artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

石川順恵 新作展

会期:2012/07/09~2012/08/04

南天子画廊[東京都]

京橋を歩いてたら「石川順恵」の名前が目に入ったので寄ってみる。彼女の新作を見るのは久しぶりだ。下塗りしていないロウキャンバスにステイニング(にじみ)の技法で描いたこれまでの画面に、細い直線や曲線を直交させた格子模様を上書きしている。以前にもステイニングの画面にどこかからサンプリングした輪郭を描き加えていたが、それが格子状になったということだ。一見、ブラウン管テレビの走査線(もはや死語?)を思い出すが、それよりどこか日本的ともいえる色彩のせいか、絣を連想させずにはおかない。もともとキャンバス自体が織物だし、ステイニングは染物ともいえるから、絣の連想は的外れではないかも。

2012/08/03(金)(村田真)

画廊からの発言──新世代への視点2012

会期:2012/07/23~2012/08/04

ギャラリーなつか+コバヤシ画廊+ギャラリイK+ギャラリー現+ギャルリー東京ユマニテ+藍画廊+なびす画廊+ギャラリーQ+ギャラリー58+ギャラリー川船+GALERIE SOL+gallery21yo-j[東京都]

1993年に銀座と京橋の10画廊で始めたこの企画展、立ち上げ当初はバブルの余韻が残るものの景気が下降し始めた時代。それから10年は不況が続き、ゼロ年代なかばにちょっとしたアートバブルが起こったけれど、それもリーマンショックであえなくついえ……といったように浮沈を繰り返してきた(浮より沈のが長いけど)。当初の10画廊のうち現在も続けているのは7画廊で、そのうち移転もせずにがんばっているのはたった3画廊のみ。けっこう動きが激しい業界ではある。現代美術や若手作家を巡る状況もずいぶん変わったような気がするが、でも基本的になにも変わってないような気もする。いちばん変わったのは、「現代美術」「作家」という言葉が「アート」「アーティスト」に置き換えられたことかもしれない。「若い現代美術の作家たちへの支援と育成」を目的に始まったこの企画展も、このままずっと続けてほしいと思う反面、時代に即してどんどん変わっていってほしいとの思いもある。この炎天下、12軒全部回るのはツライので、少し離れたソルと遠く離れた21yo-jはあきらめて、計10画廊を回った。強く印象に残ったのは、日常的なゴミや紙くずなどを搬入用のバッグとともに展示した小栗沙弥子(コバヤシ画廊)と、モノクロームのドローイングと起き抜けのベッドや脱ぎ捨てた服を撮った写真の大森愛(川船)。このふたりに共通するのは、自分の身近な物事に固執していること、見た目に美しいわけでもおもしろいわけでもないこと。これって「アート」っていうより「現代美術」だよね。

2012/08/03(金)(村田真)

SHINING REPLACE

会期:2012/07/04~2012/08/03

第一生命南ギャラリー[東京都]

これはすごいなあ。ひとことでいえば都市風景なんだけど、オレンジ色の明かりが点々と灯る夜景とか、歪んだ鏡に映したように波打つビルとか、得体の知れぬ光の粒に覆われた都市とか、そのイメージはとても斬新だ。あるいは「モナリザ」の背景だけをつなげたり、ガラスかダイアモンドみたいな透明なものの集積を描いたり、難題にも挑戦している。ふと歪んだ都市像や漂う光の粒に、津波と原発事故を思い出してしまうのは過剰反応か。でもこれらの絵が、比べるのも気が引けるが、たとえばヒロ・ヤマガタのイラストなどに見られるにぎやかで華やかなだけの都市風景には望むべくもない不気味な奥深さをたたえているのはたしかだ。

2012/08/03(金)(村田真)

大地の芸術祭──越後妻有アートトリエンナーレ2012

会期:2012/07/29~2012/09/17

新潟県十日町+津南町[新潟県]

朝、十日町に出て芸術祭のオープニング。いつもキナーレの広い中庭で行なうのだが、今回はボルタンスキーが古着を敷きつめてしまったため使えず、駐車場の隅っこで華々しい開催となった。再びバスに乗って見学ツアー。今日のガイドさんは今回の芸術祭の公式ガイドブックの編集も手伝ったピー峰プー佳さんで、『中原佑介美術批評選集』の編集にかかわっているため、車内で披瀝してくれた「大地の芸術祭と中原批評」はとても示唆に富んでいた。今日はまず、津南町にある蔡國強のドラゴン現代美術館(アン・ハミルトンの個展を開催中)を訪れ、近くの廃屋でやっていたアン・ハミルトンの音の出る作品を鑑賞。昼食のソバをたぐってから、JR飯山線アートプロジェクトを見に行く。利用客が減る一方のローカル線の駅にアートを設置して活性化させようという試みで、越後田沢駅のアトリエ・ワンと河口龍夫による《船の家》、下条駅のみかんぐみ+神奈川大学曽我部研究室による《茅葺きの塔》のふたつ。下条駅の近くでは小沢剛らが明治初期の《油絵茶屋》を再現している。十日町に戻り、廃校に土の作品を集めた《もぐらの館》を見て、最後に中心街の空き店舗を利用した4組の作品を回り、駅前で解散。

2012/07/29(水)(村田真)

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大地の芸術祭──越後妻有アートトリエンナーレ2012

会期:2012/07/29~2012/09/17

新潟県十日町+津南町[新潟県]

上越新幹線、ほくほく線を乗り継いで十日町で下車、受付を済ませてプレス用バスツアーで出発。同乗したのは、ピー浜美術館館長やピー浜市芸術文化振興財団専務理事やピー日新聞美術記者やピー摩美術大学教授やピーメディア・デザイン研究所所長など美術関係者が多いせいか、ボランティアのガイド(ピー原プー子さん)は専門的な解説を避け、明るく楽しくをモットーに振る舞っていた。まず向かったのはアジア写真映像館。廃校となった小学校の校舎でロンロン&インリ、森山大道、石川直樹ら日中の写真や映像を公開しているが、こんな場所で見せられてもな。続いて鉢&田島征三の絵本と木の実の美術館でメシ食って、松代の農舞台に寄り、松之山のオーストラリア・ハウス、マリーナ・アブラモヴィッチの《夢の家》、ジャネット・ローレンスの《エリクシール/不老不死の薬》、ローレン・バーコヴィッツの《収穫の家》などを訪れた。このうち農舞台の新作とオーストラリア・ハウス以外は、いずれも既存作品を改修したりヴァージョンアップさせたもの。オーストラリアは以前、古い農家を借りて作品を見せていたが、地震で全壊したため別の場所に作家の滞在施設も兼ねた展示施設を新築。力を入れてるなあ。再び松代に戻り、昨年亡くなった中原佑介氏の約3万冊もの蔵書を積み上げた川俣正のインスタレーションを鑑賞。これは圧巻。最後にBankART妻有に寄って、十日町の越後妻有里山現代美術館「キナーレ」のオープニングへ。この現代美術館は原広司設計の交流館の回廊部分をギャラリーにしたもの。中央の中庭にはクリスチャン・ボルタンスキーの古着を積み上げたインスタレーション、ギャラリーにはカールステン・ヘラー、レアンドロ・エルリッヒ、ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー、クワクボリョウタらの作品が並んでいる。こんな場所に並べられてもな。夜は松代のBankART妻有に宿泊。

2012/07/28(火)(村田真)

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