artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ワシントン・ナショナル・ギャラリー展

会期:2011/06/08~2011/09/05

国立新美術館[東京都]

ロシアを含めた欧州の美術館が軒並み作品の貸し出しを渋るなか、印象派コレクションをポンと貸し出すとは、さすがアメリカは太っ腹。ま、それだけ放射能に関して正確な情報をつかんでるんでしょうね、日本以上に。そっちのほうがコワイな。で、やってきたのはコローからロートレックまで計83点。バルビゾン派やブーダンののどかな風景画に続き、マネの《オペラ座の仮面舞踏会》で目が洗われる。小品だが、近代的都市生活を描いた主題といい、黒を基調とした色彩といい、白い床と柱で画面を枠どる構図といい、まさにモダン絵画。さらに《鉄道》《プラム酒》と続き、ここが最初のピーク。だとすれば、中盤のピークはやはりモネ。なかでも《日傘の女性、モネ夫人と息子》は本当に輝くような明るさだ。版画や水彩をはさんで、終盤はセザンヌ、スーラ、ゴッホらが目白押しだが、1点あげるとすればセザンヌの《赤いチョッキの少年》。いつまで見ていても見飽きることがない。ほかにもバジールやカイユボットらあまり紹介される機会の少ない画家や、メアリー・カサット、ベルト・モリゾら女性画家も何点かずつ出ていて満足度は高い。試みに、1999年に開かれた「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」のカタログを引っぱり出してみると、印象派を中心に出品数も85点とほぼ同じで、ざっと数えてみたら20点以上が重なっていた。99年のほうは版画や水彩がないかわりに、ティツィアーノやフェルメールなどの古典絵画と、マティス、ピカソら20世紀絵画が含まれていて、今回よりお得感があるなあ。

2011/06/17(金)(村田真)

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ジパング展

会期:2011/06/01~2011/06/20

日本橋高島屋8階ホール[東京都]

会田誠、青山悟、池田学、風間サチコ、森淳一、山口晃……個々の作品は文句なくすばらしいのだけど、こうして「ジパング」の名の下にくくられてしまうとなんか違うような気がする。それぞれの作品はアナーキーなダイナミズムを抱えているのに、それがひとつの政治的な方向に収斂し、矮小化されてしまう危惧を覚えるのだ。そのことも含めて十分に挑発的な企画展であったことはたしかだが。

2011/06/16(木)(村田真)

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特集展示:石田尚志

会期:2011/06/11~2011/01002

東京都現代美術館常設展示室1F[東京都]

絵画は描かれた結果がすべてであり、描く過程は見ることができない。いや、アトリエで見学することはできるが、描く過程を作品として残すことはできない。石田はそれを映像を使って作品化しているユニークなアーティストだ。たとえば、アトリエの壁に窓からの光が射すと、その陰の部分に色を塗っていく。光は徐々に傾いていくので、塗る部分も少しずつ変わっていくという作品。あるいは、細長い紙に数本の筆でアラベスクのような線を引いていき、それをコマ撮りで撮影する。それを早回しで再生すると、線が植物のようにビュンビュン伸びていく……。絵画に内在する時間性をこれほどあからさまに露呈させたアーティストは珍しい。今回は石田の初期の油絵も展示されていて興味深い。それにしても、常設展示室なのに企画展顔負けの扱いはなんだろう。名和展ほどではないものの1階の半分以上のスペースを使っているし、会期は名和展より長いくらいだ。いやおおいにけっこうなことだが。

2011/06/16(木)(村田真)

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トーキョーワンダーウォール2011

会期:2011/05/28~2011/06/19

東京都現代美術館[東京都]

密かに楽しみにしている「ワンダーウォール」公募展。今年は立体も含めて92人の作品が入選。ざっと一巡して、これは村瀬恭子風、これは池田光弘風というように多くの作品に既視感を抱いてしまった。これは今回に限ったことではなく、ポストモダンの風潮ではもはや仕方のないことかもしれない。そんななかでちょっといいなと思ったのは、江川純太、山崎怜太、鈴木寛人、西山弘洋、林田茉莉、菊池奈緒、安藤文也、佐藤イチダイ、及川さとみの9人。ちょうど1割だな。

2011/06/16(木)(村田真)

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名和晃平──シンセシス展

会期:2011/06/11~2011/08/28

東京都現代美術館[東京都]

これはすごい。現代美術館の巨大な1フロアを作品で埋め尽くしている! そんなことで驚いていてはいけないのだが、しかし30代なかばで、しかも「セル(Cell)」というひとつのコンセプトでこれだけの仕事を見せられるのはやはり驚きだ。プリズムシートを貼った透明の箱に動物の剥製を入れた「プリズム」をはじめ、鹿の剥製を透明の球体でびっしり覆った「ビーズ」、人間や動物の全身像を解像度の異なる多面体で表わし、ズラして重ねた「ポリゴン」、おもちゃや日用品に発砲ポリウレタンの霧を吹きつけて表面をモコモコにした「ヴィラス」、シリコンオイルのプールに規則正しく泡を発生させる「リキッド」、そして圧巻は球体から発展させた高さ15mの巨大彫刻のパーツを並べた「マニフォールド」まで、「セル」を核に2次元(表面)と3次元(彫刻)を往還しながら立体、平面、映像などに展開してきた作品群は、見る者に知的な刺激を与えてやまない。が、物質の根源に迫ろうとするせいか作品に色彩がほとんどなく、また素材も制作方法もきわめて人工的なので(手の痕跡が薄い)、どこか遠い世界のデザイン展を見せられているようなよそよそしさを感じさせるのも事実。まあそれも含めておもしろいのだが。会場を一巡して最後の部屋に作品解説の紙が置いてあり、それを見ながらもう一巡するというアイディアもいい。

2011/06/16(木)(村田真)

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