artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
五百羅漢
会期:2011/04/29~2011/07/03
江戸東京博物館[東京都]
震災の影響で3月15日のオープンが1カ月半ほど遅れた待望の展覧会。幕末の絵師・狩野一信によって描かれ、芝増上寺に秘蔵されてきた「五百羅漢図」全100幅を一挙公開するというのだ。これまでも西洋化した開国期の日本絵画とか、幕末の奇想画とかいった文脈で何点か展覧会に出されたことはあるけれど、一挙公開は初めてのこと。業火に包まれる地獄、匂い立つような餓鬼、血まみれの死体などを細密に、極彩色で、ときにハンパな遠近法や陰影表現を用いて描いている。そんな絵が100幅も並んでいる(凝ったインスタレーションだ)から壮観きわまりない。若冲、蕭白、北斎ら奇想の系譜のまさに正当な後継者というべきか。展覧会を監修した山下裕二氏の解説も「さながら『朝まで生テレビ』である」とか「一信のアドレナリンは最高潮に達している」とか「羅漢ビーム」とか「キリンビールの『麒麟』のようなもの」とか「『羅漢建築事務所』から『羅漢工務店』に発注された寺院の建設」とか、解説の域を超えて絶好調、もう好き放題書いている。やっぱり企画監修者が楽しめなきゃ展覧会は楽しくならないよ。
2011/05/06(金)(村田真)
画家たちの二十歳の原点
会期:2011/04/16~2011/06/12
平塚市美術館[神奈川県]
何年か前、兵庫県立美術館で画家の最後の作品を集めた「絶筆」展ってのをやったけど、これはその逆で、画業の出発点に焦点を当てる試み。タイトルの「二十歳の原点」というのは高野悦子の著書から採られた言葉だが、どっちかというと原口統三にどっぷり浸かった経験のあるぼくとしては「二十歳のエチュード」にしてほしかったなあ。ま、ふたりとも20歳でデビューするどころか自殺しちゃうんだけど(自殺することによってデビューしたともいえるが)。ともあれ、ここでいう「二十歳」とは正確な年齢ではなく、画家がデビューする10代後半から20代前半までの幅をもたせた年代のこと。留学先のパリで法律の勉強から画家へ転向しようとした黒田清輝の自画像から、やけに老成した岸田劉生の22歳の自画像、「へえこんないい絵を描いていたんだ」と見直した中川一政の少女像、とても10代の絵とは思えない関根正二の人物画あたりまでは想定内だった。しかし、最初からいまと変わらぬ水玉を描いていた草間彌生、19歳でグラフィックデザイナーとしてデビューした横尾忠則のポスター、なぜか津波に襲われた東北の街を彷彿させる森村泰昌の漁村風景、みずから「糞絵」といいながら「処女作にすべてがある」と認める会田誠の通称「まんが屏風」あたりになるともう想定外。というより、あまりに現在につながっているのが想定外だったのだ。会田のいうとおりまさに「処女作にすべてがある」。いやあおもしろかった。
2011/05/03(火)(村田真)
アーティスト・ファイル2011──現代の作家たち
会期:2011/03/16~2011/06/06
国立新美術館[東京都]
内外8作家が出品。特定のテーマを設けず、いま注目すべき作家を紹介するというコンセプトなきコンセプトのアニュアル展だが、絵画あり陶芸あり写真あり映像ありインスタレーションありと作品は多彩で、それぞれオリジナリティは高い。たとえばクリスティン・ベイカーの具象とも抽象ともつかない荒々しいタッチの巨大絵画。まるでカーレースの事故を思わせる破壊的イメージや、ジェリコーの《メデュース号の筏》を参照したとおぼしき図像が、表面が湾曲したツルツルの合成樹脂の上に描かれていたりして、それが成功か失敗かはともかく、果敢な試みであることは認めたい。というか、もはやこんなところでしか差別化が図られなくなってしまったのか。タラ・ドノヴァンも、100万本はありそうな透明なストローを壁面に沿って積み上げ、ところどころ出っ張らせたインスタレーションをつくっていて、アイディアとしては感心しないけど、それだけに真似するヤツもいないだろうという「独走性」は感じさせる。それらにはさまれて松江泰治の写真とビデオは一見おとなしく映るが、その質の高さは圧倒的だ。やはり基本に忠実なアートこそ人の心に残るし、歴史にも残ると思う。
2011/05/02(月)(村田真)
トーキョー・ストーリー2010
会期:2011/04/28~2011/06/26
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
TWSのクリエーター・イン・レジデンスに招聘されたり海外に派遣されたりしたアーティストの活動を、渋谷、本郷、青山の3カ所で紹介している。渋谷では下道基行とカールステン・ニコライの作品が秀逸。下道は、古本のシュリーマン『古代への情熱』と手塚治虫『ブラックジャック2』を合本させたり、夏目漱石や宮沢賢治らの文庫本の巻末にある略歴を継ぎはぎして『略歴集』を編んだりして、それを人から人へと手渡していく《旅をする本》と、アジア、ヨーロッパ、日本の各都市の屋外にある椅子を撮り集めた《そといす》というふたつのシリーズを出している。各地を旅するなかから編み出されたアートですね。カールステン・ニコライは、おっさんが飲料水の自販機にコインを入れると自販機が光を点滅させながらリズミカルな音を奏で、最後にボトルが出てくるというビデオを制作。おっさんが見た一瞬の夢みたいなファンタジックな映像だ。ヨーロッパには自販機は少ないから珍しいのかも。
2011/04/30(土)(村田真)
ヘンリー・ダーガー展
会期:2011/04/23~2011/05/15
ラフォーレミュージアム原宿[東京都]
ワタリウム、原美術館とわりとファッショナブルな美術館で4、5年にいちど開かれるダーガー展。今回はラフォーレミュージアムでの開催だ。ダーガーはいまや若者のファッションか。導入部ではまずダーガーの生い立ちやエピソードなどがパネルで紹介されている。家族も友人もなく、人知れず半世紀にわたり破天荒な超長編絵物語《非現実の王国で》を書き続け、孤独のうちに死んだという事実を刷り込まれたうえで作品を見てもらおうという仕掛け。展示は順路もなく、仮設壁が迷路のように入り組んでいて、この希代の絵物語の紹介にはふさわしい。もっともこれらの絵の大半は大きな横長の紙の表裏に描かれているので、両側から見るには仮設壁を多用するしかないという事情もあるが。いずれにせよ展示されてる絵より、その絵を描いた(描かざるをえなかった)ヘンリー・ダーガーその人とその行為が圧倒的な重みをもつ。
2011/04/29(金)(村田真)