかにプロパガンダポスターがつくられたかも検証している。ポスターの大半は名もない図案家による素朴なイラスト系が占め、それはそれで当時の日本の美意識がうかがえて感慨深いものだが、なかには横山大観や竹内栖鳳らの絵画に基づいたものや、当時としては斬新な写真を組み合わせたポスターなどもあって興味は尽きない。レアもの中のレアものは、「海軍志願兵徴募」の「昭和21年度採用」と書かれたポスター。これは敗戦の昭和20年8月以前につくられたものだろうが、海軍はこの期におよんでまだやる気満々だったのか。大きな展覧会ではないが、見ごたえのある意義深い企画だった。さてこれから長野に出て、飯山線でちんたら越後妻有へ。
2012/08/23(木)(村田真)
UNKNOWNS
会期:2012/08/20~2012/08/25
藍画廊+ギャラリー現[東京都]
東京造形大学の近藤昌美教授が選んだ4人の学生の作品に、慶応義塾大学の近藤幸夫ゼミの学生がテキストをつけるという近藤×近藤の試み。藍画廊には大久保薫、高山夏希、生井沙織の3人、ギャラリー現には北島麻里子ひとりが展示している。名前だけ見ると全員女性かと思うが、大久保のみ男性。興味深いのは、大久保の絵が一見3コマ漫画みたいに物語性があるかに見えて、その実ペインティングそのものに重点を置いているのに対し、ほかの3人は逆に描かれたものより、その背後にある物語性(または思想性)を重視しているように感じられること。もちろんどちらがいいというわけではないし、またそれが性差によるものかどうかは知らないが。しかし毛髪や血液を画材に使ったり、愛犬の遺骨を粉にして固めたりする北島の作品は、なかなか男は発想しないと思う。会場では近藤ゼミによるテキスト(表紙は「作品批評」だが中身は「作品解説」)が配られていたが、これを読んでつくづく感じるのは、やっぱり書くより描くほうがエライというか強いというか楽しいというか。
2012/08/20(月)(村田真)