artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

考古資料展示開催記念対談 松木武彦×五十嵐太郎「先史のメディア論」

会期:2016/06/06

東北大学トンチクギャラリー[宮城県]

朝日新聞の書評委員会で松木武彦『美の考古学』に最優先の花丸をつけたにもかかわらず、担当をとれなかったために本を購入したのだが、五十嵐研の縄文展示プロジェクトを担当する学生に推薦したら、読書会が盛り上がり、とうとう著者を招く企画が実現した。松木は、文字がない時代ゆえに、土器や石斧などのモノと徹底的に対峙し、人間の普遍的な認知パターンと絡めて、当時の思考を読みとく。上部構造から歴史をとらえ返す試みでもある。彼の考え方は、デザイン、建築、アートの関係者にとっても興味深いだろう。

2016/06/06(月)(五十嵐太郎)

パーマ屋スミレ

会期:2016/05/17~2016/06/05

新国立劇場 小劇場 THE PIT[東京都]

鄭義信「パーマ屋スミレ」@新国立劇場。在日コリアンをめぐる三部作のラストを飾るものだ。高度経済期に男たちは炭鉱事故の後遺症や産業の衰退に苦しみ(理想の社会を求めて、北朝鮮に向かうものもいる)、一方、南果歩ら演じる三姉妹の女たちは厳しい暮らしのなかでも、たくましく生きようとする。最初、3時間弱は長いと思ったが、この尺でないと表現できない時間の流れと町の記憶を感じさせる作品だった。

2016/06/04(土)(五十嵐太郎)

《昭和女子大学附属昭和こども園》

[東京都]

竣工:2015年

納谷兄弟による《昭和女子大学附属昭和こども園》を見学する。大学のなかに位置するものだが、待機児童問題の時節柄、企画の途中で入園する想定人数が増えたらしい。長い歴史をもつ旧施設の記憶を断片的に散りばめながら、2階に持ち上げたランドスケープ的な園庭を置く都心型の施設である。室内は曲面を強調しつつ、全体が流動的につながった空間だ。一方、キャンパス内の立地を意識し、建物の正面は大階段で軸線を受け止める。

2016/06/04(土)(五十嵐太郎)

ちはやふる 上の句/ちはやふる 下の句

小泉徳宏監督『ちはやふる 上の句』。広瀬すずが走るだけで、いまの彼女しか発しないオーラを生むが、他の俳優陣もその人にしかない個性と役割を発揮し、素晴らしいアンサンブルを奏でている。その団体戦こそが映画のテーマでもあるのだが。競技かるたのスピード感のある対決を映画的にカッコよく描いた手腕も見事だ。立て続けに、『ちはやふる 下の句』を見る。作品のトーンはだいぶ変わり、それぞれがなぜかるたをするのかを自問し、いったんはチームがバラバラになるが、最後は個人戦もつながりが大事なのだと気いて成長する。両作品が相互に補完する関係をもつ。後編から新しく登場した個人主義を貫く若宮詩暢役の松岡茉優が圧倒的な存在感だった。この映画は、表情の変化と手の動きで多くのことを伝えている。

2016/06/01(水)(五十嵐太郎)

デッドプール

自ら「スーパー」だけど「ヒーロー」じゃないというマーベルのシリーズでも格段にしょうもないギャグや下ネタ連発のキャラが主人公である。もっとも彼は幸福の絶頂で病にかかるという悲しい運命を経験し、醜くなった容姿のコンプレックスをもつ。CGでなんでもできる現在、もうアクション・シーンで驚くことが少なくなっただけに、観客に語りかけ、過去の映画もネタにする狂言回し的ふるまいが新鮮だった。

2016/06/01(水)(五十嵐太郎)