artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

「プラド美術館所蔵:ゴヤ──光と影」記者発表

会期:2011/06/14

スペイン大使館[東京都]

ゴヤといえば40年前、ぼくが高校生のときに国立西洋美術館で「ゴヤ展」を見たなあ。このときは《裸のマハ》と《着衣のマハ》が対で出品されたり、晩年の壁画「黒い絵」がパネル展示されたりして話題を呼んだ。もうひとつ覚えているのは、当時500~600円が一般的だったカタログがこのとき800円もして驚いたこと。以来カタログは分厚く高価になる一方だ(といっても一般書籍に比べれば割安だが)。で、40年ぶりの「ゴヤ展」はやはり国立西洋美術館で開催されるが、残念ながらマハは着衣だけで裸のほうは来られないそうだ。裸も見たいよお。でも、ゴヤ特有の暗さを放つ肖像画が何点か来るし、晩年の自画像も見られるので楽しみ。ところで、西洋美術館の青柳正規館長はあいさつで、タイトルの「光と影」を「光と闇」に間違えていた。館長、「光と闇」はつい先日まで西洋美術館でやっていた「レンブラント展」のキャッチコピーですよ。かくも西洋絵画には「光と闇」の表現が多いというか、日本人は西洋絵画に「光と闇」を見出したというか。はからずも東西の絵画表現の根本的な違いにまで思いを馳せてしまうのだった。

2011/06/14(火)(村田真)

任意の点を「R」とした展覧会

会期:2011/06/04~2011/06/19

竜宮美術旅館[神奈川県]

竜宮美術旅館は、横浜の日ノ出町にある和洋折衷のラブホ(時代的に「連れ込み旅館」というべきか)を改装したアートスペース。外壁は赤と白で装飾され、風呂場や水回りには魚や女性のレリーフが飾られている一見の価値あり建築だ。その竜宮(=R)を中心に1キロ圏内でゲットした素材を作品に採り入れるという条件で、横浜界隈で活動するアーティスト9人が参加。和室で福島原発の葬式を行なった今井紀彰、畳の上にミラーボールの屏風を置いたタムラタクミ、ペインティングに駄菓子屋で買ったゴム製ウンコをちりばめた吉井千裕、廊下に巨大な剣を突き刺した杉山孝貴など老若男女、テーマも形式もさまざま。むしろこの多様性が奇妙な建築空間と相まって、展覧会の強度を高めているように思えた。あ、ぼくも小品を出してました。

2011/06/04(土)(村田真)

松下徹「KELEN」

会期:2011/05/21~2011/06/19

island MEDIUM[東京都]

頭蓋骨やスニーカーをモチーフに表面を削ったりひびを入れたりしている。最初は写真(印画紙)の上に細工しているのかと思ったら手描きだそうで、じつに複雑な技法と工程を駆使して画面を処理しているらしい。作者はアメリカで思春期をすごし、グラフィティやストリートアートに触発されたという。たしかにモチーフはストリート系だけど、完璧な仕上がりはむしろ工芸に近い。

2011/05/27(金)(村田真)

高井史子「the water」

会期:2011/05/21~2011/06/12

Bambinart Gallery[東京都]

モノクロームに近い青灰色で人気のない風景を描いている。なかには左右対称の風景もあり、必ずしも実在する場所を描いたものでないことがわかる。作者はドイツに留学していた経験があるというが、そういえばこのどんよりとした風景はドイツっぽい。こういう陰鬱なロマン主義絵画ってけっこう好きだけどなあ。

2011/05/27(金)(村田真)

山本伸樹 展「失くなったもの 残ったもの」

会期:2011/05/20~2011/06/12

HIGURE 17-15 cas[東京都]

1階には、軽トラックやドラム缶を新聞紙で型どった立体が無造作に積まれ、2階にはやはり新聞紙で固めた子ブタが数十匹ぶら下がっている。これだけではなんのことだかさっぱりだが、作者が福島県在住で、しかも使用した新聞紙が震災報道で埋められていることに気づけば、これが震災後、そして原発事故後の荒涼たる姿を表わしていることは明らかだ。もちろん被災地の光景はこんなものではないだろうけど、そんな希有な災害に直面した表現者のやむにやまれぬ思いは痛いほど伝わってくる。

2011/05/27(金)(村田真)