artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
あべゆか「欲望の国」
会期:2012/07/07~2012/07/29
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
純白のドレスを着けたマネキンの足下から、深紅の絨毯が奥まで敷かれている。マネキンの胸元にはニセの100ドル紙幣がはさまっていて、紙幣の肖像部分がおそらく作者の顔にすり替わっている。けっこうナルシシストだ。左右の壁には数点ずつ、奥の壁には100号6枚をつなぎ合わせた巨大画面が鎮座。描かれているのはサーカスかパーティーか、鮮烈な色彩とコテコテのマチエールでにぎやかな情景が展開している。マネキンも含めて楽しげで華やかなだけにいっそう虚無感が募り、見終わった後なにも残らないというか、虚しさだけが残る。そこまで意図しているのか。
2012/07/19(木)(村田真)
伊藤純代「Her Memory」
会期:2012/07/07~2012/07/29
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
服も肌もサーモンピンク(というより肉色?)の少女人形が6体ほど立っている。その顔は小さな人形の顔をツギハギしたもので、かなりグロテスク。しかも紙の上からドロリとした樹脂がかけられていて、サディスティックな趣味も感じられる。その人形のあいだにはウレタンフォームと造花による生け花が置かれ、そこにも毒々しい樹脂がかけられている。ちょっと生理的にあわないなあ。
2012/07/19(木)(村田真)
岡田裕子「No Dress Code」
会期:2012/07/11~2012/08/11
ミヅマアートギャラリー[東京都]
壁には、表面に絵の描かれたゴワゴワの布が不定形なレリーフ状に展示されている。布はキャンバス地でブラジャーやストッキングなどをかたどっているようだ。表面に描かれているのはイクラとかゲロとか粒々、ドロドロのイメージ。また床にはパレット型のテーブルが置かれ、原色のナイフとフォークが2本ずつ並んでいる。そのナイフとフォークでなぞったらしき色の線がテーブル上に引かれ、どうやらナイフとフォークは絵具を固めて成型したものであることがわかる。キャンバス、パレット、絵具……ここにあるものはすべて絵画を成立させるための要素であり、それが衣や食といった人間の生に不可欠なものと結びついているのだ。いや衣といっても下着ばかりだし、その表面に描かれているイメージもドロドロとした流動的なものばかりだから、なにかもっと生理的なレベルで絵画をとらえ直そうとしているのかもしれない。
2012/07/19(木)(村田真)
水と土の芸術祭2012
会期:2012/07/14~2012/12/24
新潟市内各所[新潟県]
もういちど万代島のメイン会場をのぞいてから、市の中心部(新潟島)に点在する作品を歩いて見ることにする。最初に見たのは、廃園となった保育園に残されていた窯から架空の物語を発想し、保育園全体を作品に組み込んでしまったナデガタ・インスタント・パーティーの《ワンカップストーリー》。これはいちおう「土」と関連しており、ゆるさも含めて楽しめた。その後、渡辺菊眞+高知工科大学渡辺研究室、佐藤仁美、藤江竜太郎、近藤洋平、坂爪勝幸、照屋勇賢、華雪などを回ったが、省略。さて今回、越後妻有色が抜けて独自色を出すことができただろうか。答えはとりあえずイエスだ。前回と比べて全体に泥臭い作品が減り、なんとなくモダナイズされた作品が増えたように感じるからだ。それはおそらく、前回は潟や川岸に泥まみれになりながら設置する野外インスタレーションが目立ったのに対し、今回は旧水揚場をはじめ民家や記念館などを使う屋内展示が多かったせいかもしれない。ちなみに、前回は新潟市美術館に約10組の作家が展示していたが、今回美術館は会場からはずれ、「平山郁夫展」を開催中。そもそも作家選択が、前回のおもに水と土に関連する「泥臭い」作家と違い、今回は「モダン」な作家を選んで水と土のテーマを与えたという面がある。結果的に越後妻有色は抜けたといえるが、逆にモダナイズされた分、ほかの展覧会との差異が縮まってしまったかもしれない。
2012/07/14(金)(村田真)
水と土の芸術祭2012
会期:2012/07/14~2012/12/24
新潟市内各所[新潟県]
2009年に続き、第2回を迎える「水と土の芸術祭」。なんで同じ新潟県内で、先行する越後妻有の「大地の芸術祭」とカブるようなイベントをやるのかというと、もちろん第1回のディレクターが「大地の芸術祭」と同じ北川フラム氏だったからだが、では今回、北川氏が抜けて竹久侑+堀川久子+丹治嘉彦+佐藤哲夫の共同ディレクター制となった以上、いかに第1回との差異化を図るか、いいかえれば、どれだけ越後妻有色を抜いて独自色を発することができるかが見どころのひとつとなるはずだ。ともあれ、まずは今回の芸術祭の拠点となる万代島の旧水揚場へ。ここではカマボコ型の巨大空間に原口典之と大友良英×飴屋法水たちの大作インスタレーションが据えられ、隣の旧水産会館には宇梶静江、下道基行、タノタイガらの作品が各部屋に展示されている。注目すべきはやはり原口と大友×飴屋たちのインスタレーションだ。原口は天井近くに数本のパイプを渡してそこから大量の雨を降らせるという作品を披露。オイルプールや目の前の運河から汲んだ海水プールもあったが、このシャワーだけで十分だ。大友×飴屋は、廃材を集めてあたかも津波の被害に遭ったかのような廃墟を組み立て、脇に数百足もの古靴を置いた。どちらも水の怖さを感じさせる作品だ。一方、その奥の部屋で上映していた吉原悠博の映像は、信濃川を河口から源流までさかのぼりながら風景を撮ったものだが、その映像の美しいこと。旧水産会館では、部屋の床と天井を貫いて水先櫓を建てたタノタイガが健闘。しかしこの万代島の会場でもっとも感心したのは、端っこに建っていたプレハブ小屋を大改造したwah documentの《おもしろ半分製作所》。内部は迷路状に入り組み、2階建てなのに3階にも4階にも感じられるマジックハウスなのだ。午後2時からバスツアーで遠方の作品鑑賞に出発。3年前のインスタレーションを再現したアン・グラハムをはじめ、白砂糖で描いた大画面をお寺の屋根裏で公開した佐々木愛、民家の各部屋にドローイングを飾ったイリーナ・ザトゥロフスカヤ、重要文化財の大邸宅に「異人」シリーズを展示した石川直樹などを見て回ったが、いちばん楽しかったのは西野達のインスタレーション。1軒の住宅の天井から上を取っ払い、周囲に回廊を設けて上から各部屋を見下ろせるようにしている。住宅にはだれか(ボランティア)が住んでいるので、観客は他人の生活をのぞき見ることになる。wahにしろ西野にしろ「水」とも「土」とも直接関係がない。それがいいのか、それでいいのか?
2012/07/13(金)(村田真)