artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
「境界」高山明+小泉明郎 展
会期:2015/07/31~2015/10/12
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
住友文彦がキュレーションした「境界」展@メゾンエルメス。説明はわずかで読み解く展示である。前半の高山明は、福島の希望の牧場、あるいは牛と猿仮面の牛飼いが無人の波江町を歩く映像を提示し、人間と動物/人工と自然の境界を示す。そして、300年前の技術が記憶されたバッハ「羊は安らかに草を食み」を弾く子どもの映像を間奏曲とし、後半へ。今度は小泉明郎が記憶の問題を扱う。事故で記憶障害になった男が、サリン事件も彷彿させる日中戦争時の加害エピソードを暗誦するが、苦しみながら反芻し、やがて記憶が消えていく。短時間に圧縮したそれはわれわれや社会の忘却の構造と似ていよう。男の脳内のようなもうひとつの映像と対になっていた。
2015/09/12(土)(五十嵐太郎)
アロリー・ゴエルジェ&アントワンヌ・ドゥフォール「GERMINAL─ジェルミナル」
会期:2015/09/11~2015/09/13
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ[神奈川県]
思想、情報、メディア論を横断するフランス/ベルギーのユニットによる舞台である。最初は暗闇だけだ。そして、呼吸するような照明。創世記のように世界が始まり、続いて四名の男女がモノリスに触れた猿のように、コミュニケーションの手段をゼロからつくり出す。彼らは試行錯誤しながら、それを発達させ、世界をカテゴリー化していく。通常はあまり活用されない床の使い方がとても斬新な演出だった。
2015/09/11(金)(五十嵐太郎)
SALHAUS建築展「共有される風景」
会期:2015/08/21~2012/09/16
プリズミックギャラリー[東京都]
プリズミックギャラリーに寄って、SALHAUS建築展「共有される風景」へ。陸前高田の学校、旅館の改修、住宅のプロジェクトなど、どれもいい仕事をしているが、せっかくの展覧会なので、強いメッセージを出せる機会になればと思う。美術の展覧会のように、キュレーターがいるといいのかもしれない。
2015/09/11(金)(五十嵐太郎)
勅使川原三郎「ミズトイノリ─water angel」
会期:2015/09/05~2015/09/10
KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ[神奈川県]
勅使川原三郎「ミズトイノリ」@KAAT。「ハリー」と同様、モノとしての舞台美術はないが、暗闇を切り裂き、空間をつくる光=照明効果の見事なことに感心させられる。そこに4名のダンサーが緩急に富んだ動きで、時間の流れを変えるように舞い、水のイメージを紡ぎ出す。勅使川原が演出する、あいちトリエンナーレ2016のオペラが楽しみになった。
2015/09/08(火)(五十嵐太郎)
野火 Fires on the Plain
「野火」は大岡昇平の原作だが、まさに塚本晋也の映画だった。もはや誰が敵なのか不明な日本軍の混乱、極限下に置かれた人間、そして、残酷な自然環境が執拗に描かれる。改めて、なぜいままで日本にこういう「戦争」映画がなかったのか?極限下における人間の行為を描く小林よしのりの新作『卑怯者の島』にも近い態度だが、むしろ塚本は喰うことをめぐる本能的な生存の闘いと人間性の境界に焦点をあてる。
2015/09/06(日)(五十嵐太郎)