artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

大谷幸夫《千葉市美術館・中央区役所》ほか

[千葉県]

ダン・グレアム展以来だから、12年ぶりくらいに大谷幸夫の設計による《千葉市美術館・中央区役所》(1994)を訪れた。完成当初、旧川崎銀行千葉支店(1927)をまるごと、入れ子状に包みながら、近代建築を保存するダイナミックな鞘堂形式の空間が話題だったが、いま見ると、装飾的なポストモダンの残り香をあちこちに見出すことができる。流行が変わると、渦中の時代だと見えないものが、後から見えてくるのは興味深い。続いて、《千葉県立中央図書館》(1968)と、段差のある地形をいかしてホールをおさめる《千葉県文化会館》(1967)を見学した。いずれも大高正人のデザインである。特に前者は力強いフレームが空間を規定し、メタボリズム的な延長可能性も想像させるだろう。ともあれ、1960年代の建築が、いまも現役で使われており、好感がもてる。今後も長く残ってほしい建築だ。

写真:上=大谷幸夫《千葉市美術館・中央区役所》 中=大高正人《千葉県立中央図書館》 下=大高正人《千葉県文化会館》

2014/02/07(土)(五十嵐太郎)

鈴木博之先生逝去

鈴木博之先生が亡くなられたことを知る。もともと筆者は学部生のとき、鈴木先生の活動を知って、建築史と批評に興味をもつようになった。とりわけ、文学的な想像力を交えながら、装飾の豊かさに光を当て、近代への異なるまなざしをもった『建築の世紀末』と、前衛批判の『建築は兵士ではない』などの著作から、大きな影響を受けている。大学院では別の研究室に進んだが、その後も現代建築に関する翻訳や仕事、博士論文の書籍化を担当してもらった編集者の紹介など、いろいろとチャンスをいただき、お世話になった。ご冥福をお祈りする。

2014/02/06(木)(五十嵐太郎)

パリよ、永遠に

映画『パリよ、永遠に』(監督:フォルカー・シュレンドルフ)を見る。ナチスが占領していたパリから撤退する前に、オペラ座、ルーブル、エッフェル塔、駅や橋などを含む、有名建築を爆破せよというヒトラーの命令が出された。そこで、これを止めさせるべく、ホテルにいるドイツの将軍のもとにスウェーデンの総領事が訪れた。その二人の駆け引きの一夜を描いたものである。舞台となるホテルにも、ナポレオンの歴史的なエピソードが付随していたように、建築や都市は記憶を集積する空間の器だ。しかも、二人の会話は、まちは誰のものか、という問いかけをはらむ都市論にもなる。幸い、パリは破壊されずに、われわれが花の都を享受しているように、未来に生きているわれわれのものでもある。ところで、中東の人質事件を受けた日本の立ち振る舞いに、果たしてこのインテリジェンスはあったのだろうか?

2014/02/03(火)(五十嵐太郎)

永遠の0

映画『永遠の0』を見る。山崎貴の過去作『ALWAYS』などと同様、特撮/CGは見応えがあり、日本映画としてかなり頑張った作品だと思う(もっとすぐれた原作がつけば、本当に傑作がつくれるのでは)。が、物語の内容は、『ALWAYS』と同様、のれない。なるほど、内容は必ずしも好戦的ではないが、自己犠牲の美化ではある。そして、なぜ若者が絶望的な特攻を強要されたのかという当時の背景や社会が説明されないために、結局、不治の病にかかった現代の純愛物語(これも社会を描かない)のようだ。すなわち、死を避けられない特攻は、不治の病と同様、ロマンティックに涙を流させる装置であり、大ヒットするのもうなずける。もうひとつ気になったのは、歴史への態度である。戦時下を描いた最近の最高峰の歴史/小説であるローラン・ビネの『HHhH』と、エンタメの『永遠の0』を比較するのは申しわけないが、やはり歴史を遊んでいると思うのだ。つまり、現代の視点から都合のいいありそうな登場人物をつくり、作家が自分の意見を彼らに語らせ、過去を理想化するフィクションである。一方、『HHhH』は、プラハに送り込まれた二人の青年によるナチスの「野獣」ハイドリッヒの暗殺事件を描いたものだが、著者が歴史と葛藤しながら、著者の都合のいい想像を入れることを、いかに避けながら執筆するかを苦しみながら書いたものだ。歴史を扱うことに関して、頭が下がるような労作である。

2014/02/03(月)(五十嵐太郎)

TORAFU ARCHITECTS「ここをホッチキスでとめてください。」

会期:2014/01/17~2014/02/13

クリエイションギャラリーG8[東京都]

クリエイション・ギャラリーG8のトラフ展「ここをホッチキスでとめてください。」を見る。これまでのプロダクト、舞台美術、建築などの活動を多面的に紹介したものだ。小さな空間ながら、そこをさまよい、注意書きに従い、鑑賞者も能動的に参加しつつ、作品を1/1で体験するような遊びに満ちた仕掛けが満載である。奥のトイレにも作品が隠されている。展覧会のデザインにも、トラフの持ち味が充分に発揮されている。

2014/02/03(月)(五十嵐太郎)