artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

安齊重男 写真展「絵画試行」

会期:2011/05/16~2011/05/28

ギャラリー現[東京都]

1978~79年、ニューヨーク滞在時に撮影した建物の壁の写真。原色に塗り分けられたカラフルな壁もあれば、文字の書かれた壁、ペンキの飛び散った壁、崩れかけた壁もある。70年代末のニューヨークといえばちょうどグラフィティが盛んになり始めた時期だが、ここにはほとんど写っていない。あの好奇心旺盛な安齊さんがなぜグラフィティを写さなかったのかというと、写したら「グラフィティの写真」になって「壁」じゃなくなっちゃうから。別の言い方をすれば、多くのグラフィティライターを惹きつけたニューヨークの壁そのものに安齊さんもまた魅せられ、ラクガキするかわりに写真に撮ったというわけだ。ここに単なるドキュメンタリストでは終わらない表現者としての安齊さんがいる。

2011/05/18(水)(村田真)

松本秋則 展「Sound Scenes」

会期:2011/05/07~2011/05/16

ストライプハウスギャラリー[東京都]

ギャラリーには竹と紙によるたくさんのモビールが吊るされ、心地よい音を立てながらゆらゆら揺れている。と思ったら、音を出しているのはモビールではなく、これも竹でつくった音の出る装置。コンピュータなどを使わずタイマーで制御しているところに手づくり感があふれる。今回は窓側の仮設壁が除かれ、テラスに出られるようになっていて、その手すりにも釣り竿のようにしなる竿の先に風で音の鳴る装置をつけていた。六本木の喧噪から一歩入ったところに出現したオアシス。

2011/05/16(月)(村田真)

トーキョー・ストーリー2010

会期:2011/04/28~2011/05/28

トーキョーワンダーサイト青山[東京都]

スペイン、オーストラリア、メキシコ、スイスからのアーティストによる映像とインスタレーションの展示。ひとりを除き、3月の震災や原発事故を作品に反映させており、外国人の受けた衝撃の大きさを物語っている。アレックス・カーショウの映像作品《プレリュード》は、数十本のチューリップを花瓶に入れて数日間にわたり撮影したもの。徐々に頭を垂れたと思ったら、逆回しになって首をもたげていく。絵のように美しいとはいえ、これだけなら小瀬村真美をはじめよくある手法だが、つい見入ってしまったのは、そこに一瞬、3.11の前震が記録されているとパンフレットに書いてあったからだ。でもしばらく凝視していたけれど見つからず……。そうか、退屈な映像作品を見続けさせるにはキャプションに一言「オバケが映ってる」と書いとけばいいんだ。

2011/05/13(金)(村田真)

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第2回横浜開港アンデパンダン展

会期:2011/05/07~2011/05/15

BankART Studio NYK[神奈川県]

300人を超す出品者の約8割は絵画(あとは写真、立体、インスタレーションなど)、その約8割は具象画で、その約8割はデッサンからやり直したほうがいい。全体の約半分ですね。そもそもアンデパンダン展はヘタでも出せる素人の発表の場であるより、既成の公募展ではじかれてしまうような前衛的作品を受け入れる場ではなかったか。その立脚点に立ち戻らない限り、内向きの素人カラオケ大会の域を出ないだろう。

2011/05/12(木)(村田真)

トーキョー・ストーリー2010

会期:2011/04/28~2011/05/28

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

TWSのレジデンス・プログラムで海外から招聘されたり海外に派遣されたりしたアーティストの活動紹介。渋谷、青山でもやってるが、ここ(本郷)が11人でいちばん多い。もっとも笑えたのは岩井優の映像とインスタレーション。まず、仮設壁を丸くぶち抜いた穴を通って向こう側に出ると、赤い照明のもと3本の映像が映し出されている。その1本は、君が代が流れるなか男女が廃屋の床を布で拭いているもので、タイトルは《フラッグ・クリーニング》。なぜ旗のクリーニングなんだろうと思ったら、最後に床を拭いた布を広げると日本と台湾の国旗だったというオチ。これは台湾に派遣された岩井が、現地に残る古い日本住宅を舞台に制作した作品だという。そして帰りに壁の穴をくぐり抜けて振り返ったとき、初めて気がついた。白い壁をぶち抜いた穴が日の丸になっていることを。これは村田真賞だ。

2011/05/10(火)(村田真)

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