artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

大谷弘明/日建設計《愛媛県美術館》

[愛媛県]

竣工:1998年

大谷弘明/日建設計による、《愛媛県美術館》へ。丸みを帯びた展示室のヴォリューム群を太い柱で持ち上げ、それらを連結しつつ、ガラスで包む。震災前に東京で見たジブリのレイアウト展がちょうど巡回しており、超満員だった。ピクサー展と比較して、日本アニメの手による技や、天才型の作品制作がわかる。それにしても、ジブリの展示を訪れた100人に1人も、常設には流れていないというくらいのガラガラで残念である。せっかくジブリを契機に、美術館に足を運んだのだから、ここでつながらないともったいない。

写真:左=上から2つ《愛媛県美術館》 右=上から、《愛媛県美術館》、ジブリのレイアウト展

2016/06/19(日)(五十嵐太郎)

木子七郎《愛媛県庁舎》

[愛媛県]

竣工:1929年

クライン・ダイサム・アーキテクツによる《ラフォーレ原宿・松山》(すごい名前!)はすでに閉店したとは聞いていたが、敷地を訪れると、建物もなくなっており、別の施設が建っていた。商業施設ゆえの短命である。しかし、市電から不意に視界に入るドームをいただく巨大な《愛媛県庁舎》(1929)は、現代の都市に突如出現した様式建築のように見え、不意をつかれて驚く。これも《萬翠荘》を担当した木子七郎による設計だ。

2016/06/19(日)(五十嵐太郎)

《坂の上の雲ミュージアム》ほか

[愛媛県]

竣工:2006年

以前、長谷川逸子の《ミウラート》や安藤忠男の光明寺を仕事でピンポイントで訪れただけだったので、今回はゆっくりと松山市を散策した。木子七郎による《萬翠荘》(1922)は、アール・ヌーヴォーのテイストを入れたフランス風のRC造の洋館である。室内は地元の作家の展示にも活用されていた。ただし、建築の説明文は難ありで、なんとかしてほしい。
坂を下ると、安藤忠雄による《坂の上の雲ミュージアム》だ。三角形プランの外周をめぐりながら、展示や《萬翠荘》の眺望を楽しみ、最後は中央の吹抜けを一直掩に貫くコンクリートの階段を降りて帰る。展示では、明治時代の熱い自由民権運動を紹介していたが、平成のいまでさえ、そうした基本的な考え方が浸透しているのかと不安になった。まるで、多くの人たちは景気さえ良ければ、国に対する自由も権利もいらないかのようだ。
なお、《坂の上の雲ミュージアム》の背後に、長谷川逸子による《菅井内科》がちらりと見える。これは鋭角が多用される安藤建築とは対照的に、カラフルで波打つファサードになっており、両者の対比も興味深い。

写真:左=上から、菅井内科、《坂の上の雲ミュージアム》、《萬翠荘》 右=上から2つ《坂の上の雲ミュージアム》、《萬翠荘》

2016/06/19(日)(五十嵐太郎)

丹下健三/丹下健三計画研究室《愛媛信用金庫 今治支店》ほか

[愛媛県]

竣工:1960年

今治では、海からの軸線を受けとめる市庁舎、市民会館、公会堂、そして《愛媛信用金庫今治支店》(1960)など、丹下健三の建築も訪問した。ル・コルビュジエの影響を強く受けた作品群がよく残っている。西洋美術館の世界遺産入りによって、こうした近代建築が今後もきちんと保存されるようになるとよいと思う。また海側には原広司による《みなと交流センター》も完成し、オープンを待つだけとなっていた。船のようなヴォリュームを持ち上げる未来建築である。

写真:左=上から、《みなと交流センター》、《愛媛信用金庫今治支店》、市庁舎、市民会館 右=上から、《みなと交流センター》、公会堂、市民会館、公会堂

2016/06/18(土)(五十嵐太郎)

《ところミュージアム大三島》ほか

[愛媛県]

竣工:2003年

松山へ。5月に高知でお会いしたJIAの武智和臣さん、中尾忍さんの取り計らいで、《伊東豊雄建築ミュージアム》にて、ミニレクチャーと交流会を行なう。ここでは《シルバーハット》の空間を体験できるが、東京に比べて、建築の軽やかさが、さらに開放的になって、海と山の絶景と対峙している。そして多面体の空間が連鎖する《スチールハット》では、伊東らの大三島での取り組みを紹介する新しい展示が、ちょうど設営中だった。
山本英明が設計した《ところミュージアム大三島》が、これに隣接する。斜面に沿った2枚のコンクリートの壁に挟まれたエリアが美術館だ。上部は間伐材のヴォールトに白い膜の屋根を架け、道路側から内部に入り、展示室を降りて、一番下の端部は海に向かってテラスを突き出し、シャッターで開閉を行なう。これも恵まれたロケーションを生かした半屋外の建築になっている。また近郊には伊東豊雄の設計による《今治市岩田健母と子のミュージアム》もある。廃校と海に隣接し、ぐるっと円を描くコンクリートの壁だけで空間をつくり、その内部に彫刻群を設置する。ほとんど外部であり、大きく大きく青い空が頭上に広がって見える気持ちのよい場所だ。帰りには巨木のある大山祇神社に立ち寄ることもできた。

写真:左=上から、シルバーハット、スチールハット、《今治市岩田健母と子のミュージアム》 右=上から、シルバーハット、《ところミュージアム大三島》、大山祇神社

2016/06/18(土)(五十嵐太郎)