artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
標的の村
フォーラム仙台にて、ドキュメンタリー映画『標的の村』を見る。オスプレイ配備や高江のヘリパッド建設に対する反対運動を記録したものだが、衝撃的だった。特に「国家」が、座り込みをした「住民」を訴えるSLAPP、すなわち威圧訴訟を行なったこと。しかも、現場にいなかった7歳の少女まで告訴されている。これは沖縄だけの問題ではない。もうひとつ衝撃的だったのは、ベトナム村である。1960年代の初頭、米軍が沖縄の高江にベトナム風の村をつくり、現地の住民にベトナム人の役をさせて、ベトナム戦争のための演習が行なわれた。それから約半世紀後、高江にヘリパッドが建設される。『標的の村』のラストは痛々しい。日本における米軍基地をめぐる反対運動だが、現場では、座り込みを行なう沖縄県民と、やはり沖縄県民であり、排除を行なう警察が激しく争う。SLAPP裁判の流れも、少しずつ訴訟から解放しながら、高江の村民を分断させようとする方向に動いていく。
2014/01/22(水)(五十嵐太郎)
大脱出
映画『大脱出』を見る。密室殺人事件と同様、脱出不可能な監獄という建築的なテーマに興味を持ったからだ。本当にガラス張りの透明なセル=監房の分散配置、移動する場所なき監獄というアイデア自体は、決して目新しいものではなく、古典的でさえあるが、やはり映像としてベタでも可視化されると盛り上がる。ただ、実際の運用があまり完璧な監獄に見えないのと、最後の脱出が、さほど建築的な手法でないのは残念だった。
2014/01/19(日)(五十嵐太郎)
武蔵野美術大学建築学科建築祭2014 第一部 第10回芦原義信賞・竹山実賞 表彰式
武蔵野美術大学 8号館308講義室[東京都]
武蔵野美術大学にて、審査委員長を担当した芦原義信賞(建築の卒業生を対象とする)の授賞式に出席した。第10回では、伊坂道子と鈴木紀慶が受賞した。この日は、いつも卒業設計や修士設計の展示が行なわれている時期で、上下の同窓生がつながるいい機会になっている。全学でも修了制作展を開催中で、とにかく美大はにぎやかだ。以下に総評を抜粋する。「今回は伊坂道子と鈴木紀慶が著作を軸とした業績で選ばれた。鈴木は住空間に関わる編集と執筆を長く継続し、特に『日本のインテリアデザイン史』は、これまでほとんど通史的に語られることがなかったインテリアデザインの分野にとって画期的な本である。……また伊坂は増上寺旧境内の調査と景観の保存活動を粘り強く手がけ、博士論文をもとにした研究書を刊行した。二名とも以前から芦原賞に応募していただいたが、2013年はそれぞれにメルクマールとなる仕事を成し遂げ、今回が受賞すべき絶好のタイミングだと思われる」。
2014/01/18(土)(五十嵐太郎)
第29回梓会出版文化賞 贈呈式
日本出版クラブ会館[東京都]
日本出版クラブ会館で行なわれた第29回梓会出版文化賞の贈呈式に出席した。出版社の活動を顕彰するもので、上野千鶴子、斎藤美奈子、外岡秀俊、竹内薫らとともに審査を担当した。梓会出版文化賞は童心社、同特別賞は赤々舎と深夜叢書社。今年は五十嵐が全体の講評を担当したので、以下にアートとも関わりをもつ童心社と赤々舎の部分を抜粋する。「童心社は、1957年に創立し、長きにわたり、児童図書、紙芝居、絵本を出版してきました。ネットの時代において、本でしかできない手と紙のインターフェイスを大事にしています。……注目されたのは、アーサー・ビナード『さがしています』と、日・中・韓平和絵本のシリーズ。前者は時計や軍手など、広島で被爆したモノたちが失われたものを探すというユニークな語り口の本。また太平洋戦争をテーマとする三か国共同出版の後者は、それぞれの言語で刊行する企画で、絵本史上初の試み」。「赤々舎はまだ若い出版社ですが、すでに写真集を中心に、現代美術に関して存在感のある本を刊行してきました。志賀理江子による二冊の本と、大竹昭子の『NY1980』は、写真家がなぜ撮るのかというテキストと、写真集が組合わさったものです。海辺の集落に移住した後、津波で被災した志賀は……仙台の個展で奇蹟的な写真の空間を実現しました。一般的に展覧会の書籍化は難しいですが、地霊に触れた自身の経験と思考を搾りだすように語る写真論としての本と、大判の写真集に収められ、新しい命が与えられました。さらにネットにはできない良質のブックデザインが、希有な本に輝きを与えています」。
2014/01/16(木)(五十嵐太郎)
設計のプロセス展/PLOT: process of design
会期:2013/11/23~2014/02/11
GA Gallery[東京都]
久しぶりにGAギャラリーを訪れ、「設計のプロセス」展を見る。藤村龍至が、あいちトリエンナーレ2013において展開したあいちプロジェクトの2系統の最終統合版が展示されていた。昔のGAギャラリーはオブジェみたいな模型と、外国人建築家のデータ打ち出しの展示だけで、会場に足を運ばなくても、それらを紹介するGAの雑誌を読めば済むと思うことがたまにあったが、今回はプロセスの情報量が多くてよい。ここも変わったのか。
2014/01/14(火)(五十嵐太郎)