artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
福井来訪──シーラカンスK&H《丸岡南中学校》ほか
[福井県]
福井へ。シーラカンスK&Hによる《丸岡南中学校》は、プログラムが重要な建築であるため、外から見学しただけでは、その特徴は完全にはわからない。黒川紀章が設計した《福井市美術館》は、お得意の円錐ガラスによるエントランスと湾曲する曲面の壁を組み合わせており、国立新美術館とよく似ている。これに対峙する遠藤秀平の《TRANSTREET 下馬》は、美術館のカーブを引き受けながら、スロープが蛇行する公園の遊具的な建築である。そして槇文彦の《福井県立図書館》は、周囲から目立つ赤いキューブのヴォリュームに蔵書を収め、その足下に広がる開架の大空間には、天光が降りそそぐ柱群が並ぶ。
写真:左=上から、丸岡南中学校、同上、福井市美術館、右=上から、福井市美術館、TRANSTREET下馬、同上、福井県立図書館
2015/10/24(土)(五十嵐太郎)
中国建築家連続講義第1回 王昀(WANG Yun)──21世紀北京の都市建築論
会期:2015/10/23
東北大学青葉山東キャンパス[宮城県]
東北大学にて、北京の建築家、王昀を招いて、レクチャーが行なわれた。日本に留学したときのアイデア・コンペを契機に始めた、建築と音楽、あるいは書を接続する実験的なフォルマリズムの探求が興味深い。もっとも、ただ理論で終わらせず、実際に1/1の模型としてパヴィリオンを大学構内に建設している。その手法は、いわば楽譜を図形とみなして、平面化するものだが、実際に三次元化するには、別の要素が必要だ。すなわち、高さ、比例、素材、大きさのたしかな感覚があるからこそ、建築化してもおかしくない。また派手な造形を好む中国では必ずしもすんなりとは受け入れられない、白いモダニズム的な自作に、自ら突っ込むスタイルの講演も新鮮だった。
2015/10/23(金)(五十嵐太郎)
島田陽《石切の住居》
[大阪府東大阪市]
竣工:2013年
東大阪にて、島田陽による石切の住居を見学する。彼はシンプルな家型の作品で知られているが、これは多様な素材を用い、いろいろなかたちを組み合わせた複雑な建築である。写真では大きい印象だったが、実際は親密なスケールであり、細かく上下のレベルを調整している。ポストモダン的でもあるが、自律的な記号操作で終わらず、周辺環境を読み込んだ空間として成立させる。
2015/10/22(木)(五十嵐太郎)
畑友洋《house K》
[兵庫県]
神戸・三宮近くの畑友洋が設計した元斜面の家へ。近代以降に造成を繰り返し、失われた傾斜の輪郭を大きな屋根がなぞり、仮想的に斜面を復元するプロジェクトだ。正面からは家型だけが見え、開口がなく閉じた印象だが、内部に入ると一転して、上下への見通しがダイナミックに展開する。古屋の解体時、基礎を一部残した下部の庭も興味深い。
2015/10/22(木)(五十嵐太郎)
小豆島来訪──ドットアーキテクツ《UmakiCamp》ほか
[香川県小豆島]
仙台から小豆島へ。朝の5時30分に出て、12時40分頃に到着する。前回の瀬戸内芸術祭で時間がなくなり、見逃した西沢立衛の曲げた大きな鉄板を組み合わせた葦田パビリオンや福武ハウスを見学する。アートのような建築だが、人々のふるまいを誘発する空間をもっていた。島田陽が手がけた公衆トイレは、きれいに維持されており、感心する。ドットアーキテクツが手がけたUmakiCampへ。300万円の材料費で、セルフビルドを行なったものであり、そこから逆算して、構造や工法、ディテールを決定している。自主建設だが、昔のような閉鎖的な砦とはならず、開放的な空間として地域の開かれたコミュニティになるところが現代的だ。また隣には、新しく森田一弥によるカマド小屋も増えていた。続いて、前に訪れたときはなかった美井戸(ビート)神社を見学する。ヤノベケンジ×ビートたけしの作品《ANGER from the Bottom》の上に、ジャッキアップで高さを調整できる大きな切妻平入の屋根が出現した。その造形は、弥生や神明造へのレファレンスだという。そして坂手港から出発したジャンボフェリーに乗船すると、その頂部にトらやんの彫刻が載っていた。
写真:左=上から、葦田パビリオン、福武ハウス、島田陽《おおきな曲面のある小屋(公衆トイレ)》、UmakiCamp、森田一弥《カマド小屋》 右=上から、ANGER from the Bottom、美井戸(ビート)神社、ヤノベケンジ《ジャンボ・トらやん》
2015/10/21(水)(五十嵐太郎)