artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー
会期:2011/04/09~2011/06/26
東京オペラシティアートギャラリー[東京都]
あのオペラシティの無機質なギャラリー空間で開かれる写真展てどうなんだろう? と疑問を抱えつつ行ってみた。最初の部屋の都市の写真に娘のスナップを織りまぜた展示を見て、あこりゃダメだと思った。なんで自分の娘を出すかよと。しかしパンフを読むと写真の娘はホンマの子ではないうえ、他人の撮った写真も含まれているというのでちょっと興味がわいた。雑誌の広告を撮った写真を再編集して本にまとめた《リ・コンストラクション》や、野生動物の調査の写真とハンバーガーショップの看板の写真を壁と床に並べたインスタレーション、白い雪に黒い木の枝や赤い血がまるで抽象画のように見える《トレイルズ》を見ていくにつれ、なかなかいいじゃんと思うようになった。最後はホンマが尊敬してやまない中平卓馬を撮った映像だが、なんとタバコに火をつける瞬間をとらえただけの作品。シュバッ! いやあ入ったときとは裏腹に、とてもいい気分で出ることができた。つくづく逆の順で見ていかないでよかったと思う。
2011/05/21(土)(村田真)
篠原愛 展「ゆりかごから墓場まで」
会期:2011/05/14~2011/06/11
ギャラリーモモ 六本木[東京都]
100号大の正方形のキャンヴァス2枚を横に組んだ大型画面に、ぼろぼろに腐った恐竜とセーラー服の女子生徒が描かれている。それまで金魚と少女の組み合わせだったのが、いきなり恐竜、それも匂い立つような腐敗した恐竜だ。この腐り具合がまたなにを見て描いたんだろうと思うほどよく描けている。一見エルンストが多用したようなデカルコマニーの技法みたいだが、篠原は偶然性にゆだねることなく手ですべて描いているようだ。完成まで1年半かかったというが、そんなに腐った肉を描き続けて気はおかしくならなかっただろうか、心配だ。
2011/05/20(金)(村田真)
リヒターとトゥオンブリー「新作エディション」
会期:2011/05/07~2011/06/04
ワコウ・ワークス・オブ・アート[東京都]
リヒターとトゥオンブリーの豪華2人展。小品だけどね。トゥオンブリーの黄色っぽいピンボケ写真《チューリップ》は各240万円、リヒターのマーブリング絵画《アブダラ》は各360万円。小品だけどね。
2011/05/20(金)(村田真)
フィロズ・マハムド「ラメンテーション」
会期:2011/04/16~2011/06/04
オオタファインアーツ[東京都]
オレンジ、緑、黒などさまざまな色の穀物を機体に貼りつけた戦闘機の模型が5機。戦闘機より食糧を、という意味か。作者の故国バングラデシュの国内事情には疎いのでよくわからないが、武器と穀物の二者択一は世界共通の課題だ。ステンシル技法を用いた絵画もあり、こちらは17世紀ベンガル地方の太守とイギリス東インド会社との長い戦いを描いたものだという。描かれた内容もよくわからないが、キャンヴァスの隅に凹凸をつけて不定形にしている理由も不明。四角いキャンヴァスは帝国主義・近代主義の象徴なのかもしれない。
2011/05/20(金)(村田真)
毘堂「i-con」
会期:2011/05/10~2011/05/28
メグミオギタギャラリー[東京都]
額縁のなかにレリーフ状の顔が鎮座する。レオナルドの《モナ・リザ》をはじめ、ミケランジェロ、ラ・トゥール、フェルメール、ピカソ、モディリアーニなど名画に登場する女性の顔ばかり。木彫りに彩色したもので、ひもを通す穴や瞳の部分にものぞき穴を開け、まるでお面のようだ。いや実際、作者の本職は能面師だという。おもしろいのは、3次元の顔が2次元化された絵画を再び3次元化しているため、たとえばフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》のように斜め向きに描かれた絵は、やや歪んで立体化されていること。これはマンガを3次元化したフィギュアにも通じる、次元を往還する視覚体験といえる。しかもていねいなことにひび割れまで再現するという手の込みよう。絵画、工芸、トリックアートの境界線上に立つキワドい作品。ちなみに、お値段は高いほうから、レオナルド《モナ・リザ》、フェルメール《真珠の耳飾りの少女》、その他の順。やっぱり有名でひび割れが多いものほど高いようだ。
2011/05/18(水)(村田真)