artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

大英博物館 グレート・コート

[イギリス・ロンドン]

大英博物館へ。やはり、ノーマン・フォスターが手がけた、グレートコートの空間は素晴らしい。内部に入った瞬間、全方位的に直感で訴える。頭上で現代建築と古典建築が無理なく、ガラスの大屋根で接続され、目の前には開放的な広場が立ち現われる。おそらく専門的な知識がなくとも、一般の人にとっても強い印象を残す建築だ。グレートコートは、ルーヴル美術館におけるガラスのピラミッドと同様、中庭からそれぞれの展示エリアへの動線の処理にも役立つ。

2013/12/30(月)(五十嵐太郎)

テート・モダン

[イギリス・ロンドン]

テート・モダンへ。ヘルツォーク&ド・ムーロンによる増築工事もだいぶ進んでいた(論議があって、当初のデザインは変更されている)。それにしても、単体で現代建築が登場するのではなく、フォスターによるミレニアムブリッジによって、対岸のセントポールとつなぎ、都市計画、土木が連動できるのはうらやましい。常設は、テーマ別の展示で知られるが、前室のモネからリヒターによるケージ連作の部屋、あるいはターナーの絵からロスコのシーグラム壁画の部屋といった作品のシークエンスは鮮やかである。日本人の現代美術では、もの派(アルテ・ポーヴェラの部屋で)のほか、実験工房と、石内都の部屋を確認することができた。企画展のミラ・シェンデルが素晴らしい。抽象絵画をちょっとやわらかく、かわいくした感じで出発した後、文字を活用した作品、紙や半透明の素材を使う空間のインスタレーションなどを展開している。同じブラジルだと、リジア・クラークや建築のリナ・ボバルディらも、女性作家の幾何学表現に面白い人がいる。テートモダンでは、もうひとつクレーの企画展が開催されていた。1年、あるいは2年ごとに部屋を分け(全部で17部屋)、バウハウス、旅行、ナチスの台頭などの背景を受け、刻々と作風を変え、表現を実験していく作品の軌跡をたどる。訪れたときは巨大な吹抜けであるタービンホールでの展示はなかったが、ここでの巨大なインスタレーションを一度体験したい。

2013/12/29(日)(五十嵐太郎)

セント・ポール大聖堂、ザ・シャード

[イギリス・ロンドン]

ユーロスターでロンドンへ。イタリア→フランス→イギリスと離れるにつれ、古典主義のプロポーション感覚は少しずつ崩れていくのだが(震源地を正統とした場合。だから、日本やオーストラリアだとさらに変形)、クリストファー・レンのセント・ポールは本格的である。同時代に一目置かれていたことも、うなづけよう。2年前に訪れたときは建設中だったレンゾ・ピアノの超高層ビル、シャードが完成していた。ロンドンとしては圧倒的な高さなので、遠くからも尖った三角形のシルエットがよく映える。この感じは、平壌で見た柳京ホテルを思い出す。高層ビルが多いなかのひとつではなく、ひとつだけ抜きん出ているからだ。とはいえ、全体的にハイテク系建築は、ロンドンの古い街並みとなじんでいると思う(チャールズ皇太子はかつて非難したけど)。久しぶりにマイケル・ホプキンスのブラッケンハウスの前などを通りつつ、あちこちにスケールを小刻みに分節したガラスの現代建築が増えていることを改めて感じた。

写真:上から、《セント・ポール大聖堂》、レンゾ・ピアノ《ザ・シャード》、マイケル・ホプキンス《ブラッケンハウス》

2013/12/29(日)(五十嵐太郎)

エルジェ美術館

[ベルギー]

パリからベルギーへ日帰りを行なう。2009年にオープンした『タンタンの冒険』を描いた漫画家のエルジェ美術館を訪れる。4つのユニークなヴォリュームをブリッジで渡りながら、展示を鑑賞する空間だった。クリスチャン・ド・ポルザンパルクの設計だが、ルーヴル・ランスを見た直後だと、彫刻的な形態の組み合わせを競ったポストモダン的な時代の懐かしさを感じる。1929年にスタートした『タンタンの冒険』の展示をいまの視点から鑑賞すると、世界各地を旅していることから、アジアを含む非西洋圏に対するイメージなどがうかがえて興味深い。バンドデシネの分野において緻密な建築描写で知られるスクイテンを輩出した国、ベルギーはブリッセルに漫画博物館や漫画を描いたまちなか壁画プロジェクトもあって、漫画の紹介に力を入れている。

2013/12/28(土)(五十嵐太郎)

ルーヴル・ランス

[フランス・パリ]

ルーヴル・ランスへ。SANAAの手法が随所に散りばめられているが、かつて炭鉱で栄えた町ゆえのボタ山が遠くに見えるまわりの環境との関係性、特に外構のランドスケープが美しい。ガラスとアルミに映り込む風景や常設展示室における壁の鏡面効果は、きわめて映像的であり、新しい空間が出現していた。壁と床の緩やかなカーブは空間に微妙なねじれをもたらす。ルーヴル・ランスの常設部屋は、時系列の年表バーを横の壁に提示しつつ、群島状の配置パターンで、数千年前から19世紀までの彫刻や絵画を展示している。こうして一覧すると、絵画より彫刻の方が先に進化した(写実性を基準とした場合)、あるいは長期的に残せると改めて思う(特に石の彫刻)。企画展では、チェルヴェテリに焦点をあて、エトルリアの文化を紹介する。墓が集積したネクロポリスが興味深い。ただし、ここは仮設壁が大量にできるため、どうしてもSANAAの繊細なデザインは消えてしまう。ヌーヴェルのケ・ブランリも、企画展エリアは常設と対照的に表現を抑えている。
美術館にてランスのアール・デコという本を購入したが、炭鉱で栄えていた頃、古典主義を崩したアール・デコが流行ったようで、実際に街歩きも楽しめる。特に駅舎がかわいらしいアール・デコだった。もっとも、駅には戦争の記憶を示すプレートと、ここから528人のユダヤ人がアウシュビッツに送られた記録を示すプレートもかけられている。

2013/12/27(金)(五十嵐太郎)