artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
MAM PROJECT 014:田口行弘
会期:2011/03/26~2011/08/28
森美術館ギャラリー1[東京都]
ギャラリーは無惨にも壁が破壊され、向こうが丸見え。その解体した建材で椅子や小屋がつくられ、なにか工事現場のように活気があって楽しい。ビデオを見ると、数枚の板が外に出てあっちこっち移動するさまをアニメ化していて笑える。その板もこの壁をはがしたものらしい。反対側の壁には鉛筆や水彩でラフに描かれたスケッチが数百枚びっしり貼られている。これを見ると相当の才能であることがわかる。「フレンチ・ウィンドウ展」に放り込んでもヒルシュホーンと1、2位を争うほどの実力であることは間違いない。帰りにショップに寄ったら建材の破片に絵を描いたものを売っていたので、迷わず買った。
2011/04/12(火)(村田真)
フレンチ・ウィンドウ展
会期:2011/03/26~2011/08/28
森美術館[東京都]
震災のため開催が1週間ほど遅れた企画展。遅れただけでなく、天井から吊ったりする作品はいまだ展示を見合わせている。まあ展覧会自体が中止にならなかっただけでもよしとしなければ。「デュシャン賞に見るフランス現代美術の最前線」とのサブタイトルのついた同展は、フランス最大の現代美術コレクターの団体ADIAFが主催する「マルセル・デュシャン賞」の10周年を記念し、グランプリ受賞者らの作品やデュシャンの代表的レディ・メイドを出品するもの。驚いたのは、フランスには現代美術コレクターの団体が(しかも複数)あること、そのひとつがデュシャン賞を主催していること。これはおそらく年々注目度を高めているイギリスのターナー賞に対抗しようとしたものだろうけど、それをコレクターの団体が(ポンピドゥー・センターやFIAC[International Contemporary Art Fair]とともに)主催するというのだからスゴイというか、むしろマーケットの動向に左右されないか心配になるくらいだ。作品はデュシャン賞らしくレディ・メイドが多いなか、リヒターばりの都市風景を描くフィリップ・コニェ、煙の上がる中世の街並を他人に描かせたローラン・グラッソらの絵画や、廃物を寄せ集めたトーマス・ヒルシュホーンのインスタレーションにそそられた。ちなみにデュシャン作品はすべて国内(大半は京都近美)からかき集めたもの。日本はデュシャンの大コレクターなのだ。でもこれはレディ・メイドのレプリカのマルチプルだから、比較的入手しやすいけどね。
2011/04/12(火)(村田真)
浅見貴子 展──光合成
会期:2011/03/18~2011/04/10
アートフロントギャラリー[東京都]
雲肌麻紙に描いた水墨画。画面いっぱいにサイズも濃淡も異なる点々がうがたれ、その間を枝のように細い線が走っている。一見植物のように見えるが、表現主義的な抽象と見てもいい。これって、今年初めの「『日本画』の前衛」展にも出ていた船田玉樹の絵に似ているなあ。そういえば船田もアートフロントのバックアップで再評価された画家だし。でも似ているのは表面だけで、文字どおり裏面が決定的に異なっている。雲肌麻紙に表裏があるのかどうか知らないけれど、浅見は紙の裏側に描き、墨が染み出た表を見せるというのだ。つまり描いてるときは完成作とは左右逆になってるわけ。時間軸でいうと、ふつうの絵とは逆に、初めに描いた部分が画面の手前に見え、後で塗り重ねた部分は背後に隠れることになる。とくに油絵だと絵具を徐々に塗り重ねて完成させていくので、表に現われるのは最後の筆跡ということになり、このように表裏逆転した絵というのは想像がつかない。大げさにいうと、過去の光ほど遠ざかって見える相対性理論を思い出させる。あ、ここでは過去の筆跡ほど手前に見えるから逆だ。ともあれなにか創造の原点に触れるような試み。
2011/04/04(月)(村田真)
小林孝一郎 展「白とよこは、縦」
会期:2011/04/01~2011/04/21
竜宮美術旅館[神奈川県]
久々にわくわくする新人の個展に出会った。アフロアメリカンのポートレートを白い絵具で描いたり、凹凸のある白い壁に凹凸のある白い絵を掛けたり、ウミガメ(剥製)の甲羅にウミガメの甲羅模様を描いたり、チャブ台にチャブ台の表面の大理石(?)模様を描いて壁に掛けたりと、同義反復的なことをやっている。ウミガメを使うのは会場が「竜宮」だからというだけでなく、かつてカメの甲羅は吉凶を読みとるための視覚メディアでもあったからだろう。また、チャブ台は英語でテーブルだが、テーブルの語源は「タブロー」と同じなので、この作品はタブローの上にタブローを描いた「純粋タブロー」といえなくもない。フォーマリズムの盲点を突くような作品。でも売るのは難しそう。
2011/04/02(土)(村田真)
プリズム・ラグ──手塚愛子の糸、モネとシニャックの色
会期:2011/03/17~2011/06/12
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
そっか、織物って色糸を何本も織り交ぜてひとつの図を描いていく点で、絵具を混ぜ合わせないで線状に塗っていく印象派の描法と近いんだなあ。ていうか、織物のほうがずっと古いわけだから、印象派が織物に近いというべきかもしれないけど。その両者の近似性を刺繍という手法を使って解き明かしたのが手塚愛子だ。手塚は織物から色糸を丹念にほどき、赤糸や青糸だけをダラリと垂らす。これは、複雑な図柄の織物も単色の糸を縦横に織り込んだものにすぎない、という事実を明かすと同時に、絵画とりわけ点描法を含む印象派の画面がなぜ明るく輝いて見えるのかというナゾにも迫っている。モネをはじめとする印象派の画家たちは絵具を混色すれば彩度が落ちることを知っていたので、たとえば紫がほしいときには青と赤を混ぜないで相互に並べることで、遠くから紫色に見えるようにした。これをさらに徹底して原色を点状に配したのがスーラやシニャックらの点描派であり、もっといっちゃえば、点描派は色彩を画素にまで還元したデジタル画像の先駆者だったともいえなくはない。つまるところ手塚のやってることは単に糸を解きほぐすことではなく、いかに画像というものが成り立っているかを解きほぐすことではないかしら。モネとシニャックのある美術館ならではの好企画。
2011/03/28(月)(村田真)