artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
アンフォルメルとは何か?
会期:2011/04/29~2011/07/06
ブリヂストン美術館[東京都]
第2次大戦後のパリで起こった非具象絵画運動「アンフォルメル」。導入部ではマネ、セザンヌ、モネからピカソ、モンドリアンへと形象が次第に崩れていく過程を示し、フォートリエ、デュビュッフェ、ヴォルスらの「不定形」絵画へと入っていく。ミショー、アルトゥング、スーラージュら忘れかけていた名前と作品に久々に出会った。ポロックの小品もあったが、同時代のアメリカの抽象表現主義と比べて全体に小ぶりで人間臭く、どこか伝統を断ち切れてない印象がある。日本では「アンフォルメル旋風」の吹き荒れた50~60年代の一時期を除いて抽象表現主義のほうが評価が高かったような気がするが、それはフォーマリズムを受け入れたとかそういう話ではなく、単にアメリカの影響力が強まったからにすぎないだろう。だって日本の前衛絵画の大半はアンフォルメルに近いもん。作品は自館のコレクションをはじめ日本中の美術館から集めているが、石橋財団がこれほどアンフォルメル作品を持っていたとは驚きだ。それにしても海外からの出品がすべて(といっても4点だが)キャンセルされたのは残念。とくに原発大国フランスは過敏だ。
2011/04/28(木)(村田真)
中村哲也:炎迅
会期:2011/03/31~2011/05/14
ギャラリー小柳[東京都]
炎迅と書いてエンジンと読む。英語にすると「Engine」ではなく「Flaming Speed」、和訳するとやっぱり「炎迅」しかない。なんとなく火炎をあげて超高速で突っ走るエンジン車を思い浮かべるが、まさにそんな作品。レーシングカーのような流線型の車体(長さ約120センチと小さい)の表面に、火炎のパターンを描いたものが10体ほど白い台座の上に陳列されている。いかにも速そう、いかにも勇ましそうだけど、流体力学的にみればなんの根拠もない単なるカラいばりのハリボテにすぎない。第一エンジンそのものがない。そこがとってもアート。
2011/04/28(木)(村田真)
フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展
会期:2011/03/03~2011/05/22
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
ドイツ・フランクフルトのシュテーデル美術館からの出品。フェルメールの《地理学者》をはじめ100点近い作品をごっそり借りることができたのも、ご多分にもれず美術館の改修工事のためという。宗教画から肖像画、風俗画、風景画、静物画まで万遍なくそろえましたって感じで目の保養になった。お目当てのフェルメールだけでなく、マネのようにじつにあっさりと描くフランス・ハルスの肖像画、農民の風俗画で知られるヤン・ステーンの初期宗教画、マイケル・ジャクソンそっくりのバーレント・ファブリティウス(フェルメールの後継者と見なされたカレル・ファブリティウスの弟)の自画像、当時としては珍しく女性画家として成功を収めたラッヘル・ルイスの花の静物画など、見どころは少なくない。が、やっぱりフェルメールにトドメを刺す。《地理学者》はフェルメール作品としては描写に雑な部分があり、評価はけっして高くないのだが、こうしてあらためて見比べてみるとほかの画家とのレベルの差は歴然。もう空気からして違う。二流画家の最高傑作より、超一流画家の凡作のほうが優れていると断言しよう。
2011/04/25(月)(村田真)
手塚治虫のブッダ展
会期:2011/04/26~2011/06/26
東京国立博物館[東京都]
サブタイトルに「仏像と漫画でたどる釈迦の生涯」とあるように、おもに東博コレクションの仏教彫刻と手塚治虫の漫画「ブッダ」の原画を交互に並べ、おシャカさまの生涯をたどる展示。なんか先月まで開かれていた平山郁夫の「仏教伝来展」でも見たような仏像があるぞう。使いまわしか。それにしても東博が仏像と漫画を並べて展示するなんて、30年ほど前のカビの生えたような陳列品やお役所的な職員の態度を知る者にとっては、ずいぶん軟らかくなったもんだと感慨もひとしお。ひとつだけ難を申せば、いったい仏像を見せたいのか手塚漫画を見せたいのか、それとも釈迦の生涯を知ってほしいのか、ビミョーに焦点が合わないこと。もちろんそのすべてを紹介したいのだろうけど、手塚漫画を読んでると仏像がその参考資料にしか見えないし、仏像を見てると手塚漫画がその解説に思えてきて、いったいどっちに肩入れしたらいいのか悩んでしまうのだ。これはひょっとして、ぼくにとって漫画も仏像も(ついでに釈迦も)ほぼ等距離にあり、いずれにも特別な思い入れがないからなのかもしれない。
2011/04/25(月)(村田真)
森と芸術
会期:2011/04/16~2011/07/03
東京都庭園美術館[東京都]
タイトルにそそられて行ってみた。結論を先にいうとハズレだった。おしまい。ではあまりにそっけないので、ルソーの描く素朴なジャングル画から、コローの幻想的風景画、セリュジエによるシンボリックな森、エルンストらシュルレアリスムの森の表現、川田喜久治の撮った《ボマルツォの森》まで、興味深い作品はいくつかあった。豊かな森(国立自然教育園)に囲まれた庭園美術館ならではの企画、というのもわかる。でも、日本中から森の絵(や写真)をただ集めただけという印象は否めない。森といえばゴシック建築からアンディ・ゴールズワージーまでいろいろあるだろうに。
2011/04/19(火)(村田真)